ピーター・リンチは1980年代を中心に活躍した有名なファンドマネージャーです。彼の「マゼラン・ファンド」は圧倒的な成績を収め、世界最大の規模に成長しました。その投資手法は基本に忠実であり、さらには彼自身が機関投資家でありながら「個人投資家こそ機関投資家に勝てる」と言っています。
「生の情報」で機関投資家に先んじる
彼の投資手法は、バフェットらと同様に徹底したファンダメンタル分析に尽きます。企業の利益や資産に注目し、あるべき価値よりも割安なものに投資して値上がりを待つものです。
ただし、著書では「テンバガーを探せ」としきりに言っていることから、多くのバリュー投資家よりも成長株寄りであることが読み取れます。バフェットと比べて売買頻度も高く、ずっと持ち続けるというよりも「ブームの兆し」を見つけることに重きを置いているようです。
そして、ブームの兆しを見つけることにおいては機関投資家よりも個人投資家の方が有利だと言うのです。
個人投資家は最前線の消費者であり、ある業界で働いている人はその分野の最先端の情報を手に入れることができます。そこで得られる情報は、どんなに優秀なアナリストやファンドマネージャーが調べるよりも鮮度の高いものです。
例えば、街で行列ができているドーナツ屋があったとすると、そこからブームの兆しを感じ取り、先回りして株を買うと言う具合です。現場の情報はどんな統計に現れるよりも速く、かつ間違いのないものと言えます。
もちろん、機関投資家のファンドマネージャーも一消費者ですから、同じことに気がつく可能性はあります。しかし、彼らが投資を開始するためには、証券会社からアナリストレポートを集め、上司を説得し、顧客のお叱りを受けないよう細心の注意を払わなければなりません。
そうこうしているうちに会社は成長し、株価はどんどん上昇します。多くの機関投資家が手を出す頃には、株価はすっかり上昇しきってしまい、あとは下がるだけということも少なくないのです。
投資決定のプロセスにおいて、機関投資家は超えるべきハードルが多くあります。大半のファンドマネージャーはサラリーマンですから、わざわざそのような面倒なプロセスを踏むよりは、すでに評価が確立している「優良銘柄」に投資することを好むのです。
一方の個人投資家は、面倒なプロセスを踏む必要はなく、自分がいいと思ったらすぐに投資することができます。そして、その投資がうまくいけば、成果は全て自分のものです。この機動性こそが、個人投資家にとって最大の強みとなるでしょう。
ストーリーを組み立てる
ただし、決して「行列を見たら投資しろ」と言っているわけではありません。気になったお店があればまず自分の検討リストに載せ、そこから開示情報などを見てよく調査する必要があります。
いくら調子の良さそうな企業でも、安売りしているだけだとすれば利益には結びつかないでしょう。企業を拡大するために実力以上の借入を行い、少しでもコケるとすぐに倒産してしまうような財務状態かも知れません。そのような問題がないかをチェックするのに、有価証券報告書は大いなる助けになります。
ビジネスモデルや財務状況に問題がないことを確認できれば、自分の目で見た「兆し」から今後どうなるかを想像し、「ストーリー」を組み立てます。ストーリーが成立した時の利益に対して現在の株価が大幅に割安であれば、その株を保有するのに十分な理由になります。
もちろん、そうやって買った銘柄がいつもうまくいくとは限りません。最初は全く思ったような動きにならないことも少なくないでしょう。それでも、何度か繰り返すうちにだんだん見えてくるものがあるはずです。生の情報から生まれる「ストーリー」は、自分だけが見ることができる金脈なのです。
機関投資家の後追いだけはしてはいけない
個人投資家が犯してはいけない最大のあやまちは、機関投資家の後追いをすることです。
大多数の機関投資家が動き出す頃には、すでに株価は上がり切っている可能性があります。株価が下落する際には、機関投資家は常にマーケットに張り付き、最新の情報と超速のコンピューターで浅い傷で逃げ出すことができますが、個人投資家はそれができません。つまり、最終的に「ババ」を引かされるのが、機関投資家の後追いをした個人投資家なのです。
ピーター・リンチは、最も避けるべき銘柄は「超人気業種の超人気企業」だと言っています。人気銘柄には多くの投資家が群がり、株価は必要以上に割高になっているものです。そこに後になって参戦しても、あとは誰かがババを引くのを待つだけのチキンレースになるでしょう。
投資に唯一の成功の道はありませんが、「多数派と違う道を行く」ことは、全ての成功した投資家が言っているように思います。古くからの格言でもある「人の行く裏に道あり花の山」は、場所や時代を越えて通じる投資の最大の教訓と言えるでしょう。
どんな経験も投資の糧になる
ここからは私の考えですが、投資で成功するかどうかは緻密な分析や高度な数学モデルではなく、街で見かける行列のような「気づき」にあると思います。行列を見たら「何がそんなにすごいのか」「誰が並んでいるのか」などの疑問を持つことが、気づきの第一歩なのです。
その気づきを得るためには、普段からアンテナを高くしておくのはもちろんのこと、その人がすでに持っている知識や経験も大きく影響すると考えます。インターネットを使ったことのない人がAmazonの成長性に気付くことはなかったでしょう。
人生経験も大きくものを言います。私も子供が生まれて初めてベビー用品にどんな種類があり、どこで売っているのかを知ることができました。投資においてはよほど偏った捉え方をしない限り、年齢を重ねた方が有利な見方ができると思います。
私自身がまだまだ若輩者ですから、これから様々な経験を踏んで投資に役立てていきたいと考えます。先日ニューヨークへ行ったのもその一環です。積極的に動くことで、年齢を補いたいと思います。
皆さまもぜひ気になる企業があれば教えてください。どんな経験も必ず投資で生かされると考えています。質問をいただければ、そこからの分析は私が力になれると自負します。皆さまの「集合知」を活用できれば、これほど素晴らしいことはありません。
【参考】ピーター・リンチの株で勝つ―アマの知恵でプロを出し抜け
※本記事は会員向けレポートの一部を抜粋したものです。
プレゼント①『株式市場の敗者になる前に読む本』
プレゼント②『企業分析による長期投資マスター講座』第一章
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栫井様
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