【キヤノン】4年ぶり営業減益で株価大幅下落!買える?

今回は直近で株価が下がったキヤノンについてです。

コロナ後は株価が回復してきましたが、このまま好調でいられるのでしょうか。
改めて、キヤノンがどんな会社でどのような状況にあるかを解説します。

株価大幅下落のワケ

キヤノンは12月決算なので、直近の4月24日に2024年第1四半期の決算が発表されました。

出典:キヤノン

売上高は前年と比べてなんとか+1.8%となりましたが、営業利益は-5.2%となっていて、通期の予想が増益予想だったことに対し、第1四半期がマイナスというネガティブサプライズとなり、株価を押し下げる要因となっています。

出典:Google

決算発表翌日には株価が8.42%下落し、年初からの上昇を帳消しにしたような形です。

カメラ・プリンターの衰退

キヤノンはご存知の通りプリンターやカメラの会社ですが、一時は世界でトップシェアを誇りましたが、ここ数年は冴えない状況が続いていました。

デジタル化で、プリンターでわざわざ印刷しなくてもタブレット等で済むようになりましたし、資源的な面でもプリンターの需要が減ってしまいました。
カメラに関しても、スマートフォンのカメラ性能が向上し、よほど好きな人以外はデジタルカメラや一眼レフカメラなどを持たなくなりました。

出典:マネックス証券

業績は、リーマンショックで落ち込んでからあまり回復することなく横ばいで推移してきました。
コロナ禍で大底を打った時と比べると回復し、決算資料などでは「成長に舵を切った」とありますが、コロナ前の2018年頃の水準に戻っただけと見ることもできます。

要するに、長期に渡って成長していない会社と言えます。

出典:マネックス証券

その原因はセグメントの構成から読み取れます。
プリンターや複合機の「プリンティング」が55.0%、カメラの「イメージング」が20.3%、利益でも構成比でプリンターが約6割、カメラが約4割となっていて(セグメント外で-22.9%となっていて一概には言えないですが)、やはりプリンターとカメラから利益をあげていることは間違いありません。

「メディカル」は東芝から事業買収したもの、「インダストリアル」は半導体露光装置などを作っているところです。

プリンターとカメラが伸びてこない以上、苦しい業績が続いています。

 

コロナ禍の大底の業績や株価からすると大きく伸びていますが、実力値としては疑問があります。
というのも、この1年くらい円安が続いていて、製造業で海外に進出しているキヤノンにとって円安が大きなプラスになることは間違いありません。

出典:キヤノン

昨年の営業利益は増益となっていますが、内訳を見ると円安による影響がおよそ+600億円となっていて、これを除くと営業利益としてはマイナスになっていたという業績です。

つまり、キヤノンは一見もう一度成長軌道に乗ったかのように見えますが、為替を除けば右肩下がりの状況がまだ続いているのではないかと見えます。

これはキヤノンが手掛けている複合機業界の推移ですが、2014年~2018年あたりをピークに右肩下がりとなっていて、もちろんコロナ禍からの反動増のようなものはありますが、趨勢としては右肩下がりと言えます。

出典:デジタルカメライフ

デジタルカメラについても、ピークの2008年からすると2019年時点で半分になっています。

 

プリンターとデジタルカメラが両方ピークに差し掛かったタイミングというのがキヤノンの全盛期で、そこからは衰退しています。

出典:キヤノン

今期の減益の理由としてキヤノンはこう説明していますが、”世界経済の成長鈍化”が本当なのか疑問があります。
2024年1月~3月に景気が悪かったという話はあまり聞こえてこず、ヨーロッパは少し厳しかったかもしれませんが、アメリカはむしろ好調が続いている状況かと思います。

成長戦略は?

もっとも、衰退する業界を見過ごしているわけではなく、カメラやプリンターの市場は伸びない中でも利益率を改善させようとしつつ、半導体露光装置メディカルの部分で成長しようとしています。

出典:キヤノン

個人的な印象としては、これでは物足りないと感じています。

2016年に東芝メディカルを買収していなければもっと悲惨なことになっていたでしょうからその点は良かったのですが、一方でメディカルとキヤノン本体の融合は進んでいない部分もあります。

半導体露光装置で成長なるか

何より、「インダストリアル」の分野が重要です。

今世界では半導体の製造装置が盛り上がっています。
実はキヤノンも半導体に関しては元々強い力を持っていました。
それが半導体露光装置で、この分野を、キヤノンとニコン、そしてオランダのASMLの3社がほぼ独占して行っています。
回路が細かくなっていく中で、極端紫外線(EUV)を使った露光装置を開発しようと各社取り組んでいましたが、結果的に開発に成功したのはオランダのASMLだけという形になりました。

出典:日経ビジネス

その結果、露光装置のシェア(金額ベース)は、ASMLが92.8%と圧倒してしまいました。

ASMLが国を挙げて開発を行っていたのに対し、キヤノンやニコンは2009年頃はデジカメや複合機が全盛期で、あえて半導体開発をやらなくても儲けられる事業があり、EUVからは撤退しましたが、今となってはそれが仇となりました。

しかし、キヤノンも手をこまねいているわけではなく、難しい技術を要する露光装置を扱える企業の一角として開発を行い、EUV露光装置と比べて消費電力が小さいものを作ったりしています。
今EUV光を使っているところをキヤノンの技術に置き換えることは他の技術とのすり合わせもあり難しいと思いますが、コストを抑えるためにキヤノンの露光装置を採用するといった話もあるようです。

成長は見込めない前提で考えるべし

ただ、難しい開発を行う際には顧客のニーズを捉え、一緒に開発を行うべきだと思いますが、果たして今のキヤノンにそれを行う意気込みと能力があるのか、私は疑問に思っています。
キヤノンの資料でも、半導体露光装置に力を注いでいるようには見えず、なおカメラやプリンターが主力事業であるような書き方となっています。
これだと正直成長企業としては物足りないと言わざるを得ません。
半導体露光装置はうまくやれば大きく成長する分野なので、ここに社運をかけるくらいの意気込みが必要かと思いますが、キヤノンとしてはそういう状況にはないようです。

 

以上のことから、成長性という観点では現時点では期待しにくい会社と言えます。

今期は増益予想にはなってはいますが、成長軌道に戻ったかというと疑問があり、もっとドラスティックに会社を変えていく必要があると思いますが、危機感もそれほど持っていないように見えます。
近年の売上や利益の向上もほとんどが円安によるものです。

もちろん、キヤノンがこれから成長に大きく舵を切る可能性もありますが、現時点ではその兆候は見られません。

 

プリンターやカメラも急速に無くなるわけではありませんし、キヤノンとしても寡占市場の中で利益を取ってきていて、配当利回りの3.38%と高めなので、そういう意味では悪い企業ではないですし、少なくとも財務状況は決して悪くありません。

ただ、成長性に期待する状況ではないということを認識した上で、投資判断を行っていただければと思います。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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