【三越伊勢丹HD】最高益大幅更新のワケ―株は買いか?

今回は百貨店の三越伊勢丹ホールディングスについてです。

百貨店というと、”オワコン”と言われて久しいですが、足元で百貨店の業績や株価は非常に伸びています。
コロナ禍からの反動というところはもちろんありますが、三越伊勢丹の経営は百貨店復活を期待させるものでした。

百貨店の再興

まずは株価を見てみましょう。

出典:マネックス証券

コロナ禍で一時は500円台まで下がりました。
その後、コロナ禍の終焉とともに上がってきていましたが、特に今年に入ってからの上昇が凄まじいです。
年初には1,500円くらいだった株価が今は3,000円くらいと約2倍になっています。

 

次は業績を見てみましょう。

出典:マネックス証券

コロナ禍の2021年3月期は赤字でしたが、黒字に転換して以降はぐんぐん上がり、2024年3月期には最高益を計上しています。
この最高益というのも、今までの最高益のほぼ倍という大幅な更新です。

グラフでは「売上高」が減っているように見えますが、2022年3月期に会計基準が変更され、それまで売上高に計上されていたものが計上されなくなりました。
実際の売上としては、横ばいか少し減っているかというところです。

売上はほとんど変わっていない中で、利益が大きく伸びたということです。

 

売上は変わらずに利益が増えたということは、コストが減ったということですが、明確に減ったコストがありました。

出典:マネックス証券

2018年3月期には14,000人いた従業員が一気に減っていき、直近では9,467人となっています。
従業員が約5,000人減っていて、かなり大鉈を振るったことが見て取れます。

地方の店舗を多く閉店し、いわゆるリストラを進めてきたのです。

 

一方で、都心部の店舗に資源を集中させています。

ターゲットは富裕層

中流階級と呼ばれる層が厚かった時代は、「百貨店」というと休日に家族で出かける所というイメージで、百貨店側もその中流階級をターゲットとして経営していました。

ところが、バブル崩壊以降は中流階級の人々にとって百貨店の商品は高価になってしまい、百貨店を訪れる人の数が少なくなってきました。

 

今、百貨店の主な顧客は富裕層ということになります。
しかし、バブル崩壊後から長い間、百貨店は明確に路線を変更することがなかなかできていませんでした。

そこについに手を入れたのが三越伊勢丹でした。
元々他の百貨店に比べて富裕層の顧客が多いと言われていますが、上客を大事にして利益率を上げ、従業員も減らして富裕層向けのサービスに集中させました。

また、百貨店にはお客さんのところに出向いたりして商品を提案する”外商”というサービスもあります。

 

売上の50%が5%の上顧客によるものというデータもあり、少数の富裕層を相手にする方が中流階級の多くの人々を相手にするよりも百貨店にとっては価値のあることだったと考えられます。

経営学者のドラッガーは、経営とは顧客が誰かということを定義することだと言いました。それが明確になっていないと適切なサービスを提供することができないということです。

百貨店はかつては中流層をターゲットにしていましたが、今の百貨店の顧客は富裕層であり、三越伊勢丹はそれに気づいてそれに対する戦略をはっきり打っています。

出典:三越伊勢丹HD 決算説明会資料

 

富裕層をターゲットにしても、日本の経済は縮小していて富裕層も減っていくのではないかと思うかもしれません。

しかし、日本の富裕層自体は実は増えているのです。

出典:野村総研

それを考えると、富裕層ビジネスは成長ビジネスだという風に捉えることができます。

もう一つの富裕層

さらに、今もう一つの富裕層が日本に新しく入ってきていて、それがインバウンドです。

以前は中国人観光客の”爆買い”が主でしたが、今は欧米からも多くの人が日本を訪れています。
欧米から日本に来るだけでもかなりお金がかかるので、日本に来ているという時点でそこそこのお金持ちだと考えられます。

出典:nippon.com

直近では月別訪日外国人数が過去最高を更新し続けていて、おそらく2024年は年間でも過去最高を突破しそうということで、日本を訪れる外国人がますます増えると見られます。

そんな中、このインバウンドの人たちのニーズをつかみ、訪日の度に消費してもらえる形を作ることができればさらに安定して売上を伸ばすことができると思います。

実際に売上に占めるインバウンドの割合は15%くらいまで達しているということです。
百貨店全体にとって大きなボリュームを占めるようになっているわけです。

顧客との関係性を深める

三越伊勢丹の戦略の中で最も重要な点は、上顧客をターゲットとしたCRM(Customer Relationship Management)で、これを上手くやっていけるのだとすれば今後も安定して伸ばし続けられる力を持っているのではないかと思います。

 

他の百貨店と比べると、PERやPBRは三越伊勢丹がかなり高くなっていて、頭一つ抜けている状況です。
しかも、そもそも富裕層の顧客が多い傾向にあったので、既に良い環境にいるように見えます。

 

三越伊勢丹の株価はもう上がっていて、今からは買いづらいところもあると思いますが、長い目で見て期待できる会社だと思いますし、富裕層向けのビジネスの話は今後投資を検討する際に活きてくるかもしれません。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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