小林製薬は今買うべき?そもそもどんな会社なのか、アナリストが徹底解説!

小林製薬は「紅麹コレステヘルプ」というサプリメントを摂取した方で5名が亡くなられたという報告が出ています。
このニュースを受けて小林製薬の株価は一時大きく下がったのですが、足元では逆に大きく上がっています。
小林製薬はNISAの買い付けランキングで上位に入っていて、注目が高まっています。

今回は、当社アナリストの佐々木と対談する形で小林製薬について深掘りしてみたいと思います。

紅麹サプリ問題

栫井:株価の話の前に、小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」の問題がどのようなものだったのか教えてください。

佐々木:このサプリメントを摂取した人から腎疾患などの健康被害が出ていることが一番の問題となっています。

栫井:特に”紅麹”が取り沙汰されていますが、紅麹がそもそも問題になっているんでしたっけ?

佐々木:実はそうとも言い切れなくて、小林製薬は生産した紅麹の8割を他社向けに出していて、小林製薬の紅麹を使用した他社製品において今のところ健康被害は出ていないので、紅麹ではなくこのサプリメント自体の問題である可能性が高いと考えられています。

”あったらいいな”をカタチにしてきた小林製薬

栫井:小林製薬にサプリメントのイメージはあまり無かったのですが、売り上げに占めるサプリメントの比率はどのくらいなのでしょうか。

佐々木:こちらが小林製薬の統合報告書です。

出典:小林製薬統合報告書

国内のカテゴリー別売上構成比を見ると、医薬品や消臭剤の割合が大きくなっています。サプリメントは「食品」のカテゴリーに入ると思われ、売上の6.3%となっています。

栫井:サプリメントは主力製品ではないということですね。

佐々木:その通りです。

栫井:今、株価が戻ってきているのは、サプリメントは主力製品ではないので影響は小さいと見られているからかもしれないですね。

佐々木:その可能性もありますね。

栫井:まだはっきりと言えるものではないとは思いますが、直接的にはどれくらいの実害が見込まれるのでしょうか?

佐々木:発表の段階では、回収費用や損害賠償などで18億円くらいを見込んでいるとのことでしたが、ここからさらに被害が拡大していくということになれば、具体的な数字はまだ判断できないと思います。

栫井:発表の18億円からある程度膨らんで100億円になったとしても、2022年の営業利益が228億円ということで、この問題自体が財務的には大きな問題ではないということですね。一方で考えられるのは風評被害ですよね。これだけ小林製薬の名前が報道されていると不買運動が起こったりする気がするのですが、小林製薬で一番売れている商品は何でしょうか?

佐々木:カテゴリーで言うと医薬品や消臭剤が主力となりますが、医薬品で具体的な商品名を挙げると、「のどぬ~るスプレー」「熱さまシート」「ハナノア」といったところになります。

栫井:みなさんお世話になっていることも多いかと思う商品ですが、名前の付け方が上手いですよね。

佐々木:そうですね。マーケティングが上手だなと感じます。

栫井:私も小林製薬はドラッグストアに置いてあるようなアイデア商品を多く出している印象があるのですが、近年の業績はどうなっているのでしょうか?

佐々木:実はあまり良くありません。

出典:マネックス証券

近年の業績を見てみると、大きく利益が伸びていた場面はあったのですが、そこからは横ばいという印象です。

栫井:2016年から2018年にかけて大きく利益が伸びていますがこれはなぜでしょうか?

佐々木:2016年12月期に関しては、その直前の決算期が2016年3月で、9か月分の数字になるので除外しますが、2017年12月期から2018年12月期の伸びは何なのかということですよね。

出典:マネックス証券

業績のグラフでは伸びているように見えますが、営業利益の成長率は14.7%ですし、利益率も14.62%から15.70%になっただけで、爆発的に伸びたかというとそういうわけではないという前提があります。その期間に何があったかというと、新商品が投入されて、それが売り上げに貢献したということになります。

栫井:なるほど。要するに安定しているということですかね?利益が急に上がっているように見えるということは、その前と後ろがきれいに横ばいなっているからであって、一度ヒットした商品がずっと売れ続けているのではないでしょうか。のどぬ~るスプレーや熱さまシートなんかは一度市場に投入すると受け入れられてみんなそのまま買い続けたという商品かなと思います。そういう意味では、伸びはそれほどないものの安定した企業と言えそうですね。

佐々木:その通りです。市場を見ると国内の売上の方が圧倒的に高くて、そう考えると国内の市場って良くも悪くも成熟市場なのでそのあたりの安定感はあると思います。

栫井:23.5%は海外の売上なんですね。海外にはどんな商品を投入しているんですか?

佐々木:国際事業の主力商品は、「カイロ」「熱さまシート」「アンメルツ」などとなっています。

栫井:日本で売られている商品を海外にも展開しているということですね。

佐々木:圧倒的に国内の売り上げが大きいですが、一部商品を世界でも売っているという状況です。

栫井:面白い会社だなという印象はありますね。ちなみに社長が小林さんですが、同族経営でしたっけ?

佐々木:株主構成を見ると、大株主が小林さんで、その方が社長です。

栫井:ちなみに私は同族経営が悪いとは思っていなくて、ちゃんとポリシーを持って経営しているのであればむしろ変にサラリーマン社長の会社よりも良いと思っています。小林製薬は『”あったらいいな”をカタチにする』のスローガンを実現してきた会社で、ここからは私の意見ですが、今回の紅麹サプリメントの事件は管理体制が行き届いていなかった可能性はあるにしても、少し不運な面は否めないと感じているのですが、佐々木さんはどう思いますか?

佐々木:そうですね、私は逆にこの『”あったらいいな”をカタチにする』のスローガンが認知の元となっている一方で、今回のように健康被害が出てしまうとこのスローガンも使いにくくなるのかなと。「あったらいいな」よりも「使わなきゃよかった」の認識が広がってネガティブな影響も大きいのではないかと思います。

栫井:サプリメントの分野は得意分野ではなかったと思うんですよね。基本的には体の外側に使う商品が多いと思います。それに対して”機能性食品”という体に摂取するという、得意分野ではないもののアイデアを形にするということで一つのジャンルとしてやってきたことが裏目に出た部分があったのかなという気がしています。

個人投資家に人気

栫井:株価の話に戻りますと、株価が落ちて、急回復しているのですがその要因はどう見ていますか?

佐々木:小林製薬の株主構成を見ると、個人投資家の割合が高いです。

出典:小林製薬

この下がったタイミングをチャンスだと思って個人投資家が買っているのかなと考えています。実際NISAで買われている銘柄ランキングで4位に入っているくらいなので、やはり個人投資家の注目が集まっているのではないかと思います。

栫井:個人向けの商品を作っている会社なのでなじみも深く、元々個人投資家から人気の銘柄だったと言えるのではないでしょうか。
もっと長期で株価を見たらどのようになっているでしょうか?

出典:マネックス証券

佐々木:右肩上がりでやってきて、2021年頃をピークに、今は下がってきているという状況です。

栫井:ピークの時にはPER51倍でかなり高かったんですね。なぜここまで人気化したのでしょうか?

佐々木:この時コロナがかなり流行っていた時期だったので、医薬品の需要が高まってそれに伴って小林製薬の株価も上がったんだと思います。

栫井:それでも業績はあまり伸びなかったんですね?

佐々木:この時も業績はおおむね横ばいで、業績には反映されなかったようですね。

栫井:何があっても基本的には跳ねることもないし、落ちることもない会社ということですね。それに対して、グラフ内の平均PERが32倍で、消費財系の安定した企業ってPERが高めの傾向があると考えると、今のPERが20倍ということで昔よりは安くなっているという感覚が私の中ではあります。多くの投資家が過去の数字を見て買いに入っているのかなという印象があります。

真相究明を待つべきか

栫井:佐々木さん的には小林製薬の問題はこの後どう展開していくと思いますか?

佐々木:そうですね、一番はこの問題の因果関係ですね。このサプリメントが本当に悪かったのかという部分の解像度が上がってこないと何とも言えないと思っています。亡くなられた方については、ある程度年齢も高く、その他の病気もあったということなので、小林製薬のサプリメントとの関係性が解明されるにはやはり時間がかかると思いますし、小林製薬が悪かったということになった場合はかなり大変なことになると思います。

栫井:私の経験から言っても、不祥事を起こした銘柄って、落ちたから買うという人たちがけっこういるので、その瞬間上がったりもするんですよ。ただその後問題がより明らかになるにつれて「やっぱりだめだ」と多くの投資家が売って、結果どうしようもないくらいの下落になることがあるので、今出ている情報からすると、今参入するのは危険だと思っています。どうせ買うならもっとボロボロに売られた状況に買った方が中・長期的には面白みがあると思います。短期でのリバウンドを見込むのでなければまだ参入するのは早いかなと。私もかつて不祥事系の銘柄に手を出して、一瞬ぬか喜びしたんですけど、その後大きなニュースが出た時にストップ安になったので、そういう危険性があるということは皆さんにも知っていてほしいです。

そもそも投資したい企業かどうかを考える

栫井:小林製薬について、佐々木さんから皆さんに伝えたいことはありますか?

佐々木:不祥事が無かったとして、そもそもこの会社はどうだったかを一度見ておくべきかと思います。

出典:小林製薬決算説明会資料

これは2023年~2025年の営業利益の成長予想ですが、年間0.1%以上という程度のもので、インバウンドを含んだとしても1%くらいの成長率を目標として掲げていて、私の意見としてはそもそも成長に対しての確度が高い会社ではないようです、一方で配当利回りがそこまで良いというわけでもないので、正直なところ、投資の魅力があまり感じられません。

栫井:そうですね、買うのであればすごい成長するか、安定している分配当が良いか、どちらかを見込むのが良いと思いますが、小林製薬に関しては元々どちらにもあまり当てはまっていないと感じます。株主優待に関してはどうですか?

佐々木:100株以上持っていれば、5,000円相当の自社製品詰め合わせセット、通販で10%割引、といったものがあり、もらって悪い気はしないけどこれを目的に投資するのはどうかと個人的には思います。

栫井:株主優待が年2回ですし、使う人にとってはおいしい部分もあって、だから株価が少し高かったのかなという気も少ししますが、これを目的に買って痛い目を見るのは望ましい姿ではないですね。

まだ分からないことが非常に多いので今後も様子を見守りたいと思いますし、少なくともまだ中・長期の観点では手を出すようなタイミングではないと感じています。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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