割高な優良株へ投資すべきか?「株式の死」を招いた「ニフティ・フィフティ」の記憶

株式市場は非常に難しい展開が続きます。米中貿易戦争が投資家の不安を誘い、株価は軟調です。だからといって大きく下がるわけでもなく、絶好の買い場とも言いにくい状況です。

いつか見た優良銘柄への資金集中

日米については、長期的な上昇相場が10年続き、市場全体が割高となっています。特に、安心して保有できる優良銘柄については割安なものはあまり残っていません。

多くの投資家は、相場の割高感や不透明感を持っています。一方で、これまで投資していれば儲かる状況だったので、その「おいしさ」も忘れられずにいるというジレンマに襲われているのです。

このような時に起こるのが、「質への逃避」です。一般的には国債などの安全資産に資金が集中することを意味しますが、ここでは優良銘柄へ資金が流れていることを示します。

国債は利回りが低下していることや金利の上昇(価格は低下)が見込まれることから、むしろ敬遠されている状況です。それなりのリターンを見込め、かつ値下がりリスクが低い投資対象として誰もが認める優良銘柄に資金が流れ込んでいるのです。

米国株で言えば、Amazonやネットフリックスです。これらのPERは80倍を超え、現在の利益水準ではとても正当化できない水準となっています。日本株で言えば、オリエンタルランド(PER47倍)、ファーストリテイリング(39倍)、ピジョン(40倍)などです。

もともとPER水準の高い銘柄群ではありますが、ここにきてさらに高止まりする様子が見られます。「PERが高くても下がらない」という点は、業績不振企業や新興企業に投資するよりは安心感があるかもしれませんが、下がらないのは上昇相場での経験則にすぎません

バリュー投資で知られ、当社推奨書籍『投資で一番大切な20の教え』の著者であるハワード・マークス氏は、全員が同じ方向を向く投資方法に警鐘を鳴らします。

【参考】「値動き追い」の限界 年後半 景気転換に警戒(日本経済新聞)

1970年前後の米国では「ニフティ・フィフティ」(素晴らしい50銘柄)と呼ばれる銘柄群への投資が隆盛しました。IBMやマクドナルド、GEなど今でも優良企業としてその名をとどろかせる企業群が並びます。現代からさかのぼっても、企業自体が「優良」であることは間違いありませんでした

問題は株価です。ニフティ・フィフティのPERは40~60倍で取引され、100倍を超えるものもありました。それでも、投資家は「値下がりしない」という安心感から、株を保有し続けたのです。

しかし、FRBが金利引き上げに舵を切ると、株式市場から資金が枯渇してきました。当然株価は下落しますから、投資家は不安になります。株を売ろうと考えると、割高な銘柄が優先されることになるため、ニフティ・フィフティは他銘柄以上に売り込まれました。50銘柄のうち27銘柄は高値から84%も下落したと言います。

米国ではその後株式市場ブームが去り、「株式の死」と言われる10年間を迎えることになります。

いい株が安くなるのを待って買い、じっくり上がるのを待つ

このような相場でバリュー株投資家が取るべき行動な何でしょうか。私からアドバイスできることは「難しいことはしない」ということです。

優良株への資金集中で、これらの株価が短期的には上昇する可能性は否定しません。しかし、優良銘柄でもPERが高ければ、やがて大きな下落がやってきます。その前に逃げればいいと思うかもしれませんが、株価は日々アップダウンを繰り返しますから、どれが本当の下落なのか見極めるのは容易ではありません

暴落は急激に訪れます。直前で逃れることはほとんど不可能と思った方が良いのです。

そもそも、「いつか逃げよう」と考える投資は、精神衛生上望ましくありません。投資が実生活に悪影響を及ぼすようなことになれば本末転倒です。精神的に苦しい投資はなかなか続かないでしょう。

バリュー株投資家は、急ぐ必要はありません。ニフティ・フィフティの例で言えば、株価が下落した後に訪れた「株式の死」の10年間でせっせと仕込みを行えば良いのです。

成果が出るまでには時間がかかるかもしれませんが、それこそ株式投資の王道です。いくら株価が下がったとしても、企業の価値が変化するわけではありませんから、株価が下がってから優良企業に投資しても決して遅くはないのです。

いい株が安くなるのを待って買い、じっくり上がるのを待つ」。このスタイルを確立できれば、長期投資で成功する確率を大きく高めることができるでしょう。

※本記事は会員向けレポートの一部を抜粋したものです。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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