AIブームはITバブルの再来なのか?

今回はAI相場とITバブルの共通点について考えてみたいと思います。

今、AIブームで株式市場は盛り上がっていて、特に2023年以降の株価の上昇は生成AIブームが背景にあります。

しかし2000年前後のITバブルを思い返すと、盛り上がった後にバブルの崩壊で株式市場が大きく崩れました。

昨今のAIブームはITバブルと同じ道を辿るのでしょうか。

ITバブルとの共通点

かつてのITバブルは、2000年頃のインターネットが活用され始めた頃に、インターネット関連の企業が勃興してきて、Microsoft、Amazon、Googleといった今も残る企業だけでなく、インターネット関連というだけで実態よりも高く評価されていました。

出典:macrotrends.net

これはナスダックの推移ですが、1990年代後半から2000年にかけての上昇がITバブルにあたります。

2022年頃までのコロナ後の株式ブームが落ち着いた後の2023年以降の上昇がAIブームによるものだと言えるでしょう。

 

ITバブルとAIブームの共通点としては、未来の技術に市場が踊っているということがあります。

ITバブルの時には、インターネットが世の中に出回ることによって、いろいろなことができるようになって、それに付随して様々なビジネスが立ち上がりました。
現在の世の中があるのもそこからITが進化してビジネスになってきたからだと言えます。

当時からITの将来性があったことは間違いありませんが、もう一つ言えることとして、2000年頃の時点では必ずしも大きな収益をあげていなかったということがあります。
利益どころか売上もほとんどないような会社が「○○.com」という名前だけでもてはやされたりもしていました。

 

そして現在何が起こっているかというと、2022年後半に「Chat GPT」が一般に公開され、生成AIに各社が一気に投資を始めました。
それ以降、次々に新たなAIサービスが生み出されています。

ただ、ITバブルとの共通点としては、(ITバブルほどではありませんが)必ずしも収益をあげられていないというところです。

そんな中でも各社が先手先手で投資を行っていますが、その投資先というのがNVIDIAです。
AIを動かすためには半導体が必要で、その半導体をまともに作れるのは現時点ではNVIDIAしかないということで需要が集中しています。
NVIDIAの売上は前年の2倍以上という業績を記録し、株価も2020年から10倍以上になっています。

 

このように、ITバブルとAIブームには、テクノロジーを軸に人々の期待が集まっているという共通点があります。

”ちゃんと”業績も上がっている

一方で、ITバブルとAIブームには、各社の財務状況に大きな違いがあります。

先述したように、ITバブルの時は売上もまともに立っていないような企業まで高く評価され、まさに実体のないバブルでした。
今のNVIDIAは売上も伸びていますし、売上以上に利益も大きく伸ばしています。
予想利益に対するPERも44倍と、成長企業としては標準的な水準におさまっています。

単純に数字だけを見ると、「バブル」とは言えない数字です。

また、実際にNVIDIAの半導体を買っているのはMicrosoftやGoogleなどの大手テック企業で、資金を多く持っています。

もっとも、MicrosoftもGoogleも負けじと生成AIに投資を行っていますが、生成AI自体で投資に見合うリターンを得ているかというとまだ先の話になるのではないかと思います。
今は利益を得るというよりも先にシェアを取ろうという価格競争になっている状態です。
これが仮に利益が出ないということになって、両社の業績が陰ってきて支出を押さえなければならないとなった時には半導体を買う動きも落ち込んでくると考えられます。

 

最終的には消費者がお金を出さなければこのAIブームもどこかで止まります。
NVIDIAの業績も無尽蔵に上がるということは無いと思います。

今はNVIDIAが覇権を取っていますが、同性能の半導体をより安く作れる企業が仮に現れたら一気にそちらに流れる可能性もあります。
移り変わりのスピードも速く、現時点では最終的にどこが残るかは分かりません。

マクロ経済的見解

2020年頃のコロナショックによる経済の悪化に対して、景気浮揚策を打つべきということでアメリカでも金利を引き下げました。
しかしその後インフレが起こり、インフレを抑えるためにFRBは金利を引き上げました。

実はこれと同じことがITバブルの時にも起こっていました。

出典:MacroMicro

赤の棒グラフが金利、青の折れ線グラフがS&P500ですが、2000年前後にFRBは過熱した景気を冷やすために金利を引き上げています。
この過熱した景気がITバブルを促進していた側面も間違いなくあったと思います。

今のインフレや景気の良さとAIブームにもリンクする部分があります。

 

景気が悪くなり始めたところでFRBは金利を引き下げてきましたが、ITバブルの時もリーマンショックの時も金利を引き下げ始めた後にリセッション(景気後退)が起こっています。

今の状況を見ると、直近でFRBのパウエル議長が金利の引き下げを示唆しました。
これは、アメリカの雇用がそこまで強くなく、リセッションを警戒してのことですが、過去の推移を見ると警戒のサインが出た時には景気後退が始まっているのではないかという見方ができます。

他方では、ITバブルやリーマンショックのようにならないようにFRBが上手くやっているというソフトランディング論も見受けられますが、果たしてどうなるかというところです。

 

金利が引き下げられる中で、実際に景気後退が起きて、今のAIブームによって加速した投資が冷えるということも考えられます。

ウォーレン・バフェットの動きも興味深く、ITバブルの時にはバフェットは割高であることや分からないものには投資しないということで、IT銘柄を買っていませんでした。
今バフェットはAppleなどの株式を売却し、キャッシュポジションを増やしています。
投資の神様が何か感じるものがあるのではないかと想像してしまいます。

 

不正の疑い

個別事象として気になることが、粉飾決算です。

ITバブルでは、株式市場が加速する裏で様々な粉飾決算が行われていました。

エネルギー企業のエンロンや通信会社のワールドコムなど

粉飾決算が発覚する前はもてはやされていましたが、粉飾決算が発覚したことによって株式市場への信頼が失われ、ITバブルのビジネスモデルに対する疑念も高まってきました。

この動きと似ていると言えなくもないのがスーパー・マイクロ・コンピューターの年次報告書の提出遅れの件です。

出典:日本経済新聞

空売りファンドのヒンデンブルグ・リサーチから会計操作の指摘を受けて、その後の年次報告書の提出が遅れていることから、本当に怪しい部分があるのではないかと株式市場で取り沙汰されています。

スーパー・マイクロ・コンピューターはNVIDIAと並んで話題となっていた企業であり、そこが粉飾決算ということになると、AIブームに対する疑念も高まってしまう部分があるのではないかと思います。

出典:日本経済新聞

株価の動きも、一時大きく上がってからどんどん下がってきていて、このあたりも注目しておくべきかと思います。

歴史は繰り返さないが韻を踏む

アメリカの作家、マーク・トウェインが行ったとされる言葉で「歴史は繰り返さないが韻を踏む」というものがあります。

ITバブルの時と全く同じことが起きるとは限らないですが、どことなく似ているようなことが起きるということです。

 

厳密な因果関係ではありませんが、状況を捉えて判断することが投資家の腕の見せ所だと思います。
ぜひ皆さんも今のAIブームの状況を肌で感じながら投資判断を行うとともに、ここで得た経験を次の株式市場で活かせるように取り組んでいただきたいと思います。

それを繰り返していくことで投資の上達にもつながるでしょうし、投資を続けながら少しずつ腕を磨いてみてはいかがでしょうか。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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