最大1,000億円減損の可能性。リコーと複写機業界の行方

リコー(7752)が2008年に買収した米販売会社をめぐり、最大1,000億円の減損処理を行う可能性があると報じられました。

同社の業績は昨年から明らかに悪化しています。直接的な要因は「構造改革費用」と一時要因ですが、事業の実態を眺めると構造的な要因が見えてきます。

タブレット端末の登場でオフィス用複写機の需要が減少

リコーはオフィス用複写機を中心に製造・販売する会社です。複写機は技術的なハードルが高く、世界的に見てもゼロックス(富士ゼロックス)やキヤノン、コニカミノルタなどで寡占市場を形成しています。

有利な競争環境で安定した業績を残していた分、昨年からの業績悪化には驚かされます。

これまで、オフィスには複写機があって当たり前でしたから、オフィスがなくならない限り複写機は安定した売上を残していました。その流れを大きく変えたのが、タブレット端末の普及です。

ノートパソコンがあるとは言え、会議や顧客向け資料などは紙に印刷するのが一般的でした。ところが、タブレット端末があれば必ずしも印刷する必要性がなくなってきたのです。必要な資料がタブレット端末からいつでも取り出せれば、毎回考えて印刷し直す必要はありません。

それに気が付いた企業は、複写機よりもタブレット端末への投資を優先するようになりました。すると必然的に複写機の更新は後回しになり、販売は明らかに鈍ります。保守やMPS(印刷枚数ごとの課金システム)需要があるため急に需要がなくなるわけではありませんが、このままいくとジリ貧が予想されます。

リコーは米州での売上高が全体の約1/4を占めますが、販売は現地企業の買収により拡大させてきました。しかし、新たに複写機を販売するのが難しくなり、それが減損の可能性へとつながっていると考えられます。

先進国でジリ貧の米ゼロックス・リコー、新興国に救われた富士ゼロックス

同じように複写機で苦しい状況に立たされているのが米ゼロックスです。売上高は減少が続き、2016年には最終赤字を計上しました。不振から立ち直るため、「富士ゼロックス」で協働していた富士フイルムの傘下に入ることが発表されています。

一方、同じ複写機を取り扱う富士ゼロックスの業績は堅調です。

富士フイルム・ドキュメンテーション事業(出典:富士フイルム統合報告書2017)

両社の違いは営業エリアに起因すると考えます。米ゼロックスと富士ゼロックスは協働し、営業エリアを分担していました。米ゼロックスは欧米、富士ゼロックスは日本・アジアという具合です。

タブレット端末が普及したとは言え、成長著しい新興国ではまだ複写機に対する新規需要があります。富士ゼロックスは販売先に新興国が組み込まれていたからこそ、現段階での衰退を免れることができているのです。

リコーの販売先は、日本と米国、欧州で大部分を占めます。新興国にはほとんど進出できていません。この状態が変わらなければ、今後も厳しい状況に立たされる可能性があります。

構造改革によるコスト減の成果で、来季以降一時的に利益は回復するかもしれません。しかし、根本的な問題は解決しておらず、新たな成長分野を見つけることができなければ、今後も苦しい状況に置かれることになるでしょう。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

詳細はこちら
サイト訪問者限定プレゼント
あなたの資産形成を加速させる3種の神器を無料プレゼント

プレゼント①『株式市場の敗者になる前に読む本』
プレゼント②『企業分析による長期投資マスター講座』第一章
プレゼント③『YouTubeプレゼン資料』

メールアドレスを送信して、特典をお受取りください。
メールアドレス *
※送信したメールアドレスに当社からのお知らせやお得な情報をお送りする場合があります。

※個人情報の取り扱いは本>プライバシーポリシー(個人情報保護方針)に基づいて行われます。
※送信したメールアドレスに当社からのお知らせやお得な情報をお送りする場合があります。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

気に入ったらシェアしてもらえると嬉しいです!

コメントを残す

Popular Article - よく読まれている記事Popular Article

  • 【日産自動車】株価下落で配当利回り6.4%は買える?
    今回は日産自動車についてです。 日産の株価は直近で大きく下げています。 ここまで下がった背景と、日産の今後について考えてみたいと思います。...
  • 3年で80%下落!エムスリーのしくじりはどこに?
    エムスリーの株価は2018年は2,000円程度でしたが、2020年に大きく上がり、2021年初頭には10,000円を突破しました。 しかし、...
  • 【メルカリ】株価はピークの半額以下。業績好調でも下落するのはなぜか?
    メルカリの株価が冴えません。
  • 【日本郵船・商船三井・川崎汽船】利回り5%以上も!海運株は買い?
    今回は、日本郵船、商船三井、川崎海運といった海運株を取り上げます。 海運株はコロナ禍に株価が上がり、一時的なブームで終わるかと思われましたが...
  • オリエンタルランド(東京ディズニーリゾート)の株価が下落している3つの理由
    2024年に入りオリエンタルランドの株価が大きく下落しています。 出典:株探 今回はオリエンタルランドの現状を詳しく分析し、投資リスクを考え...

Article List - 記事一覧Article List

カテゴリから記事を探す