バフェットが意識する「経済の堀」と買ってはいけない企業


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ウォーレン・バフェットが企業への投資の条件として掲げるのが「経済の堀」を持っていることです。抽象的な概念ですが、経済学の理論にも適っていて、長期的な価値を形成するには必要不可欠なものと考えられます。

「堀」とは他の会社に真似されない要因

「経済の堀」(economic moat)とは、皇居や大阪城のように、お城の周りにめぐらされたお堀をイメージするとよいでしょう。お城に入るためには堀を越えなければなりません。堀が広ければ広いほど、侵入を防ぐことができ、お城の守りはより強固なものになります。

これを現実の経済に置き換えると、堀は他の企業に取られたり真似されたりしないための要因と位置づけられます。

例えば、大手携帯キャリアは電波の割当を受けているため、今から他の会社が同じレベルで参入することは事実上困難であり、これが広い堀となって会社の価値を確固たるものにしています。

堀は、電波の割当のように実体のあるものだけではありません。アップル社は、洗練されたイメージ戦略により多くの消費者を虜にしています。このブランド力により、競合代謝がAndroidのスマートフォンで技術的に追いついたとしても、なおiPhoneをファンである消費者に売り続けることができるのです。

堀の広い企業は価値がどんどん増える

広い経済の堀を持つ企業は、競争を優位に進めることができます。買い手にとっては「その会社の製品じゃなければならない」ため、競合する製品より高い価格であっても売れます。結果的に高い利益率をあげることができ、その利益を再び堀の強化に充てれば、さらに競合との差は広がります。

このように、確かな堀を持つ企業では、利益を再投資することによる価値の自己増殖が起こります。バフェットが良い企業をずっと持っていた方がいいと言うのもこのメカニズムが一つの要因と考えられます。

経済の堀を持つ企業は、必然的に市場シェアも高まります。業界シェア1位の企業には何らかの堀があることがほとんどです。

この場合の「業界」の範囲は必ずしも「自動車」などの広い範囲ではなく、例えば「スポーツカー」など狭い範囲でも構いません。なぜなら、スポーツカーを欲しい人は普通の自動車が欲しいのではなく、高い価格を払ってでもスポーツカーを買うからです。

「他と違うこと」こそが利益の源泉

堀の考え方は、経済学の基本にも忠実です。経済学では、「あらゆる企業が同じ製品を作れるなら、超過利潤(最低限以上の利益)はゼロになる」という原則があります。要するに、他と同じことをしていても儲からなくなるということです。

企業が利益を出し続けるためには、他に真似されない状態を継続しなければなりません。その要因となるのが「経済の堀」であり、堀を探し続けることこそが企業の戦略だと言っても過言ではありません。既に広い堀を持っている企業は、今後も高い利益をあげ続けられるでしょう。

反対に、いくら頑張っても儲からないのが「他と同じものを作っている企業」です。このような企業のことを「コモディティ型企業」と呼び、なかなか利益が上がらないばかりか、規模拡大のための無駄な投資ばかりがかさんでしまいます。

先日取り上げたような鉄鋼会社もコモディティ型企業の例の一つと言えます。特に建設用の鉄鋼に関してはどこで作っても大きな違いがなかったため、中国企業の台頭により世界中の鉄鋼会社が利益の大半を失ってしまったのです。

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もちろん、完全なコモディティ型企業も、完全な経済の堀を持った企業も存在しません。しかし、企業を見るときは必ず「どっち寄りの企業か」を見極めることが長期の投資パフォーマンスを左右するのです。

イノベーションは堀を乗り越える。常に目を光らせること

ただし、どんなに素晴らしい「経済の堀」を持った企業でも、突然それがなくなってしまうことがあります。それがイノベーションです。例えるなら、堀を簡単に飛び越える飛行機が登場するようなものです。

ニコンやキヤノンなど、カメラメーカーはデジタルカメラで他社に負けない技術を有し、多くの利益をあげていました。当時は多くの投資家が今後も利益をあげ続けると考えたでしょう。

ところが、スマートフォンへのカメラ機能搭載で景色は一変します。日常の景色を撮影するくらいなら普段から持ち歩いているスマートフォンで撮影すれば十分なほどに技術が向上したため、人々はわざわざデジタルカメラを持ち歩かなくなります。その結果、ニコンやキヤノンの業績は停滞を余儀なくされているのです。

そのようなことがあるため、経済の堀を持っている企業も常に注意深く見ておく必要があります。もし、堀を飛び越える飛行機が現れたと思ったら、それまでの自分の判断を改めてでも、銘柄を売却しなければなりません。

長期投資と言っても、良い銘柄を呑気に持ち続ければいいというものではありません。バフェットがIBMを売却したように、競争優位は永遠には続かないのです。

私は本当の「永久保有銘柄」は、自分が経営する会社以外にはないと考えます。だからこそ、保有銘柄の周辺には常に目を光らせなければならないのです。

※本記事は会員向けレポートの一部を抜粋したものです。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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2 件のコメント

  • […] 彼の投資理念で非常に勉強になったのは「経済の堀」という概念。代替品が存在しない、その会社でしか製造できない製品を所有する企業は優位性を奪われることはない、と言う概念です(参考リンク)。例を挙げると、ザ コカ・コーラカンパニーやアップルですね。どちらもコーラやiPhoneなど他社には真似できない魅力的な製品・ブランドを作り上げており、かつバフェットの所有銘柄の一つです。 […]

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