結局「佐川がヤマトに勝る要素」とは何なのか?

マネーボイスに寄稿した記事で、「佐川がヤマトに勝る要素」について言及が弱かったように思うので、改めて書きたいと思います。

「佐川」は「ヤマト」に勝てるのか?今年最大の大型上場(SGHD)のポイント=栫井駿介

記事にある通り、宅配業界では急増する需要をどうさばくかが大きな問題となっています。その上で、株主としては利益を出して欲しいのは言うまでもありません。

利益を増やすには「収入を増やす」「コストを下げる」かのどちらかしかありません。(「投資(M&A)する」という飛び道具はありますが。)

需要は増えているのですから、収入を増やすことは難しくありません。しかし、宅配業界の問題はいくら収入が増えたところで利益が増えないことです。荷物量の急増に伴う配達員の負担は限界に達し、「働き方改革」もあいまって、配達する荷物が1個増えたところで利益はほとんど増えないという状況になっています。

この問題を解決するには、荷物1個あたりの収入を増やす、すなわち値上げするしかありません。これまで価格を据え置いてきたヤマトもようやく重い腰を上げて値上げに取り組むようになりました。

佐川はすでに大口顧客に対して値上げしていましたから、その差は利益率の差となって表れています。値上げを断行できたという点において、佐川はヤマトよりも上手だと言っているのです。

しかし、佐川に次いでヤマトも値上げすると、今度は3番手である日本郵政に需要が発生するという状況になっています。郵便がジリ貧の日本郵政は少しでも宅配を伸ばしたいと考えていますから、これをチャンスと考えているでしょう。

しかし、日本郵政は自分の首を絞めることになり、すぐに利益に繋がることはないでしょう。業界のことを考えるなら、この3社でシェアのほとんどを占めているのですから、揃って値上げするのが最善の戦略のはずです。それをせずにみんなで苦しむのは、まさにゲーム理論で言う「囚人のジレンマ」に陥っているのです。

値上げが難しいのなら、他に収入を求める方法があります。佐川は物流施設の賃貸やREITへの売却・物流の川上への進出など、宅配以外での収益源確保を急いでいます。この部分で佐川はヤマトよりも進んでいると言えるでしょう。

あとはコスト削減です。佐川は輸送の幹線部分に投資することで解決しようとしています。これは、法人向けの運送から生まれた佐川らしい発想と言えます。この部分はモニタリングしやすく、効果は現れやすいでしょう。

一方で、ヤマトは配送の効率化など、末端部分の効率化によるコスト削減を目指しています。これは消費者に依存する部分も多く、効果は未知数です。

ヤマトが大きく伸びる可能性があるなら、「サービスが先」と言うように、他社が追いつけないほどサービスを改善したあとで、ちゃっかり値上げすることでしょう。そのドライさがあるかどうかが、投資家としては最大の関心事です。

業界が変化し、問題が大きいほどビジネスチャンスは生まれやすいものです。激変の宅配業界を引き続き研究していきたいと思います。

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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