半年で株価35%下落 共立メンテナンス(ドーミーイン)に投資するべきか?

佐々木
こんにちは、佐々木です。今日は、ドーミーインで有名な共立メンテナンスを取り上げます。

出典:株探

3月に3,624円をつけた後、8月5日の日本株大幅下落も受けて下落し、24年8月現在は約2,300円です。

投資するべきなのか、事業の内容を見て考えていきます。

1. 共立メンテナンスの事業内容

共立メンテナンスは、多角的な事業展開を特徴とする企業です。主な事業セグメントは以下の通りです。

  1. 寮事業:学生寮・社員寮「ドーミー」、寮・食堂受託、ワンルームタイプマンション「ドミール」、シェアハウス「シェアハウスドーミー」の運営を行っています。
  2. ホテル事業:ビジネスホテル「ドーミーイン」「御宿 野乃」、リゾートホテル「ラビスタ」「ルシアン」、湯宿「和の湯宿」を展開しています。
  3. 総合ビルマネジメント事業:オフィスビルやレジデンスビルの管理運営を行っています。
  4. フーズ事業:外食事業、受託給食事業、ホテルレストラン等の受託運営を手がけています。
  5. デベロップメント事業:建設・企画・設計・仲介、分譲マンション事業、不動産流動化事業などを行っています。

事業ごとの利益推移を見ていると、不動産賃貸業と似ている特性を持った寮事業の安定感が目立ちます。そして近年の成長は、ホテル事業の成長によるものであるとわかります。

出典:SPEEDAより作成

佐々木
このホテル事業の強みを考えていきます。

2. 寮事業から発展したホテル事業の強み

共立メンテナンスのホテル事業、特に「ドーミーイン」ブランドの強みは、長年にわたる寮事業で培ったノウハウを巧みに活用している点にあります。この独自のアプローチは、1994年に埼玉県草加市谷塚駅の近くにオープンした「ドーミーイン」1号店での経験を経て、その後の浅草店開発プロジェクトを機に確立されました。

「寮のようなアットホームなおもてなし」というコンセプトは、ビジネスホテルの常識を覆すものでした。寮生活で重要な役割を果たす「お風呂」の概念を発展させ、多くのドーミーインで大浴場やサウナを完備したのです。当時、ビジネスホテルに大浴場を設置するところはほとんどなく、このコスト度外視の斬新なアイデアが、その後のドーミーインのブランド確立に大きく貢献しました。

さらに、寮の食堂運営で培った経験を活かし、朝食を中心に質の高い食事を提供しています。地域の特色を活かした朝食は、宿泊客からの高い評価を得ており、リピーター獲得の大きな要因となっています。

これらのサービスは、単なる「寝る場所」としてのホテルではなく、くつろぎやリラックスの場を提供するという、共立メンテナンスの理念を体現しています。寮生活をサポートする中で培った、個々のニーズに応じたきめ細やかなサービスは、ホテルでも実践され、ビジネス客や観光客に「第二の我が家」のような安らぎを提供しているのです。

オリコンに寄せられた「ドーミーイン 利用者の声」からも、サービスの質に満足している様子がわかります。

出典:オリコン

この独自のアプローチにより、ドーミーインは高い稼働率を実現しています。業界平均稼働率が75%前後のところ、同ホテルでは90%前後の稼働率を実現しています。

佐々木
次は競合ホテルのアパホテルや東横インと比較してみましょう

3. 競合との違い

共立メンテナンスは、他のビジネスホテルチェーンとは一線を画すポジショニングを確立しています。主要な競合であるアパホテルや東横インと比較すると、その違いは明確です。

アパホテルは、「1ステップ予約、1秒チェックイン、1秒チェックアウト」というコンセプトのもと、DXを活用した効率的な運営を行っています。847ホテル(うち海外46)を展開し、年間客室稼働率86.9%、年間客室平均単価8,115円を記録しています。

一方、東横インは337店舗を展開し、「全国ネットワークの基地ホテル~出発するホテル」というコンセプトで、地域に根ざしたサービスを提供しています。

これらの競合と比較して、共立メンテナンスは高単価・高付加価値路線を取っています。大浴場、質の高い朝食、夜鳴きそばなどの特徴的なサービスにより、顧客単価を高めることに成功しています。(ドーミーインの単価は14,000円前後)また、寮運営のノウハウを活かしたアットホームな雰囲気づくりも、他社との大きな差別化要因となっています。

つまり、ドーミーインはホテル内での体験に付加価値を置いているのに対し、競合他社は低価格を武器に外部での観光や食事を重視していると言えます。

このような差別化戦略により、ドーミーインは競合他社よりも高いRevPAR(レヴパー:ホテル1室あたりの収益)を達成しています。ドーミーインのRevPARは12,000円前後、アパホテル7,000円であり、ビジネスホテル市場において独自の地位を確立しているのです。このように事業としてはホテル内部の過ごしやすさという明確な強みがある企業と言えます。

佐々木
株価に対する評価を考えてみます。

4. 株価が下落する理由

こういった付加価値の高いホテルを運営することで中長期的に業績は成長し、それに伴って株価も成長してきました。コロナ禍ではホテル事業の急激な売上減少によって赤字が拡大しましたが、コロナ禍の影響緩和に伴って売上、利益ともに回復しています。

出典:マネックス証券

出典:株探

コロナ禍からの業績回復により株価も上昇しましたが、株価は2024年3月をピークに35%下落しました。この下落により、現在のPER(株価収益率)は約14倍となっており、コロナ前5年(16年~20年)の平均PER約22倍と比較すると割安な水準にあると言えます。

出典:株探

この株価下落の背景には、有利子負債の多さに伴う金利上昇リスクの懸念、そして旅行需要回復シナリオ実現による売り圧力の増加があると考えられます。

出典:SPEEDAより作成 バランスシートに占める負債の割合はやや高い

5.今後の成長戦略をどう評価する?

共立メンテナンスの人手不足問題と成長戦略について、現状分析、対策、そして評価を踏まえて詳しく説明いたします。

現状 

共立メンテナンスは、寮事業とホテル事業を中心に多角的な事業展開を行っており、特にドーミーインブランドで展開するホテル事業が成長を牽引しています。しかし、現在の日本のホテル業界全体が直面している大きな課題として、人手不足問題があります。これは需要の増加に対して、働き手の不足によるホテル供給量の制限をもたらしています。

共立メンテナンスの場合、ホテル内に温泉や質の高い食事といった付加価値を提供することで差別化を図っているため、この人手不足問題は特に重要です。転職口コミを見ると、内部では派遣バイトの活用などで対応しているようですが、根本的な解決には至っていません。

また、インバウンド需要の急速な回復や「ホテル不足」による宿泊単価の上昇など、ホテル業界全体にとっての追い風も存在します。2024年6月の訪日外国人旅行者数は2019年比8.9%増の313万5600人を記録し、単月で過去最高を更新しました。

対策

共立メンテナンスの中期経営計画「KYORITSU Growth Vision Rise Up Plan 2028」を見ると、以下のような対策が計画されています。

1.新規開発による室数の増加:現在約65,000室から75,000室への増設計画。

2.活用による労働生産性の向上(人手不足への対応)

  • ホテルスマートチェックインおよび自動精算機の導入
  • 清掃及び配膳ロボットの活用
  • RPA活用やペーパーレス化による省力化

3.人材戦略

  • 研修制度及び人事制度の拡充・見直し
  • 多様な雇用形態及び勤務形態の新設
  • 採用チャネルの拡充

4.インバウンド需要の取り込み:ドーミーイン事業でのインバウンド比率目標30%超

5.積極的な投資:5年総額2,000億円の投資計画(新規事業所開業、大規模リニューアル、DX投資)

これらによって23年から5年間にかけての売上の平均成長率10%、営業利益率の平均成長率30%を目標としています。

評価

共立メンテナンスの対策は、人手不足問題と成長戦略の両面において、一定の効果が期待できると評価できます。

なぜならば、DX活用による労働生産性向上の取り組みは、人手不足問題に対する有効な解決策となり得るからです。特に、スマートチェックインや自動精算機の導入は、顧客満足度を損なうことなく業務効率化を図れる点で評価できます。

そしてインバウンド需要の積極的な取り込みは、日本の観光業の回復と成長に合わせた戦略として適切です。ただし、競合他社が多言語対応などを進める中、やや具体性が欠ける印象もあります。成功すれば大きな成長ドライバーとなる可能性がありますが、成功可能性は不透明です。

そして、気になるところはドーミーイン以外の「リゾートホテル」への投資です。ドーミーインに比べると収益性は高くありませんが、中期経営計画では大きな成長を目指しています。(下グラフ、薄青部分)

出典:決算説明資料より作成

共立メンテナンスのここまでの成功要因は、従来素泊まりが当たり前だったビジネスホテルに、温泉や美味しい食事といった付加価値をつけたことでした。しかし、あらかじめ高いサービスを期待されるリゾートホテルの成功には、また違った成功要因が必要だと考えます。

それは星野リゾートに代表されるブランドイメージや、業界最高クラスのサービス、さらに立地なども関わってくるでしょう。ビジネスホテルのイメージが強い共立メンテナンスがどのようにリゾートホテルを成長させるのか、この分野での成長戦略の詳細や、ブランド構築の方針などが明確でない点は懸念材料です。

総合的に見て、共立メンテナンスの戦略は人手不足問題に対応しつつ、成長機会を捉えようとする包括的なものであると評価できます。ただしインバウンド対応リゾートホテルへの戦略に対する具体性はやや弱いと感じます。この成長戦略に対する認識と企業の強み・株価の割安性をどう評価するかが投資のポイントになりそうです。

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執筆者

執筆者:佐々木 悠

佐々木 悠(ささき はるか)

つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。

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