日清食品HDの株価が年初から20%下落しています。
出典:株探
今回は日清食品の現状を分析し、株価が下落している理由と今後の成長性を考えます。現在の株価下落は投資チャンスなのでしょうか?
海外が牽引役となり業績は好調
日清食品(以下、日清)はインスタント食品グループ、即席めん最大手の企業です。
それ以外にも、カップライスや冷凍・チルド食品、お菓子などを取り扱っています。
出典:企業HP
日清ブランドに加えて、関連会社として明星食品やポテトチップスの小池屋なども傘下にあります。
日清の業績は好調です
出典:マネックス証券
24年3月期の売上高は7,300億円、営業利益733億円で過去最高です。25年3月期の業績予想は7800億円、営業利益760億円で連続で過去最高を更新する見込みです。
売上を地域、商品別に分解してみます。
出典:決算短信より作成
最大の市場は日本ですが、近年の成長源は国内の非即席めん事業、さらに海外事業です。利益推移を見ると、この特徴がより鮮明になります。
出典:決算短信より作成
やはり、海外事業の成長が目立ちます。これを詳しく説明すると以下のようになります。
出典:24年3月期 決算説明資料
24年3月期は国内の低温・飲料事業、菓子事業の利益がほぼ倍に成長しました。
乳酸菌飲料「ピルクル」シリーズや「十勝 飲むヨーグルト」などが好調でした。子会社の小池屋なども販売拡大と価格改定があり業績に貢献しました。これが非即席めんの好調の内容です。
海外事業を見ると、その約半分は米国で稼いでいることがわかります。米国では若者向けのマーケティング施策に注力しました。高付加価値商品の販売増加と価格改定で増収増益を達成しています。米国地域の営業利益は前年比+90億円(前年比72%増、うち為替影響9億円)の215億円となりました。
まとめると、日清の好調の理由は「米国など海外で、利益率の高い商品が売れているため」
このように言えます。
では、次は視点を広げて、競合他社や市場はどうなっているのかを見てみましょう。
日清の主力市場はやや弱い?
まず、日清にとって重要な市場である日本の動向です。即席めんの市場は横ばいです。しかし、人口減少の影響から、中長期的に需要は縮小していく見込みです。
出典:世界ラーメン協会より作成
世界における日本の市場の大きさはどうでしょうか?
出典:世界ラーメン協会より作成
アジア市場は大きいのですが、日本の市場は決して大きいわけではありません。日清の成長を支えている米国市場は日本に次ぐ世界6番目の市場です。世界的に見れば、日清が得意な市場の規模は決して大きくはありません。
では競合他社の状況はどうでしょうか?2022年の世界市場シェアをみてみましょう。
出典:ディーゼルラボ
世界シェアトップはインドネシアの企業であるインドフード、2位は中国の康師傅(カンシーフー)、そして世界3位に日清食品です。
日系企業では、5位に東洋水産、7位にサンヨー食品がつけています。
日系3社の海外状況をみると、日清は米国・中国を中心にメキシコ、ブラジル、インド、タイ、ベトナム、ハンガリーなどに製造拠点を持っています。この多くの市場へ展開していることが特徴の一つです。
東洋水産の特徴は売上は日清に及ばないものの、米国・メキシコでトップシェアです。近年はブラジル、インドでも販売を強化しています。
サンヨー食品の特徴は、中国大手の康師傅に資本参加していることから中国の展開力はやや優位性があります。
現状をまとめます。
・日清食品は米国などの海外事業を中心に利益成長している
・しかし主力の日本・米国市場は世界的には大きくはなく、特に日本は中長期的に縮小する見込みである
・世界最大市場のアジア圏には、強力な地元企業が存在している
これを踏まえて、日清食品が今後どのような戦略をとるのか解説します。
今後の成長戦略
財務目標は2030年までに売上収益1兆円、営業利益1,000億円、時価総額2兆円を掲げています。
(25年3月期 売上予想7800億円、営業利益予想760億円、24年5月29日 時価総額1兆2,200億円)
出典:24年3月期 決算説明資料
その具体性的な戦略は
- 国内即席めん事業:カップヌードルなどのシェア拡大と健康志向商品などの高付加価値商品の強化
- 非即席めん事業:乳製品などの新製品の拡充と小池屋における新工場稼働などで製造ライン拡充
- 海外事業:米国における新工場の拡大、中国における更なるマーケットの拡大、アジアにおける他社と差別化した付加価値商品の育成
こういった戦略で財務目標を達成するとしています。とはいえ、やはりカギを握るのは海外の動向です。
出典:24年3月期 決算説明資料
日清は現地ニーズを商品に還元することで海外展開を成功させてきました。例えば欧米では麺をすすらないため麺を短くしたり、タイにおいて食べ応えを重視するために長い麺にするなど商品開発に工夫しています。
今後の米国のポイントは主力ターゲットである若者にプレミアム商品を売り込めるか?です。SNSなどを活用しながら若者に向けたマーケティングを強化し、彼らのニーズを捉えることで海外における成長を目指します。
出典:グローバルブランド戦略
日清の基本的な戦略は高付加価値商品の販売です。そこで高い所得水準である米国地域や、今後所得向上が見込まれるアジア地域の販売を強化することで、成長に挑戦します。
株価が下落する理由
以上のように市場におけるライバルは存在していながらも、今後の成長に向けて策を打っています。2022年など、原材料高などの影響で一時的に業績が落ち込む場面がありましたが、現状は悪くありません。
しかし、株価は下落しています。それはなぜでしょうか?
1つ考えられるのは、「事業は成長はしているが市場の期待には届いていない」可能性です。
23年3月期3Qの決算を受けて大きく株価が下落しています。これは23年3月期2Q時点で上方修正があり、3Qにおいてもその期待があったように思います。結果的には営業利益のレンジ目標の下限である735億円にわずかに届きませんでした。(実績733億円)そして通期決算で発表された24年度決算は、増収増益予想でありながらも、コンセンサスを下回りました。こういった状況が、株価下落を招いていると考えます。
したがって、業績は悪くないだけに割安感があると言えるでしょう。過去10年の平均PERは約30倍です。24年1月時点のPERは28倍でしたが、24年5月時点の25年3月利益予想を基準としたPERは約22倍です。日本の市場が中長期的に衰退するだけに、海外で強力なライバルとシェアを競う必要があります。今後の成長ポイントは、やはり米国やアジア市場においていかに成長できるか?です。長期投資の観点では、ここを信じられるかどうかが一つの論点だと思います。
また、2024年の1月1日に1:3の割合で株式分割を行いました。株価は15,000円から5,000円となり、NISA開設に伴って最低投資額を引き下げることで投資しやすくなりました。
この株式分割に伴って株主優待も変更されています。
100株以上保有すれば1,000円分の日清製品をプレゼント、300株で3,000円分、900株で6,000円分、3,000株以上で7,500円と、保有株数に応じて株主優待をもらえます。(100〜300株は年1回、900株〜は年2回)この株主優待も投資の一つの楽しみとなるかもしれません。
今回の分析を参考に投資判断をしてください。
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執筆者
佐々木 悠(ささき はるか)
つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。
プレゼント①『株式市場の敗者になる前に読む本』
プレゼント②『企業分析による長期投資マスター講座』第一章
プレゼント③『YouTubeプレゼン資料』
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