「ビズリーーチ」のcmでおなじみのビズリーチを運営しているビジョナルを分析します。
中途採用市場の拡大に伴い成長中の企業です。今回は成長の要因とビズリーチが使われている理由を詳しく分析し、投資するべきか考えていきます。
目次
様々な事業のなか、儲かっているのはやはりビズリーチ
まずは、ビジョナルの事業内容を確認します。
出典:決算短信より作成
売上高、営業利益ともに順調に成長し、24年7月期の売上高は764億円、営業利益191億円を達成しています。利益率も26%と高水準です。
主な事業はHR TechとIncubationの2つです。
HR Tech
- ビズリーチ:転職希望者と国内外の企業、ヘッドハンターをマッチングするプラットフォーム。管理職や専門職などのプロフェッショナル人材に強み。企業側から転職者に声をかける「ダイレクトリクルーティング」を推進している。
- HRMOS:採用から人材活用、勤怠管理、経費精算までを一元管理できるシステム。企業は採用活動の効率化やデータに基づいた人材採用支援サービスを提供。
- その他:OB/OG訪問ネットワークサービスの「ビズリーチ・キャンパス」、求人検索エンジン「スタンバイ」など
Incubation
- M&Aサクシード:法人向けM&Aマッチングサービスを提供し、企業の買収、統合を支援する。
- トラボックス:物流業界向けのデジタルトランスフォーメーションプラットフォームを提供。
- BizHint:B2Bリードジェネレーションプラットフォームを提供し、企業間のビジネスマッチングを促進する。
このようにさまざまな事業・サービスを抱えていますが、売上の95%はHR Tech事業が稼いでいます。
出典:決算短信より作成
さらに、利益を見るとIncubation事業は赤字であり、やはりHR Tech事業が事業の中心です。
出典:決算短信より作成
ただし、2024年7月期はセグメント利益は201億円ですが、ビズリーチ単体の利益は233億円です。したがって、HRMOSも赤字であり、ビジョナルはほぼビズリーチというサービスだけで利益を稼いでいることになります。
ビズリーチが儲かる仕組み
では、ビズリーチはどのように利益を稼いでいるのでしょうか?
このサービスには、転職希望者、採用企業、他社の転職エージェント(ヘッドハンター)の3つの利用者がいます。転職希望者が自身の職務経歴や履歴書、希望条件などを登録し、企業が採用したい人材を見つけ、声をかけることで転職・採用が実現します。
この仕組みをダイレクトリクルーティングと言い、なかなか転職市場にいない希少性の高い人材や、即戦力人材を採用することを目的とした転職サイトです。なお、転職エージェントも同じプラットフォームを利用して、人材を探し求人を紹介しています。
従来の転職希望者が求人に応募する採用プロセスとは異なり、企業がほしい人材に声をかける、言わば「攻めの採用」を実現するプラットフォームと言えます。
プラットフォーム利用料として定期的な収入であるリカーリング収入と、ビズリーチ経由で採用が成功した場合に売上が発生する成功報酬型のパフォーマンス収入があります。
リカーリング(定期支払い収入)
- 直接採用企業:6ヶ月85万円
- ヘッドハンター: 6ヶ月60万円
- 転職希望者:6ヶ月3万円
パフォーマンス(成功報酬型の収入)
- 直接採用企業:採用人材の理論年収(月額固定給×12+賞与算定基準額×前年度実績賞与支給月額)の15%を支払う
- ヘッドハンター:企業からヘッドハンターに支払われた採用成功報酬に20~30%のパーセンテージをかけた金額を支払う
パフォーマンス収入について詳しく説明します。
一般的に、企業が転職エージェントを利用して人材を採用した場合、企業は転職エージェントに年収の30〜40%(年収1,000万円なら300~400万円)の紹介料を支払います。
しかし、企業がビズリーチのみで採用に成功した場合は、コストは15%(年収1,000万円なら150万円)ですから、人材を探す手間はかかるとしても、エージェントを使うよりは低コストで人材を採用できるわけです。
なお、ビズリーチを通じて、転職エージェントが企業に人材を紹介した場合、企業はエージェントに紹介料(300〜400万円)を支払います。そのうち20〜30%(60〜90万円)がビズリーチに支払われます。
収入の比率はビズリーチ単体で、パフォーマンス収入の比率が高くなっています。
出典:決算短信より作成
そして、主な収入源は企業からの支払いです。
これは先の説明の通り、直接採用企業からの収入額が大きくなる仕組みが影響していると言えるでしょう。
ちなみに、転職希望者からの収入額は公開されていませんが、基本的に無料でサービスを利用できるため、大きな収入源になっているとは考えづらいでしょう。
出典:決算短信より作成
注目すべきポイントとして、3種類の利用者が全て増加傾向です。
出典:決算短信より作成
さらに、1企業・ヘッドハンターあたりの支払い単価は近年は横ばいですから、好調の要因は利用者の増加の影響が大きいと言えるでしょう。
なお、1企業あたりの顧客単価は300万円弱ですから、年収を1,000万円と仮定すると平均2名ほどの人材をビズリーチで採用していることも示唆されます。
出典:決算短信より作成
(計算方法:通期売上×売上に占める企業・ヘッドハンターの割合÷年次利用企業数orヘッドハンター数で算出)
ここで、ビズリーチの特徴をまとめます
- 転職希望者、採用企業、ヘッドハンターの3種類の利用者が存在し、それぞれから収入を得る仕組みをとっている。
- 企業が転職者に直接声をかけて採用するダイレクトリクルーティングは、企業にとっては低コストであり、ビジョナルにとっては最も利益率が高い収入源になる
- 近年の成長の大きな要因は3種類の利用者が増加していること。単価は近年は横ばいで推移している
なぜ利用者が増えるのか?
ビズリーチの主要な収入源である、企業・ヘッドハンターの利用を増加させるためには、まずは転職希望者を増やす必要があります。それが実現できている理由を考えます。
効果的なプロモーション
最もわかりやすいのは、ビズリーチのCMです。
現在公開されているテレビCM「社長の本気編」は、ビズリーチを利用して採用を行っている大企業の社長が出演しています。
大企業への転職可能性をアピールするなど、プロモーションの上手さがユーザー増に貢献していると考えます。実際、コスト構造では人件費を超える広告宣伝費を投入しており、知名度の拡大に力を入れていることがわかります。
出典:ビズリーチ ホームページ
企業と転職者の立場が逆転する
日本の新卒一括採用の文化の中では、求職者は企業に採用してもらえるようお願いするような構図があります。
しかし、企業側から声をかけるダイレクトリクルーティングでは、そもそも「志望動機は何ですか?」と聞かれること自体がおかしいですし、企業と人材が対等、むしろ求職者側が気になることを積極的に聞くことができるような、従来の採用活動と立場が逆転している側面もあるでしょう。
国内においては、このダイレクトリクルーティングの草分け的存在であるのがビズリーチです。
したがって、企業からオファーが来るという仕組みは求職者側の負担が小さく、そこを訴求している点がユーザー増加につながっていると言えるでしょう。
ハイクラス・非公開求人などのプレミアム感
企業側の利用動機として、代えが効くような人材、誰でもできるような仕事のポジションは、わざわざ企業から声をかける必要はありません。
だからこそ、ビズリーチを使う企業の求人は、役職・ポジション・待遇などハイクラスの方々に向けられる傾向にあり、企業の採用ページでは公開しても人が集まらないことから、非公開のポジションをビズリーチを使って採用するのです。
だからこそ、キーワードとして「ハイクラス・非公開求人」という言葉で転職者に訴求が可能であり、ダイレクトリクルーティングという仕組み上、それが実現しやすいことから、ユーザーが増えていると言えるでしょう。
企業、転職エージェントが増える理由
上記のように、転職希望者が「ビズリーチを使いたい」と思わせる仕掛けがあり、魅力的な人材が増えて来ているからこそ、企業・転職エージェントの数も増えていると言えます。
しかし、それ以外にもビズリーチ側の面白い戦略として、顧客企業のセグメンテーションとターゲーティングを行ったことがあります。
それを表現したのが、下のスライドです。
出典:ビズリーチ 決算説明資料
ビズリーチは2009年に開始されたサービスですが、当初は外資系企業の日本支社を顧客としていました。これらの企業はダイレクトリクルーティングの文化が根付いており、手取り足取りフォローをしなくてもサービスが自走していたのです。
次に狙ったのはスタートアップ、中小企業です。これらの企業は求人を公開したとしても、基本的には求人に対する申し込みは少ないのです。
そこで活用できるのがダイレクトリクルーティングです。
企業から積極的に声をかけ、人材のポジション・役割が明確であるこれらの企業は、ビズリーチとの親和性が高かったのです。
そして、これらの企業に対し採用実績をだしたところで現在の日系大企業への利用へと移っていったのです。
このように、的確な顧客セグメントの理解とターゲティングを行っているため、ここまで利用企業が増えていったのだと考えます。
考えたい3つのリスク
ここまではビジショナル・ビズリーチの強さや成長理由を分析しましたが、ここではリスクを考えます。
周辺事業の成長性
本校冒頭で説明した通り、ビジョナルはビズリーチ以外にも様々なサービスを運営しています。
開始年 | サービス名 | 特徴 |
2009 | ビズリーチ | 即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト |
2014 | キャリアトレック | 挑戦する20代の転職サイト(22年サービス終了) |
2015 | スタンバイ | 求人検索エンジン |
2016 | HRMOS | 採用管理システム |
BizHnt | B2Bリードジェネレーション・プラットフォーム | |
ビズリーチ
キャンパス |
OB/OGネットワークサービス | |
2017 | M&Aサクシード | 法人・審査制M&Aマッチングサイト |
2019 | yamory | 脆弱性管理クラウド |
トラボックス | 物流DXプラットフォーム(M&A) | |
2022 | Assured | セキュリティ評価プラットフォーム |
出典:有価証券報告書より作成
しかし、実際に利益を稼いでるのはビズリーチ一本であり、数多くの周辺事業は事業に貢献しているとは言えません。
ビジョナルにとってのビズリーチは、日本に新たな採用の文化を取り入れるチャレンジングな事業であったと言えます。この精神・企業文化を大切しているからこそ、新規サービスの積極的な創出がなされていますが、この辺りをどう整理・利益化するかが一つの課題と言えるでしょう。
類似サービスとの競争
ビズリーチは国内ダイレクトリクルーティングの草分け的存在と言えますが、現在は競合サービスも台頭しています。以下は、ダイレクトリクルーティング系のサービスの一覧です。
サービス名 | 登録ユーザー数(万人) | 特徴 |
ビズリーチ | 258 | 経営幹部、ハイクラスに強み |
エン転職ダイレクト | 413 | 幅広い職種、年齢層の採用が可能 |
wantedly | 400 | ベンチャー企業に強みの採用SNS |
dudaダイレクト | 369 | 幅広い職種の経験者採用に強み |
Green | 120 | 若手、web系職種に強み |
Linkedln | 400万人(国内) | キャリアSNS 英語を使う外資へ転職 |
ビズリーチは希少性の高い人材を売りにしているからこそ、登録ユーザー数ではやや見劣りしています。人材の希少性を売りにしているからこそ、ユーザー数を増やせばいい訳ではありませんが類似サービスとの競争は激しいと言えるでしょう。
成長鈍化の可能性
先の顧客ターゲティングの話でもある通り、国内企業の開拓は最終段階に入っていると言えます。
一方で、競争の激化や周辺事業への投資により、コストが増加し成長率が鈍化する可能性もあります。実際に、25年7月期の営業利益成長率は7.4%と、過去に比べると増益率が鈍化しています。
出典:マネックス証券
転職需要は旺盛であるものの、コスト増加を上回る売上の成長を持続できるか?
ここは大きなポイントとなりそうです。
強みは続く?あなたは投資するべきか?
最後に株価の推移と投資判断について考えてみましょう。
出典:株探
ビジョナルは2021年に上場を果たしました。上場以来、株価には上下動がありましたが、上場時の時価総額を上回る水準を維持しており、全体としては順調な推移を見せています。
同社の強みは、ビズリーチを中心とした強固なビジネスモデルと、転職市場におけるリーディングポジションにあります。2009年という早い段階でダイレクトリクルーティングの仕組みを確立し、「ハイクラス転職といえばビズリーチ」というブランド力を築き上げてきました。効果的な広告宣伝戦略がこのブランド力を後押ししています。
現在の市場環境を見ると、企業の中途採用需要は拡大傾向にあり、人口減少を背景に即戦力人材の採用がますます重要になっています。この流れは、ビズリーチにとって追い風となっているでしょう。
しかし、この強みがどこまで続くかは慎重に見極める必要があります。
リクルートなどの老舗人材企業も類似のプラットフォームを展開し始めており、競争が激化しています。転職者は複数のプラットフォームを利用する傾向にあるため、ユーザーのスイッチングコストは低く、いかに転職でビズリーチを使ってもらうかが課題となっています。
競合が増える中、ビジョナルは広告宣伝費を増やし続ける必要に迫られる可能性があります。これは利益率の圧迫や成長鈍化につながるリスクとなります。実際、2025年の増益率鈍化にその兆候が見られるかもしれません。
24年10月現在のPERは約25倍で、成長性を考慮すると妥当な水準と言えますが、上記のリスクも無視することはできません。
投資判断のポイントは、ビズリーチの現在の強み(ブランド力、先行者優位、効果的なマーケティング)がこれからも持続可能かどうかにあります。雇用の流動化やジョブ型雇用の導入といった追い風は続くでしょうが、競争激化に伴い、従来のブルーオーシャンがレッドオーシャン化しつつあることも事実です。
大資本を持つリクルートのような競合他社の存在を考えると、ビズリーチが代替されるリスクも無視できません。ビジョナルが今後も業界をリードし続けられるかどうか、新たな差別化戦略や事業展開の可能性を見極めることが、投資判断の分かれ目となるでしょう。
あなたはビジョナルの強みが続くと考えますか?
それとも、競争激化により優位性が失われていくと予想しますか?
この問いに対する答えが、ビジョナル株への投資判断を左右する重要な要素となるはずです。このレポート内容を参考に投資判断をしてみてください。
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執筆者
佐々木 悠(ささき はるか)
つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。
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