東武鉄道の株価が4月から下落しています。
出典:株探
株価は4,000円前後から現在は2,700円前後まで下落しています。約30%近く株価が暴落しています。今回は東武鉄道の現状を分析し、今後の成長性と投資して良いのかを考えます。
私鉄業界のビジネスモデル
東武鉄道は東京、千葉、埼玉、栃木、群馬に鉄道路線網を構築しています。浅草や池袋を中心に、主に通勤・通学・観光輸送の役割を担っています。
東武スカイツリーライン・伊勢崎線、日光線、及び東武アーバンパークライン(野田線)などが主たる路線です。
出典:東武鉄道ホームページ
東武鉄道は輸送人員で私鉄2位です。売上の規模は競合他社に劣りますが、営業利益率では競合他社よりも悪くはありません。
日本の私鉄のビジネスモデルはどこも似ています。
自社のターミナル駅から、郊外に沿線を伸ばし、住宅・都市開発で住民を増やす、そして郊外からターミナル駅に通勤通学させることで、沿線人口増と鉄道収入獲得を目指してきました。東急は渋谷〜横浜エリア、小田急は新宿、西武は池袋〜埼玉エリアなど、それぞれのエリアを開拓することでビジネスを行っています。
しかし、従来のビジネスモデルが徐々に成り立ちにくくなっています。郊外の沿線住民の高齢化と人口減少が起き、若い世代が都心に居住するようになりました。さらに、コロナによる電車通勤需要の減少もあり、鉄道収入以外の収益源の獲得が重要性をましています。
そこで、私鉄各社は多角化を行っています。鉄道収入以外に、駅近くにスーパーや百貨店を構える流通、ホテルや旅行事業のレジャー・サービス、そして沿線地域の都市開発による不動産、こういった事業を行っているのです。
出典:各社決算短信より作成
東武鉄道って何している?
まずは業績の推移です。
出典:マネックス証券
売上は2003年(このグラフには記載されていません)に6,855億円がピークであり、その後ほぼ横ばいです。しかし、営業利益は直近の2024年、738億円が過去最高です。
まず売上を事業ごとに分解してみます。
電車、バス・タクシー事業に加え、東京スカイツリー、東武ストアなどがあります。
東武鉄道の強みは、観光スポットである東京スカイツリーを運営していること、さらにその周辺の施設であるソラマチなどを抱えていることです。また、池袋などに東武百貨店を展開し、駅近くにはスーパーマーケットの東武ストアを展開しています。
事業ごとの売上推移を見てみます。
出典:決算短信より作成
運輸事業はほぼ横ばいです。代わりに好調なのがレジャー事業、しかし流通事業はやや縮小しており、全体的には横ばいです。
過去最高を達成した営業利益はどうでしょうか?
出典:決算短信より作成
コロナ禍で大きなダメージを受けましたが、現在は回復中です。
コロナ前と比べると、運輸事業の利益はやや縮小しているものの、こちらもレジャー事業が好調です。レジャー事業ではスカイツリー業に加えてホテルや旅行・遊園地業も行っていますから、人流の回復による恩恵を受けていると言えるでしょう。
まとめると、
- 東武鉄道の祖業である運輸業は横ばい
- レジャー事業が人流の回復とともに成長中
- ホテルや各種レジャーはインバウンドの影響も受けている
このような現状と言えるでしょう。
東武鉄道が今後目指す姿
2024年5月15日に発表された、24年度から27年度までの中期経営計画を見てみましょう。
出典:決算説明資料
まず1つ目の「営業利益段階における非鉄道事業割合の増加」については、先に説明した従来のビジネスモデル(沿線強化+住宅供給)が成り立ちにくくなっていることが関係していると考えられます。そこで、インバウンド需要をより取り込むためにホテル事業(レジャー事業)への投資を拡大します。2028年以降のホテル開業に向けて、4年間で合計450億円以上の投資を行います。
それが2つ目の「観光需要を捉えた収益力強化」にもつながると言えるでしょう。観光の観点では、鍵を握るのは浅草〜スカイツリーエリアです。
出典:決算説明資料
具体的な内容は記載されていませんが、スカイツリー周辺の再開発を検討していることがわかります。このエリアに、新たなる観光・買い物エリアや、ホテル・分譲住宅などを建設する計画があるのかもしれません。
そして、中期経営計画の3つ目に記載されているのが「持続的な事業運営体制の確立」です。その内容は
- 鉄道・バスにおける自動運転の実現(28年度以降)
- QR乗車券の導入(2026年度目安)
- 目視点検作業をデジタル化(27年目安)
などです。デジタル技術を活用しながらコストを削減し、事業の持続性を高める狙いが読み取れます。
そして、こういった取り組みを行うことで、2027年に営業利益740億円(24年比+2億円)の目標を掲げています。
…正直、成長力が高いとは言えない目標です。
それは、目先の設備投資額が大きく増加しているからです。例えばレジャー事業における設備投資は24年3月期では100億円だったものが、今期は約310億円に増加します。総じて、中期経営計画の先にある成長に向けた投資フェーズにあるのです。
東武鉄道に投資するべきか
再度株価の動きを見てみましょう。
出典:株探
4月に入ってから株価が大きく下落しています。24年5月31日時点の予想PERは約13倍です。コロナ禍から回復した22年〜23年前後はPER約30倍前後で推移していました。一方で、コロナ前の15~19年のPERは20倍前後です。
4月からの株価下落について個人的な見解を述べます。それは人流の回復に伴って業績が拡大することに期待していた投資家が売り抜けているように見えます。22年から23年にかけて業績が拡大し、株価も長い目線で見れば右肩上がりでした。そして4月30日の決算発表では、24年3月期は過去最高の営業利益を達成したものの、25年3月期の営業利益見通しは16%減益予想です。
先に述べた投資コストに加え、今期好調だった旅行事業などレジャーが売上縮小見通しであること、さらに不動産事業における販売戸数の縮小が営業利益のマイナス要因となっています。つまり、目先の業績が必ずしも好調とは言い切れないことが、株価下落を招いている可能性があります。
では、今は買い時なのでしょうか?
ポイントになるのは、やはり長期的な目線で考えることです。この3年間では成長に向けたコストが増加する見込みですから、目先の業績は厳しいかもしれません。バリュエーション上は割安と言えると思いますが、一方で期待感が大きいか?と言われると、そうとも言い切れません。
したがって、長い目線で東武の強みの一つである浅草〜スカイツリーエリアなどを、うまく開発し、収益力を確保できるかどうか?ここが投資のポイントになると考えます。もしも、あなたが投資を検討するならば、長い目線で投資するイメージを持つことをお勧めします。
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執筆者
佐々木 悠(ささき はるか)
つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。
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いつも、参考になる情報を拝読させて頂き有りがとうございます。
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近鉄の解説もお願いします! 私鉄株は何故こんなに急落が続くの?この先まだ下がる?今までが割高だったの?誰が売っているの?当分戻らないの?びっくりするいきなりの下げ幅に泣けてきます。まるでコロナ禍に戻ったかの株価です。
記事をお読みいただきありがとうございます!鉄道株を今後もチェックしていきたいと思います
情報提供の中身はまずまずです
惜しむらくは、銘柄のコード番号が書いてないこと
配当利回りが書いてないこと
くらいですね
成長株でない以上、PERはあまり意味がないです
MSCI除外についてはどう考えてます?