トルコ・リラ急落で買い時?「iシェアーズ MSCI トルコ ETF」への投資機会を考える

トルコ・リラが急落し、多くの投資家にダメージを与えています。この1年間でおよそ半値にまで値下がりしました。

【出典】楽天証券

トルコ・リラが下落した要因

リラ急落の原因は以下のようなものです。

  • 止まらないインフレ
  • 米金利上昇による新興国からの資金流出
  • 米トランプ政権との不仲

トルコはインフレ率の高い国です。2010年以降のインフレ率は平均8%強であり、政策目標の5%を達成するには至っていません。インフレ率が高い国の通貨は次第に減価していきますから、長期的なリラの下落は織り込み済みと言えます。

米国の利上げにより中期的に見れば新興国からの資金流出の傾向があり、同じく新興国通貨のアルゼンチン・ペソやブラジル・レアルも大きく値下がりしています。

一方で、トルコの政府財政は健全です。政府債務残高は低下を続け、GDP対比では30%弱にすぎません。デフォルト(債務不履行)が囁かれるアルゼンチンとは大きく異なります。懸念は、民間債務が増えていることと、債務の多くが外貨建てということでしょう。

【出典】世界経済のネタ帳

8月の暴落は、トランプ大統領のTweetがきっかけとなりました。

トルコ発のアルミに20%、鉄鋼に50%の関税をかける。トルコとの関係は悪化している!(意訳)

トルコとアメリカは、クルド人問題やトルコで拘束されているアメリカ人牧師の解放を巡って対立が表面化してきました。そこへこのTweetが行われたことにより、新興国通貨からの資金逃避と相まって資金流出につながったと考えられます。

トランプ大統領の関税外交はもはやおなじみとなっていて、それ自体は驚くべきことではありませんが、懸念が懸念を呼びリラの下落につながりました。

順調な経済成長で「中所得国」の仲間入り

トルコ経済は堅調です。GDPは右肩上がりが続き、2017年の成長率は7%を超えています。

【出典】世界経済のネタ帳

トルコの経済力の裏付けとなっているのが、人口動態です。人口は約8,000万人と多く、2050年まで伸び続けると見られています。現在は、労働者人口が急増して経済に貢献する「人口ボーナス期」に入っていることも重要なポイントです。

【出典】TurkStat(単位:百万人)

イスラム教国ですが、「世俗主義」を掲げてEU諸国に接近しています。政治情勢は安定していましたが、この数年エルドアン大統領が強権化を推し進めている点は気がかりではあります。

一人あたりGDPは1万ドルを超え、「中所得国」の仲間入りを果たました。この水準まで来ると中間層の厚みが増し、国内消費が拡大します。一方で、人件費の上昇に伴い安価な労働力の提供が難しくなって成長が鈍化する「中進国の罠」にもはまりやすく、楽観ばかりはできません。

現在は輸入が輸出を上回り、経常収支が赤字の状態です。国内経済が安定的に大きく成長するには、輸出を拡大させる世界レベルの企業が育ってくる必要があります。

トルコ株ETFを分析!

「○○ショック」のようなときは、絶好の投資チャンスとなる場合があります。リーマン・ショックはもとより、ギリシャ・ショックやブレグジットはまたとない投資機会でした。私はFXについてはわかりませんので、株式について考えると、日本からトルコに投資できるとすれば現実的には投資信託ということになります。

検索して上位に挙がってくる投資信託が「トルコ株式オープン」と銘打つものですが、信託報酬が約2%と高く、あまり魅力的ではありません。

同じ投資信託に投資するなら、米ナスダック市場に上場するETFの「iシェアーズ MSCI トルコ ETF」でしょう。こちらは信託報酬0.62%と、まだ良心的です。

ブラックロック社のホームページに掲載されている指標は以下の通りです。

  • PER:7.45倍
  • PBR:1.14倍
  • 分配金利回り:7.02%

もしこれが個別銘柄だとしたら、割安株として今にでも投資を検討したい水準です。利回りが7%あれば、値上がりがなくても再投資により約10年で2倍のリターンを得ることができます。

指標の中で、特に目を引くのがPERの低さです。米国が23倍、日本が12倍という中で、トルコは6倍(実績基準)となっています。国別のランキングでは最下位に沈んでいるのです(マイナスのイスラエルを除く)。

【参考】世界45か国 2018年8月のPER・PBR(my INDEX)

PERが低いということは、成長性が疑問視されているか、リスクが高いと考えられているということです。それではETFの主な構成銘柄はどうなっているでしょうか。

Türkiye Petrol Rafinerileri A.S.(構成比7.74%)

TürkiyePetrol Rafinerileri ASは、子会社と共にトルコの原油および石油製品の精製に従事しています。同社の製品には、液体石油ガス、燃料油、ベースオイル、ワックス、抽出物、ビチューメンとビチューメンバインダー、ホワイトスピリット、切削油、清澄化油、石油コークス、硫黄製品などがあります。また、原油や石油製品の輸送、航空輸送、輸送活動にも携わっています。同社は1983年に設立され、トルコのケルフェーズに本社を置いています。TürkiyePetrol Rafinerileri ASは、Enerji Yatirimlari ASの子会社です。(出典:Yahoo! FianceをGoogle翻訳)

【TUPRS】業績推移

日本で言えばJXTGホールディングス(5020)のような会社です。

BIM BIRLESIK MAGAZALAR A(構成比7.44%)

BIM Birlesik Magazalar ASは小売店を運営しています。その店舗は、食料品や消費財を含む約650の品目を販売しています。2017年11月7日現在、同社はトルコに6,000店舗、モロッコに374店舗、エジプトに261店舗を運営しています。同社は1995年に設立され、トルコのイスタンブールに本社を置いています。(同上)

【BIMAS】業績推移

日本で言えば、イオン(8267)といったところ。

EREGLI DEMIR VE CELIK FABRIKALARI(構成比7.13%)

Eregli Demir veÇelikFabrikalari TASは、子会社とともに、鉄鋼製品、合金および非合金鉄、鋼鉄および銑鉄鋳物、鋳物およびプレス製品、コークスおよび副産物をトルコおよび国際的に製造し、販売しています。当社の平らな製品には、熱間圧延平鋼製品、冷間圧延平鋼製品、および亜鉛メッキ/合金鋼平鋼製品が含まれる。金属パッケージング業界で使用されるスズ/クロムでコーティングされた平鋼製品。それはまた、モーターのベンゾール、純粋なベンゾール、トルオール、キシロール、粗タール、硫酸アンモニウム、硫酸鉄、および粒状の高炉スラグを含む様々な副生成物を提供する。さらに、同社は、荷役および荷揚げ、海事、第三者、倉庫、液体および固体の廃棄物収集、海事警察などの港湾サービスを提供しています。税関および税関執行サービス。主に自動車、白物品、建設、パイプおよびチューブ、圧延、一般機械および製造、家電、熱および圧力容器装置、電気電子、機械工学、エネルギー、造船、防衛および包装産業を担当しています。同社は1960年に設立され、トルコのイスタンブールに本社を置いています。(同上)

【EREGL】業績推移

新日鉄住金(5401)のトルコ版。

以下は銀行や携帯キャリアなど、内需企業が中心です。典型的な新興国株の構成と言えます。これといった偏りは見当たらず、内需企業であれば国の経済成長に伴い業績を伸ばしていくことができるでしょう。

当該ETFのこれまでのパフォーマンスは一進一退を繰り返していますが、株式そのものよりも、トルコ・リラ変動の影響が大きいように思われます。直近でもリラの下落によりドル・ベースで大きく値下がりしましたが、リラ・ベースでは順調に株価は伸長しています。

【出典】TradeigView

リラの下落は気がかりですが、今の水準は下がりすぎだと思われること、経済力のある国の通貨は長期で見れば強くなること、そしてトルコのGDPは着実に伸びていることを踏まえると、長期的に見た割安感は強いと感じます。

安ければ買って、あとは放置すること

バリュー株投資の原則は、短期慎重・長期楽観です。トランプ大統領の問題もあり足元で大きく下げていますが、長い目で見ればこれを拾い時と捉えることもできます。リラは、政策金利を24%にまで引き上げたことで下落は止まったようにも見えます。

トルコ経済は成長を続けています。2050年まで続く人口の伸びは少なからず成長に寄与するでしょうし、世界最大級のテレビOEM生産を手がけるVESTELなど、将来が期待できる企業も出てきています。

リスクとしては、長期的なリラ安に加えて、エルドアン大統領の強権政治が良からぬ方向に働き、経済成長を停滞させる可能性があることです。これまで大統領は経済に重きを置いてきましたが、近年は独裁化やイスラムの宗教色が強まっています。ビジネスがやりづらい環境になれば、継続的な経済成長に水を差すおそれもあります。

もちろん、投資にリスクはつきものです。少なくとも現在の株価指標や、長期的に見た経済成長に対する割安感は強いことから、バリュー株投資のトレーニングとして投資してみるのも面白いかと思います。インデックスですから、一度買って、あとは放置しておくのが得策です。

価値に対する投資の考え方として、以下のTweetが印象的です。

トルコ・リラの下落により、本来高額の懐石料理が激安価格(外貨建て)で食べられるというものです。為替は長期的には一物一価の原則により適切な水準に収れんするものであり、その観点で今が割安だということは間違いなさそうです。

長期投資で成功する秘訣は、普通に物を買うように「安い」と思った時に買うことです。割安な株価と通貨安は、将来から見れば「バーゲン価格」だったという可能性もあります。全力で投資するには心もとないですが、ポートフォリオの一部に加えるには悪くないタイミングだと思います。(もちろん、リスクが高いことは忘れないようにしましょう。)

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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