サンリオの株価が急上昇しています。
出典:株探
今回は直近の決算を分析し、なぜサンリオが絶好調なのか、この好調はどこまで続くのかを考察します。
ライセンスビジネスの比率が高い
まずは事業内容を解説します。
サンリオは歴史ある会社です。1960年にギフト商品の製造、販売業務を祖業として会社を設立しました。
サンリオといえば、ハローキティ、ポムポムプリン、マイメロディなど、数多くの人気キャラクターがあります。
出典:サンリオ キャラクター紹介
これらのキャラクターを軸として、主に4つの事業を行っています。
出典:決算説明資料
物販ビジネスはギフト商品の企画・販売、直営店・百貨店のサンリオショップや量販店・専門店への卸売、Eコマース等です。つまりグッズ販売による収益です。
ライセンスビジネスは著作権の許諾・管理、キャラクター使用許諾です。例えば、GUやadidasがキティちゃんグッズを販売する際にサンリオに支払う料金です。
テーマパークビジネスにはサンリオピューロランド(東京都)ハーモニーランド(大分県)などの入場チケット代金が含まれます。
新規ビジネスは、バーチャル音楽フェスや英語の知育玩具など様々な事業を営んでいます。
特徴的なことは、売上に対するライセンスビジネスの割合が高いことです。
ライセンスビジネスは、製品を作るための原価やゲームの開発費がかからず、キティちゃんの使用権を他社に提供するだけで収益が得られるため、非常に利益率が高いビジネスモデルです。これが好調の1つの要因です。
~キティ50周年~ 世界で広がるIP需要
次に最新の決算を見てみましょう。
24年11月1日に発表された決算は、売上高累計628億円(前年同期比+43%)、営業利益累計235億円(同+77.3%)、と好決算となりました。
通期上方修正(売上 当初から+9.5%、営業利益 同+10.9%)も発表されています。
もう少し決算を詳しく見てみます。
まずは売上と利益の70%を稼ぐ、日本国内の動向です。
出典:決算説明資料
最大の注目点は、利益ベースで物販ビジネスとライセンス事業の両方がしっかりと伸びていることです。特に、ライセンス事業の前年比売上増加額が25億円であるのに対し、営業利益の増加額は24億円です。
売上増加分がそのまま利益になる、いわゆる限界利益率が非常に高いビジネスであることがわかります。このライセンス事業が伸びている理由の背景には、ハローキティ50周年に合わせた各種プロモーションの拡大や複数キャラクター戦略の成功によって、ライセンシー(IP利用者)のリピート率が向上しているためです。
物販事業においても同様で、キティ50周年記念グッズがインバウンド観光客も含めた幅広い顧客から人気であるため好調です。
一方で、アジア(中国)と米国も成長しています。
なお、地域別売上・利益の推移を見るとこの2つの地域が急成長していることがわかります。
出典:決算短信より作成
最新の決算資料を見ると海外事業の大半がライセンス収入であり、売上高が増加しています。
出典:決算説明資料
北米ではアパレル、玩具、ヘルス・ビューティー領域でのライセンス事業が好調です。ここでもキティ50周年記念イベントや展示会による認知度向上などが貢献しています。YouTubeやTikTok、自社オウンドメディアを活用し、積極的にサンリオキャラをアピールしています。
アジア(中国)では、2022年に中国大手ECサイトを運営するアリババグループ傘下のアイリッシュと提携した効果が出ています。模倣品などの侵害対策なども含め、一定の成果が出始めており、コンテンツ創出力に磨きがかかっていると言えるでしょう。具体的には、アイリッシュは提携する事業者に向けてデザイン監修、製品供給、マーケティング支援などを行います。特にサンリオキャラがデザインされたコスメ、美容グッズなどなどが人気です。
この人気は国内にまで広がり、最近では、「日本でキティちゃんの限定グッズが販売されると中国人の転売ヤーが殺到した」というニュースがありました。
出典:FNNプライムオンライン
この商品は元値の4倍近い価格で取引されているようです。裏を返せば、それほどキティちゃんの人気が高いとも言えます。
その他にも、韓国ではK-POPアイドルがサンリオグッズの写真を投稿し、人気を呼んでいます。これを好機と捉え、アイドルグループや人気コスメブランドとのコラボが加速しているのです。
このようにサンリオの現在の好調は、国内外でのライセンス事業の成長が軸となっているのです。
なぜ売上が倍、利益が10倍に?
ここまでは短期の好調要因を分析しましたが、次はもう少し中長期で考えてみましょう。
驚くべきことに、コロナ前の2019年と25年の修正予想を比べると、売上高は倍以上、営業利益も10倍に届こうかという成長力です。
出典:決算説明資料
営業利益の急拡大はライセンス成長であることを説明しましたが、ではなぜファンにとってサンリオのIPが人気が出ているのでしょうか?
その背景にはサンリオの経営改革とファンの動向が関係していると考えます。
辻社長の経営改革
経営改革の中心は2020年から社長に就任した辻 朋邦社長です。
辻氏は、先代でサンリオの創業者である辻慎太郎氏の孫にあたります。慶應義塾大学を卒業後、サンリオとは関係のない一般企業に就職。2014年にサンリオに入社し、31歳の若さで社長に就任しました。彼は、2022年から2024年までの中期経営計画で「第二の創業」を目指しました。
その内容をまとめると、以下のようになります。
ざっくりまとめると、社内のモチベーションを管理し、適切なプロモーション・商品開発に向けて経営リソースを割いたということになります。
1.では経営陣の若返りと人事制度の整備を行いました。特に驚くべきことは取締役会の平均年齢を65歳から40歳前後まで引き下げたことです。サンリオの主要顧客は若い女性ですが、少しでもその感性に近づけるために、女性の取締役を抜擢するなど組織風土改革に取り組みました。
2.では乱立していた商品を整理し北米・国内の赤字物販商品を少なくするなど経営の効率化に貢献しています。
そして3.では、SNS強化などを行います。
人気のハローキティだけでなく、過去の人気キャラクターをリデザインし、SNSで情報発信することで人気を再熱させています。北米では「Hello Kitty Friends」というYouTube動画を定期配信し、ハローキティとその友達として紹介しています。
こういった社内整備とマーケティング戦略の見直しによって、サンリオの人気が見直され、今の業績の急拡大につながっていると言えるでしょう。
消費者がサンリオにハマるきっかけと理由
では、消費者は各種SNSや動画コンテンツなどをみてどのような影響があるのでしょうか?
サンリオファンの方のブログなどを拝見すると以下のような声がありました。
「単純にキャラクターがかわいい。近年のサンリオの推し活グッズ(メガネケースやキーホルダー)のラインナップの多さもあり、ファンが増えている気がする」
「なにわ男子やJO1などのアイドルグループとのコラボでサンリオに興味を持った。それぞれのメンバーが考案したキャラクターのぬいぐるみが発売され購入した」
「キャラクターが歌ってみたの動画を見てシナモロールの大ファンになった」
「ピューロランドに行くとガチファンの熱量の高さと層の厚さに驚かされる」
このように、様々なきっかけを持ってサンリオキャラクターのファンになっているようです。アイドルグループのコラボなどは、まさしくIP戦略による間口拡大の典型例だと言えます。
そして、毎年盛り上がるのが「サンリオキャラクター大賞(キャラ大)」です。
キャラ大はAKB総選挙のような仕組みで、上位キャラは今後の活動で優遇されますが、順位が低いキャラは露出が減るシステムです。
各キャラクターは動画配信や各種イベントによってファンに魅力を訴えかけ、ファンも好きなキャラの露出が減らないようweb投票を行うのです。
まさしく「推し活」の成功例でしょう。
ちなみに、今年のキャラ大の優勝はキティちゃんではなく、シナモロールです。
出典:サンリオ ホームページ
これもサンリオの戦略の1つである既存IPの鮮度の低下に対し、各種マーケティング施策を改善した結果だと考えます。
したがって、キティちゃんだけではなく、様々なキャラにファンが存在し、推し活として拍車をかけていることが、ファンの増加につながり近年の売上高の拡大をもたらしていると考えます。
投資するべきか?
ここまでをまとめます。
- 短期的な好調の要因はライセンス事業の拡大。国内外問わず周年記念イベントも関係し、IPに対する需要が拡大している
- 長期的には経営体制の見直しとSNS・コラボ戦略の強化により、様々な接点からファンが増加したと見られる
これらの要因によって近年の好調につながっています。
再度株価を見てみると、現在は1株4,500円、PERは35倍です。
出典:株探
この水準は、上方修正もあり、サンリオに対する高い期待が織り込まれていると考えます。
リスクとして考えられるのは、今期の好調がキティ50周年によるものであり、来期以降成長が止まる可能性です。
この場合は、業績が下降・株価が下落することも考えられますが、以前よりはこのリスクは抑えられています。
実は以前のサンリオは業績が安定しなかったのです。
出典:中期経営計画
この背景にはサンリオの「キティ依存」という問題が関係しています。2010年以前は売上の75%以上がキティちゃん関連グッズであり、キティちゃんブームが起こると売上が成長し、その後は売上が縮小するサイクルが繰り返されていました。
しかし、現在キティ依存の問題も解決されつつあります。これも、先に説明した辻社長の経営改革の成果です。
出典:中期経営計画
したがって、このキティ構成比と「キャラ大」をみると、名実ともにキティ一本足打法ではなくなっています。それに対しサンリオは、今後3年は様々なアニバーサリーイベントを企画しています。
出典:決算説明資料
キティちゃんを上回る人気を誇るキャラクターの周年イベントも企画されていることに加え、ワーナー・ブラザースとのハリウッド映画というトピックも控えています、この映画がサンリオの業績にどこまで影響を与えるのかは不透明ですが、注目を浴びるトピックでしょう。
SNSコンテンツの発信やアニメーション作成も継続的に行います。
したがって、同じ成長力(今期営業利益は前年比+50%増)で成長し続けるかは不透明ですが、今後もイベントは豊富であり、かつてのように再び下降してしまう確率は減少していると言えるでしょう。もちろん、一方で今回も一過性のブームであるリスクも念頭に置いておく必要があります。
いかがでしたでしょうか?つばめ投資顧問では、投資に役立つ情報をお届けします!
最新情報を見逃さないように、メールマガジンの登録をお願いします!
執筆者
佐々木 悠(ささき はるか)
つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。
プレゼント①『株式市場の敗者になる前に読む本』
プレゼント②『企業分析による長期投資マスター講座』第一章
プレゼント③『YouTubeプレゼン資料』
メールアドレスを送信して、特典をお受取りください。
※個人情報の取り扱いは本>プライバシーポリシー(個人情報保護方針)に基づいて行われます。
※送信したメールアドレスに当社からのお知らせやお得な情報をお送りする場合があります。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。