レーザーテックは長期で買って良い銘柄なのか?

今回はレーザーテックについてです。

これまでも半導体については度々取り上げてきましたが、やはり売買代金として市場を最も賑わせているのがレーザーテックだと思います。
しかし、レーザーテックがどのような事業を行ってどんな商品を売っているのか、理解しているでしょうか。

その企業がどういう事業を行っているにかきちんと理解していないと投資はなかなかうまくいきません。

レーザーテックの事業内容と強みについて考えていきましょう。

半導体の作り方

レーザーテックを見ていく前に、まずは半導体の作り方について説明します。
というのも、この半導体の作り方というものがレーザーテックの肝になるからです。

 

半導体とは、ウエハに電子回路が描かれたものです。
これは㎚(ナノメートル)という目には見えないレベルで作られています。
非常に細かい回路をどのようにして描くかというと、光を使います。
まず、「マスクブランクス」という板に回路の絵を描き(フォトマスク)、フォトマスクを通してウエハに光を照射し、回路を描くことになります。

回路の大元となるフォトマスクが間違っているとその後の全てが違うということになってしまうので、非常に重要な工程です。

レーザーテックはこのマスクブランクスやフォトマスクがしっかりできているか検査する装置を作っているのです。

シェア100%!レーザーテックの技術

栫井:それでは元村さん、レーザーテックの商品がどんなものなのか、説明をお願いします。

元村:はい。こちらがレーザーテックが実際に販売している欠陥検査装置です。

サイズ的には、人間の2倍以上の大きさのものとなります。

栫井:これは1台いくらくらいするのでしょうか。

元村:ものによりますが、少なくとも30~50億円で、最先端のものとなるとそれ以上の価格になります。

栫井:それだけ高価ということはかなり希少な技術ということですよね。レーザーテック以外にこれを作れる会社はあるんですか?

元村:マスクの欠陥検査装置自体は米国のKLAという会社やアプライド・マテリアルズという会社が作ってはいるのですが、最先端のものに関してはレーザーテックがシェア100%となっています。

栫井:”最先端”というのはどういうものになるんですか?

元村:最先端というのは、一番細かい回路を描くための技術を持っているということですね。

栫井:なぜそれはレーザーテックにしかできないのでしょうか。

元村:そのポイントとなるのが「EUV」というものです。半導体はどんどん小さくなっていて、7㎚よりも小さい回路を描こうとするとこれまで使っていた光の波長では描くことができないのです。なので、新たにEUV(極端紫外線)というものすごく細かい回路を描くための光の波長が今技術開発で進んでいるのですが、この波長で描かれたものを検査する検査装置はもうレーザーテックしか持っていないということです。

栫井:そもそも露光装置の時点でEUVを使っていて、その露光装置を作れるのがオランダのASMLだけでしたよね。それに付随する形で検査装置を作れるのはレーザーテックだけということですね。

元村:そういうことですね。これまでのARFやDUVと言われる波長の領域とEUVの間にものすごく高い技術的な壁があります。

栫井:ライバルはまだその技術を持っていないということですか?

元村:そうですね。今KLAが開発しているところではあるのですが、特許の出願状況などを見るとまだまだ及んでいないようです。

栫井:逆に言うと、7㎚よりも小さい3㎚や2㎚という世界になるとレーザーテックの検査装置を使わざるを得ないということですね。お客さんとしてはTSMCなどになると思いますが、いくら高い値段であっても買わざるを得ないと。

元村:そういうことです。

栫井:なぜレーザーテックはこの技術を持てたのでしょうか。

元村:本当にEUVが世の中の半導体の形成に実用化されるのかまだ疑われていた時代から、ここは将来的に必ず必要になると見込んで研究開発の領域を絞ってやっていたんですね。その時点で技術開発を行っていたのはレーザーテック一社だったということです。

栫井:なぜそんなことができたのでしょうか?

元村:顧客企業からの要望を一番受けていたということがありますね。KLAもEUVの検査装置をやっているんですが、その他の製品の方が売上比率として大きいので、KLAにとってはニッチな分野ということになるんですね。

栫井:KLAはすごく大きな会社ですもんね。

元村:はい。レーザーテックはそういうところにも目を付けて、売上規模が5倍も6倍もあるところに勝つためにはこの分野しかないという背景もあったと考えられます。

栫井:一本槍でいって、結果的に技術開発ができたということですね。

元村:マスクの検査装置の分野では絶対に負けないぞと10年以上前からやっていたということです。

栫井:実際に開発できたのはいつだったんですか?

元村:商品として実用化されたのは2018~2019年あたりですね。

栫井:それによって業績が大きく上がったりしたのでしょうか。

元村:そうですね。

EUVの欠陥検査装置ができて、その後コロナ禍に入り半導体バブルが起きて一気に需要が拡大した背景もあって、業績が急激に伸びています。

栫井:2018年からすると売上としては5倍以上になっているんですね。利益率も上がってきて40%にもなっているんですね。株式市場も当然反応しますね。

元村:それだけ最先端の検査装置が高くて高利益であるということですね。

 

栫井:今の好調な業績はこれからも続くのでしょうか。

元村:基本的には続くと思っています。競合のKLAが同じような装置を2025年に出すと噂はされているのですが、大手のTSMCなどでは2025年に2㎚の生産ラインの量産化が始まるので、そこには間に合わないですし、そもそも実績もないので大手に組み込まれることは考えにくいです。需要がある限りレーザーテックが伸び続けるだろうと思っています。

栫井:少なくとも今後数年は安泰ということですね。

元村:むしろ様々な追い風があると思います。

リスクはある?

栫井:競合リスク以外に何かリスクはあるでしょうか?

元村:やはり事業領域が幅広くなく、一本足に近いという状況があります。マスクの欠陥装置というところでは高いシェアを示してはいますが、ウエハの欠陥検査装置など市場が大きいところではそれほどシェアは取れていません。特定領域に依存しているリスクはあります。

栫井:一本足でやってきたことが強みにもなりましたが、逆に弱みにもなり得るということですね。

元村:なので当然市場の需給バランスによっても業績は左右されることになって、そういったリスクもありますね。

栫井:株価が乱高下していますがこれは何が影響しているのでしょうか。

元村:様々な要因があると思いますが、1つは少し仕手株化しているなという感じはあります。EUVの欠陥検査装置を作っているのはレーザーテックだけということで注目され、いろいろな人たちが出入りしているところはあります。

栫井:どんな材料で大きく動いていますか?

元村:将来性といったトピックに影響されることが多いですね。例えば2020年頃にKLAがEUVの欠陥検査装置を開発しているというニュースが出た時があって、こういうタイミングで株価がけっこう動きますね。技術的な優位性は一般の人にとってはなかなか分からないので、その中で競合が出てくるという話があると投資家心理的にはすごく心配になるので。

栫井:KLAが開発するかということはレーザーテックにとって死活問題ですもんね。KLAが開発したとしても分け合っていくことにはなると思いますが、今のような高い利益率とか急成長は難しくなるのかなというリスクはありますね。

元村:一時的に鈍化する可能性はありますね。ただ、同時に単価も上がりますし、今レーザーテック自体が受注してから納品するまで1年半~2年くらいかかっているので、それを穴埋めするのがKLAという形になるパターンもあるかもしれません。結果的に市場の成長スピードはプレーヤーが入った方が速かった、ということも可能性としてはあります。

栫井:レーザーテックの商品が高いので、世の中の流れが7㎚よりも前のプロセスに戻っていくという心配はないのでしょうか。

元村:微細化されていない分野も成長はすると思います。自動運転車とかEV車とかですね。これらにはそこまで最先端の技術は必要ないので必ずしもレーザーテックの商品じゃなくても用が足りる場面もあります。

栫井:やはりスマホとか小さいものに入れようとするから半導体も小さくしないといけないということなんですか?

元村:基本的にはそういうことです。もちろん運転の制御をしたりする脳みその部分など要所要所では高性能の半導体が必要になりますが、それ以外の部分では最先端のものでなくても良いですし、必ずしも小さくなくても良いということですね。

栫井:最先端のものも需要が増えていくし、そうでないものに関してもまだまだ必要になってくるということですね。

長期投資対象になるか?

栫井:長期投資を考えた時に、レーザーテックは持ち続けられる銘柄と言えるでしょうか?数年は心配ないということでしたが、KLAが開発するとなった時にレーザーテックはどうなるのでしょうか。

元村:人によって考えは分かれるとは思いますが、私は十分投資に値する企業だと思っています。専門的な話になりますが、特許の出願件数やその内容を見ると、EUVに関しては技術的な優位性がものすごく高いと思われます。技術的なところでKLAが割り込んでくるようなことはないのではないかと感じてはいます。

栫井:少し意地悪かもしれませんが、技術で他に追い付かれなかったものって無いじゃないですか。投資家としても追いつかれる前提で動く必要があると思いますが、もし追い付かれた時にレーザーテックは何をやっていくのでしょうか。

元村:確かにそこの部分はリスクだと思います。

これがレーザーテックの中期経営計画に書かれていたもので、どの領域に開発を進めていくのかを示した図になりますが、今はマスクの欠陥検査装置の部分が下支えしていますが、ウエハの欠陥検査装置はKLAなど海外勢が強いんですね。今のところ、シリコン・カーバイトや窒素ガリウムといった新しい素材のウエハの欠陥検査の領域では技術開発が進んでいて優位性を築きつつはありますが、ここは市場も大きくて競合も力を入れてくるはずなので、レーザーテックが右肩上がりでいくかどうかはまだ分からないですね。やはりマスクの欠陥検査装置に依存している状態なので、ここが追い付かれると厳しいなという印象があります。

栫井:今この分野だからこそ飛び抜けられたというところがあって、既に他がいる所に入っていくのはなかなか大変ですし、もしできたとしても今ほどの高い利益率や成長を取ることは難しい気もします。

元村:そうですね。コア技術を最も活かせている部分がマスク検査装置だという事実はなかなか変えられないと思います。

栫井:そうでなければKLAとガチンコでたたかうことになってしまいますもんね。

元村:レーザーテックもそこだけは競合優位性を奪われないように開発を進めていくだろうと思います。

栫井:「㎚(ナノメーター)からA(オングストローム)世代へ」とありますが、そうなるとEUVとはまた違う技術の話になるのでしょうか。

元村:おそらくそうなると思います。次世代の技術を先取りしていくことで、今までは実績を出してきたというのがレーザーテックです。

投資タイミングとしては今かも

栫井:技術の話は難しくて、元村さんの話を聞いても最終的に優位性があるのか判断しづらいところがあります。その分野の研究者でもない限り確実性が分からないので、投資家として考えた時にポートフォリオをこれだけでとはならない銘柄だと思います。今PERは30倍くらいですが、一時は100倍くらいありましたよね?

元村:はい、その時からするとだいぶ落ち着いてきた感じはあります。株価の推移はこのようになっています。

出典:Google

栫井:株価が2万ちょっとでPER30倍ということなので、ある意味ではPER100倍あった時もバブル的に上がっていたというわけではなさそうですね。

元村:そうですね。

栫井:先々の成長まで織り込んでいたと考えられるので、株式市場の賢い部分も見て取れます。それにしても乱高下が大きいですね。

元村:特に今年は45,000円くらいまでいった後に20,000円くらいまで落ちたりしましたね。

栫井:しかし今回の話を聞くと目先の需要や強みは十分あるということなので、ずっと持つかどうかは分からないですが株価が4万円を超えていた時と比べると投資するには俄然良いということですよね。ファンダメンタルズがある程度見えていて、その中でPER30倍、受注も来ていてそれがやがて売上になり利益になるわけですね。

元村:高価格帯のものが主に売れていくので、おそらく利益の成長スピードは売上よりも上回るのではないかという印象です。

栫井:乱高下はあり得ることとして、投資すると考えたら今のタイミングは面白そうですね。

レーザーテックの今後は?

栫井:今後レーザーテックはどのようになっていくでしょうか。

元村:基本的に市場の見通しとしては明るいと思っています。なぜなら、フォトマスクの需要自体が増えるからです。

その要因としては、半導体自体の需要が増えていくというものと、マルチパターニングですね。小さい回路を形成するのにフォトマスクが使われますが、1つのフォトマスクでは回路が描ききれないくらい複雑化していて、フォトマスクが2枚、3枚必要となる機会が増えてきます。この掛け算でフォトマスクの需要量が増えていって、それに伴ってマスクの欠陥検査装置の需要も増えていくだろうということです。

栫井:マスクの需要が増えるということは当然ラインも増えるということで、そのラインごとに検査装置も置かれることになってもおかしくないですね。

元村:そうですね。先端品になるほど検査に時間がかかるのでその分台数が必要になるんですね。レーザーテックは特に最先端の部分の装置に強みがあるので、台数が増える要素もたくさんあるし、それに伴って高価で利益率の高い商品が売れるという見通しもあると思います。

 

企業に投資する時はやはりその企業の中身、事業内容をしっかり押さえて投資するとより地に足のついた投資ができると思いますので、ぜひ実践してみてください。


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