マイナス金利解除!金利はどこまで上がる?株価への影響は?

日銀がマイナス金利を解除するということで、市場が賑わっています。
利上げとなると17年ぶりであり、いよいよ日銀の金融政策が正常化に向かうと見られています。

これが市場にどのような影響を与えるか、考えてみたいと思います。

金利引き上げの影響は?

金利を引き上げるということで、日銀の発表前にはそれを警戒して株価が下がるという動きが続いていましたが、ふたを開けてみるとむしろ株価は上がり、懸念された円高も起こらずむしろ円安が進みました。

なぜこのような動きになったかというと、1年前に植田総裁になった時点で、金融緩和推しだった黒田前総裁に比べると正常化の動きになるだろうということが織り込み済みだったことがあります。

しかし、金利を上げるといっても、-0.1~0%のところから0~0.1%にわずか0.1%上方修正したに過ぎず、預金金利で言うと0.0001%から0.02%に上がったという程度の話であり、与える影響はかなり限定的です。
また、植田総裁の発言にも、金利の低い状況は継続していくとあり、市場は安堵したと言えます。

マイナス金利の意味

そもそもなぜマイナス金利は導入されたのでしょうか。

簡単に言うと、デフレ脱却のためです。
当時、安倍総理と黒田総裁の”アベクロバズーカ”ということで、できることはすべてやるという勢いで行っていました。

ゼロ金利を経てマイナス金利の導入、ETFやREITの買い入れ、さらに量的緩和ということでどんどん市場にお金を流し、デフレを脱却しようとしました。

なぜデフレを脱却する必要があるのか?

デフレは経済にとって「悪」でしかありません。
物の価格が下がっていくので、物を買うのを後ろ倒しにした方が安くなり、物を買わないという動きになります。
さらに、預金を持っていれば物の価格が下がっていくので相対的にお金持ちになれるということになります。

出典:みずほリサーチ

1990年代後半から2013年頃にかけて、インフレ率が0を下回る期間が続きました。
この状況だと経済が成長しないので、まずはインフレに戻すことが絶対条件でした。

マイナス金利になると、安いものを借りて不動産やコモディティなどに投資して儲けようとする人々が出てきて、結果的に不動産価格の上昇やインフレをもたらすのが一般的ですが、日本ではなぜかその動きが起こらず、なかなかインフレになりませんでした。

 

しかし、2022年から2023年にかけて一気にインフレ率が上昇し、直近では4%にもなっています。

マイナス金利の弊害

金利がマイナスという状態は異常であり、植田総裁としては早く解消したいと思っていたと思います。

すぐにはインフレが起こらなかったとしても、ある瞬間に急激なインフレが起こる可能性があります。
あまりにも急なインフレが起こると、物の価格が一気に上がって、例えば預金や年金で暮らす高齢者は相対的に苦しくなってしまいます。
しかも日本には高齢者の比率が高く、割合的に苦しい人が多くなってしまいます。
これは政権にも混乱をもたらしてしまいます。

だからこそ植田総裁としては金融環境を正常化したかったところが大きかったのだろうと思います。

人々の生活には影響なし?

マイナス金利が人々の生活に直接影響していたというわけではなく、マイナス金利というのは普通の銀行が日銀にお金を預ける時に手数料を取られるという話なのです。
銀行は手元の預金が一定以上になると一部は日銀に預けなければならないという決まりがあり、銀行は現金を手元に置いておくのではなく、貸し出したり、有価証券を買ったりする必要がありました。
つまり、マイナス金利は銀行がお金を貸す後押しをして世の中にお金を流し、インフレを引き起こすための手としようとしていたのです。

しかし、個人や一般企業に対してマイナス金利が適用されるわけではないので、いわゆる「短プラ」と呼ばれる銀行から企業への貸し出しレートはマイナス金利になってからも変わっていないです。
よって、金利が-0.1%から0%になったところで、銀行から中小企業への貸し出しレートや住宅ローンの金利がすぐに上がるというわけではありません。

 

もちろん、今後さらに金利が上がるのだとしたら貸し出しレートにも影響してくると思われます。

金利はどこまで上がるか

アメリカのように3か月に一度0.25%ずつ上げていったら、今後住宅ローンなどの金利が大変なことになる、という言説を見かけましたが、現時点で日本がそれをやる必要性は無いと思います。

アメリカがなぜここまで金利を引き上げたかというと、インフレが収まらなかったからです。
結果的に5%まで上がっていきました。

 

一方で日本はこれまでどれだけ金利を下げてもインフレにならなかったので、逆に金利を上げてもインフレを抑えることにもなりませんし、抑えなければならないほどインフレになっていないという現状です。

 

では、金利をどこまで上げる必要があるのかというと、一つ考えるべきことはインフレ率との関係です。

今回、植田総裁が金融政策を正常化に向かわせると言った前提条件として、安定したインフレ率の2%が見込まれるからという話をしています。
直近でインフレ率が大きくなっているのは円安による影響が大きく、逆に言うと海外のインフレも一時的で、それが収まれば2%の水準にまで下がってきて、平均すると2%くらいに落ち着くのではないかということです。

賃金も安定して上がっていくようになると、物価もそれに従って上がっていくだろうと想定しているわけです。

実質金利

名目金利からインフレ率を引いたものが実質金利です。

この実質金利が重要で、基本的には名目金利の方がインフレ率よりも大きく、実質金利はプラスになると考えるのが一般的です。
なぜかというと、インフレ率の方が名目金利よりも高いということになると、預金でお金を預けているよりも、不動産や金などの「物」を持っていた方が有利ということになります。
そういう環境下では、いくら借金をしてでも不動産を買った方が得ということになり、これは一般的な金融環境下では投機的な状況を生みやすいということであまり受け入れられません。

インフレ率を見て、最終的な名目金利を決めるのが妥当なところです。

 

日本では経済状況があまり賑わっていないところも引き続きあるので、そこまで金利を上げる必要もなく、理論的に考えるならば名目金利はインフレ率くらいになればよく、インフレ率が2%くらいで落ち着くとすれば、金利も2%くらいが上限になるかと思われます。

今の長期金利が0.7%くらいで、この長期金利が最大で2%くらいだと思います。

株価上昇の理由

インフレ率が名目金利よりも大きくなって、実質金利がマイナスになると、不動産などの物に投資した方が基本的には有利ということになります。
今回株価が上がったことにもこの影響があると思っていて、植田総裁の「緩和的な金融環境は継続」と言っていて、何を以て”緩和的”とするかというと、要するに長期金利がインフレ率よりも低い(実質金利がマイナス)という話です。

実際に、2013年から2020年くらいまでは実質金利がマイナスの状態でした。

その間、日経平均株価は基本的に上昇して、現在も実質金利は大きくマイナスで、それだけの理由ではありませんが株価も上昇しています。

 

理論的に考えて、インフレに強い資産である株式などは実質金利がマイナスの状況下で上がりやすいと考えてよいと思います。

逆に、実質金利がマイナスの今はある意味で株のボーナス期間とも言えるかもしれません。

 

円安が示唆すること

FRBでも日本と同様に決定会合が開かれて、その中で、今回は金利は引き下げないという話がありました。
ただ、そこで注目されたのは、パウエル議長はどちらかというと金利は早期に引き下げたいというような趣旨の発言をしました。
今後アメリカが金利を引き下げることになると、日米の金利差が縮小し、これまで日米の金利差が大きいことで進んできたドル高円安が、逆にドル安円高の流れになるのではないかという見方が大半でした。

ところが、日本は金利を引き上げて、アメリカは金利を引き下げようとしていることが確認され、金利差は縮小しているにもかかわらず、為替はどちらかというと円安に動きました。

 

その理由として考えられるのは、日本もいよいよインフレが進んできて、海外の投資家としては日本も海外諸国から遅れて本格的にインフレになるのではないかと見ているのではないかと思われます。

これまでの金融緩和政策でどんどん流してきたお金が円の価値を引き下げ、さらに円安になる可能性も想定しておく必要もあると思います。

 

円安やインフレは日本政府も歓迎するところで、円安だと自民党が背景とする大企業は潤いますし、インフレになって税収が増えれば国の借金も返しやすくなります。
急速な円安は困る部分も多いですが、長期的な円安は財務省も嫌ってはいないのではないかと思います。

株式投資は資産防衛の手段

円安になるということは、「預金だけ」というのは一番良くない資産の置き場ということになります。
少なくともドルなどの海外資産を持つか、物価に応じて商品の価格を上げられる会社の株式や海外で強みを出せる企業の株式など、「良い株」を持っておくことが資産防衛になるのではないかと思います。

もっとも、どんな環境下においても素晴らしい企業というものは利益を稼いで、さらにその利益を再投資することでどんどん成長していくので、ある意味普遍的な投資のやり方だと思います。

 

今の環境下で株を持っておくということはリスクヘッジにもなりますし、一つの選択肢としてあり得ることだと思います。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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