日経新聞「連続増配はテンバガーの新公式」。これ本当?

今回は、日経新聞の記事に触れたいと思います。

出典:日本経済新聞

連続増配している株がテンバガー(10倍株)が多いという内容ですが、日ごろから株を見ている私たちからするとツッコみどころの多い記事です。

内容を詳しく見ていきたいと思います。

【連続増配=テンバガー】のウソ

記事の中には、花王が34年、KDDIが22年、三菱HCキャピタル25年、ニトリ20年と連続増配の年数が書かれていて、連続増配の年数と連続増配期間中の株価上昇率という数字が並んでいます。

 

日本で今、連続増配の記録が長いのが花王で34年となっています。
バブルの頃からずっと増配を続けているということです。

2位はSPKで、自動車整備の補修商品を卸す商社です。

3位は三菱HCキャピタルで25年連続増配です。

 

注目すべきは連続増配中の株価上昇率で、花王が34年で株価が10倍になりました。
SPKは26年増配を続けて株価は12.5倍、三菱HCキャピタルは25年で13.2倍となっています。

 

確かに、挙げられている15年以上連続増配している35銘柄のうち、17銘柄がテンバガーを達成しているということで、割合としては非常に高いように見えます。

実際に連続増配は素晴らしいことですし、連続増配している企業の多くは素晴らしい企業だと思います。

 

ただ、連続増配=テンバガーと印象付けて、挙げられた銘柄を買えば良いかのように論ずるのは飛躍しすぎかと思います。

というのも、誤解を生みやすいところがあり、1つはこの「10倍」という上昇率です。
確かに10倍株は誰もが夢見るものですが、例えば花王の連続増配は34年であり、34年かかって株価が10倍になったということです。
これは計算すると、年あたりの上昇率は7%となります。

7%の複利を積み重ねてきたことは確かに素晴らしいことですが、7%というのはインデックスと同じくらいであり、花王に妙味があったかというと実はそうではないということです。

 

そもそも、連続増配を続けられる企業は、業績がその間ずっと良かったことは当たり前であり、株価も上がっていくことになります。
つまり、「業績がずっと良かった企業の株価が上がっています」という至極当たり前のことを言っているに過ぎません。

 

記事の論調としては、株主還元が大事であるということですが、確かに株価を決める要素として株主還元は大事ですが、挙げられている企業が株主還元をとても重視してきた企業かというと必ずしもそうではないと思います。
もちろんある程度重視していることも間違いないですが、極端に配当を出している企業が良い企業とも言えません。

配当性向というものもあり、逆に配当をたくさん出しすぎるとそこから企業として成長することが難しくなってくる、あるいは成長が難しいから配当を多く出しているという見方もできます。

 

企業というものは、利益を出してその利益を次の成長の種にすることによってまた新たな芽を出して成長させるという動きを行っています。

ただただ株主還元を重視して、なんなら利益を全て配当に出している企業がテンバガーになるかというとそれは全く違う話になります。

 

記事に挙げられた企業も、配当性向100%などたくさん配当を出している企業はほぼ無く、日本の平均的な配当性向30%くらいかやや多いといったところです。

 

連続増配という部分にもトリックがあって、最初の配当性向を低くして、そこから少しずつ上げていけば連続増配ということができます。

よって、ただただ連続増配であれば良いとは言えないということになります。

 

同時に、ここまで連続増配を続けている企業が今後も同じように長い期間増配を続けられるかどうかというのはまた別の問題となります。
いくら30年好調な業績が続いたからといってここからさらに30年間ずっと良いとは限りません。

 

アメリカには50年以上増配を続けてきた企業が多くあります。
その中には有名なP&Gや3M、ジョンソンエンドジョンソン、コカ・コーラなども含まれます。

連続増配が50年以上にも及んでいるならここから先も続けられるように思えますが、20数年程度ではまだ分からないというのが正直なところです。

日本企業の配当感

日本企業の連続増配が少ない要因として、1つはリーマンショックがあります。
リーマンショックで脱落してしまった企業も多く、アメリカでも同様だったと思いますが、日本の場合はバブルの崩壊もあったのでそこで連続増配も止まった企業が多かったのではないかと思います。
脱落しなかった企業もことさら何かが素晴らしかったということはなく、たまたま免れただけのような気もします。

 

もう1点あげられるのは日本の株主還元の方向性です。
元々、配当性向を基準に置いている企業が非常に多かったのです。
配当性向は30%程度にしようという日本企業の横並びの感覚がありました。

それが近年では転換してきていて、配当にDOE(純資産配当率)を用いる会社が増えてきました。
純資産は基本的に減るものではなく、利益が出ている限り増え続けるものなので、配当もそれに従って増え続けるということになります。

今後DOEを株主還元の指標に据える企業が増えれば増えるほど連続増配株も増えてくるでしょうし、何より配当が安定してきます。

日本企業の良くなかったところは、配当性向を指標にしていたので、リーマンショックのような利益が大きく減ってしまうことがあると、どの企業も配当を減らすという動きになったところです。
それが無くなってくるというのは良い流れだと思います。
配当が減らないということは株価の安定にも寄与します。

連続増配は安定性の証左にはなる

リーマンショックも乗り越えて連続増配を続けてきたということは、少なくとも安定性は高いと言えます。
挙げられた企業がこれから先20年30年増配を続けられるかは分かりませんが、全体を見ると、連続増配を続けやすい企業の特徴というものは見えてくるかと思います。

大部分に言えることは国内の企業であるということです。
外国に出ていっている企業はリーマンショックの影響を受けやすかったところがありますし、円安だと好調になりますが円高だと厳しくなり、利益が安定しにくいです。

一方で国内でやっている企業であれば為替の影響も少ないですし、同時に消費財の企業であれば景気が悪くなったとしても利用しないわけにはいかないのでやはり強いです。

 

記事で挙げられた企業は、もちろん株価を伸ばす企業としても大事ですが、それ以上に安定して心穏やかに投資を行える企業群なのかなと思います。
そういった心穏やかに投資を続けられる企業を長く持っていれば、テンバガーも難しくないと言えるでしょう。

記事を鵜呑みにしない。思考の入口にしよう。

総じて言えることは、日経新聞は時おり恣意的な統計を出したりするということです。

しかし、そこから私たちはいろいろ考えていくことが大事となります。
今回のケースで言えば、消費財などの国内の企業が安定して増配を続けていて、増配が続けられるということは背景には安定した業績があるということです。

今、日本も海外と同様にインフレの時代となっています。
インフレになると、現金を持っていてもその現金の価値は相対的に下がっていくことになります。
かといって物を買っても古くなったり使わなかったりもします。
そんな時に貯金として置いておくのではなく安定した企業の株を買っていれば、企業は物を売って稼いでいるので物価が上がれば業績も上がり株価も上がるということになります。

そんな中でより安定した企業に投資したいと思ったら連続増配の観点で見るのも良いと思います。

同時に”長く持つ”ことの重要性も認識できるのではないかと思います。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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