日経平均株価は年次で6年連続(2012~2017年)の上昇を続けています。書店には株式投資の「成功者」の本が山積みになってきました。それを見て「自分も株で一儲けしよう」と考える人も多いのではないでしょうか。
成功者の多くはリーマン・ショック後に運用を開始
株価が上昇するのはいいことです。投資家の懐が温かくなり、経済が活性化します。すると企業の利益が増え、さらに株価が上がる好循環を生みます。この流れが数年続いた結果、多くの億万長者が生まれました
この記事にある「今亀庵」さんは、退職金2,000万円を8年間で40億円に増やしました。また、人気のひふみ投信の基準価格は9年で5倍になりました。
株の成功者は何か特別な能力や情報源を持っていたのでしょうか。確かに、株式投資の知識は普通よりも多く持っている人たちでしょう。しかし、「カリスマ」と呼ぶほど特別なものがあるわけではないと考えます。
彼らに共通しているのは、リーマン・ショック直後に運用を開始していることです。
投資の基本は「安く買って高く売ること」です。リーマン・ショックから数えて10年も上昇相場が続けば、大半の人は利益をあげることができたでしょう。成功者はその要因をあれこれ語りたがりますが、元も子もない言い方をすれば、この相場では「儲かって当たり前」だったのです。
逆に言えば、投資の成功にはタイミングが命です。タイミングさえつかんでしまえば、難しいことをしなくても利益をあげられます。そこで運用の巧拙を議論することは無意味です。
初心者は「PER」と「バフェット指数」を知るべし
それなら、今からでも投資すれば誰でも儲けられるかと言うと、決してそんなことはありません。長く続く上昇相場で投資家は下落を忘れつつありますが、そのようなときに暴落はやってきます。
「投資はタイミングが命」と言ったとおり、いいタイミングで入れれば成功に結びつきますが、間違えば損失を拡大させるだけです。2007年に投資を始めた人は、2008年のリーマン・ショックで大変な目に遭ったことでしょう。
上がるタイミングと下がるタイミングがわかれば誰も苦労しません。下がったからと言ってすぐに下げ止まるわけではありませんし、上がり始めてもそれがいつまで続くか予想することは困難です。まさに「神のみぞ知る」ところです。
わからないなら最初から言うなと思うかもしれません。確かに「方向性」を予想するのは困難です。しかし、「現在地」を知ることはできます。
株価には「割高」「割安」を示す目安があります。PERが10倍未満なら割安、20倍以上なら割高という具合です。市場全体で見るなら「その国の上場企業の時価総額がGDPより小さければ割安」という「バフェット指数」なるものも存在します。
これらは歴史的に見れば高い精度で確からしいことがわかります。つまり、PERが10倍未満の銘柄や、バフェット指数が割安を示している時に投資すれば、長期で見て損をする確率を劇的に下げることができます。株を始める人は、何よりもまずこれを知っておくべきです。
成功に必要な資質は「原則を破らない強い気持ち」
PERやバフェット指数を知っていれば、割安な時に買い、割高な時に売ることで、長期的にそれなりの利益をあげることができるでしょう。そう考えると、株式投資は決して難しいことではありません。
しかし、実際には多くの投資家はこれができず、最終的に下落相場で大きな損失を出してしまいます。なぜそのようなことになってしまうのでしょうか。
その答えは、人の心理に求めることができます。
上昇相場では、多少割高感があっても、人気銘柄はどんどん上昇していきます。最初は割高だからと投資を控えていた投資家も、やがて熱狂を見て我慢ができなくなり、原則を無視して参戦します。こうなると、あとはいつ降りるかだけの「チキンレース」になり、やがて暴落に巻き込まれてしまうのです。
反対に下落相場では、いくら割安であっても直前の損失が忘れられず、もし参戦できたとしても損失が出たらすぐに撤退してしまいます。人の心理は、近くの損失を過大評価し、遠くの利益を過小評価する傾向にあります。いつか利益が出ると分かっていても、目の前が不安な限り、なかなか勇気を出すことができないのです。
冒頭の「成功者」は、多くの投資家がナイーブになっているときに、自分を信じてリスクを取れた人たちでしょう。
つまり、投資の成功に必要なのは、難しい理論や特別な知識ではなく、少しの知識と移ろいやすい人間心理に打ち勝つ勇気であることがわかります。
機関投資家はこれを実行することが困難です。彼らは毎年・毎四半期結果を出さなければならず、成績が出なければ立場が苦しくなっていくからです。一方、個人投資家は「いつか」資産が育てば良く、時間と勇気さえあれば確実な投資を実行できます。
時間に縛られない長期投資ができるのは個人投資家の特権であり、成功のために必要な資質は「原則を破らない強い気持ち」であると言えるでしょう。
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