赤字スレスレ!資生堂は復活できるか?

今回は資生堂についてです。

資生堂の業績が厳しいという報道が出ていますが、なぜこのような厳しい状況となってしまったのでしょうか。
そして、これから復活することができるのかということについて考えてみたいと思います。

中国不調で赤字寸前

資生堂の第3四半期の業績が発表され、不振が続く中国事業と免税品販売などのトラベルリテール事業の先行きが不透明だとして220億円の増益予想だったところを60億円まで引き下げたということです。

出典:マネックス証券

2016~2019年は好調で、利益が倍以上に伸びていましたが、2020年のコロナで大きく落ち込み、その後復活しつつあったのですがそこからまた落ちてしまい赤字寸前にまでなっています。

もちろんコロナ禍という環境は厳しかったわけですが、その時以上に今の中国の状況は厳しいです。

なぜ資生堂は中国の影響を大きく受けてしまうのでしょうか。

 

まずは2016~2019年の絶好調だった時のことを考えてみましょう。

この時期に何があったかというと、中国の経済状況が非常に良くて経済成長率もものすごく高く、日本で言うところのバブル期のような状況でした。
不動産価格の高騰で中国の人々が金銭的に豊かになり、消費が活性化しました。
そんな中で、中国で高級ブランドとして受け入れられていた資生堂の商品が多く売れました。
中国国内で売れるのはもちろんですし、インバウンドや免税店の売上(トラベルリテール)も激増しました。

その後コロナがあり、インバウンドなどが無くなり、外出もしなくなったということで、必然的に資生堂は厳しくなりました。
しかし、コロナで厳しかったのは資生堂だけではなかったので、特に注目されることはありませんでした。

コロナが明けてふたを開けてみると、中国での売上が厳しくなってきました。

 

中国は今一転して景気が悪くなってしまっています。
かつて不動産で潤ってきたところからの反動で、不動産価格が下がり、人々は財布の紐を締めなければならなくなりました。

また、これまで民間企業が活性化することで経済成長を遂げてきたのですが、習近平氏は民間企業に対して縛りを強くしていて、資本主義とは一線を画す動きをとっています。

中国の景気が悪くなり、高級品とされる資生堂の商品は売れなくなってしまいました。

 

地元企業も成長してきて、資生堂を買わなくてもより安い商品が地元企業や韓国コスメであるということで、消費者がそちらに流れていってしまいました。

 

資生堂が注目されがちですが、ポーラ・オルビスやコーセーなど他の化粧品メーカーも同様の状況で、資生堂が特段悪いということではないのですが、純粋に中国の景気が悪いということは外部環境としてあります。

ただし、その中でも資生堂の中国への偏重やそこからの下落は目立つことも確かです。

 

資生堂は1981年頃という早い段階で中国に進出していました。
当時の中国はまだ貧しく、中国に進出して上手くいくとは思われていなかったのですが、それでも進出し、高級ブランドとしての位置づけを確定させてきました。
だからこそ中国経済が潤ってきた2016年頃に大きく飛躍することとなりました。
これは資生堂にとって大成功だったと言えます。

しかし、そこに胡坐をかいてしまった部分もあったのではないかと思います。

 

そこに拍車をかけたのが、ちょうど中国が花開いた時に就任した、今も会長である”プロ経営者”の魚谷さんです。
プロ経営者としては、自分の任期中に何か実績をあげたいという気持ちがあったと思われ、調子の良い中国に力を入れることでもっと業績を伸ばすことができて、日本初のグローバルビューティーカンパニーになれるということで、一気にそちらに注力しました。

 

ところが、中国の景気がそれほど長続きせず、肩入れしすぎた反動をくらっているところです。

プロ経営者が自分の功績を残すために目先の業績を上げようとして企業の長期的な価値を毀損してしまうことはよくあります。(日本マクドナルドやLIXILなど)

一方で、魚谷会長のやり方が全て間違っていたというわけでもなく、資生堂は日本中心でやっていたら厳しかったことには変わりないと思います。
2007~2015年あたりの業績は基本的に右肩下がりとなっていて、起爆剤として必要だった部分もあります。

資生堂の沿革と手に入れた「強み」

ただ、ビジネスポートフォリオ的な考えで言うと、日本が厳しいから捨ててしまうというのも違うのではないかと思います。

なぜなら、資生堂の本当の強みは日本の中にあるのではないかと感じるからです。

 

資生堂は元々薬局から始まりました。
「新しく深みのある価値を発見し、美しい生活文化を創造する」という理念のもと、医薬的な観点から化粧品を開発し販売してきました。

特にハマったのが高度経済成長期です。
高度経済成長期というと、みんなが中流になって百貨店に押し寄せるような時代です。
その百貨店で、いわゆる「美容部員」の力によって売上を伸ばしました。

また、CMに有名な女優などを起用してイメージアップを図るマーケティング戦略が功を奏しやすい時代でもありました。

元々商品の質は良くて、イメージを高めて、実際に来店したお客さんには1人1人アドバイスしながらおすすめしていくことで、多くの人が「資生堂の商品は良い」という状況(ブランドロイヤリティ)を作り上げてこれました。

 

中国でも同じように、まだ経済が発展していない時代から百貨店に入ったりして、それが花開いたところでもありました。

高級路線は失敗か

ただここに来て上手くいっていない部分が見受けられます。

第一点として、高級路線化があります。
私も全てを把握しているわけではありませんが、パッケージを豪華にするなど、欧米のハイブランドをまねたような動きが目立っているように感じます。
高級ブランドとなることができれば利益率を上げられるということでそちらに舵を切ったのかもしれません。

逆にシャンプーの「TSUBAKI」など、裾野の広い部分を疎かにしているように感じられます。

その結果、特に顧客の裾野が広い部分(若い層)で資生堂の商品を使っている人が少なくなっているのではないかと思います。
SNS広告などに載っている韓国コスメやプチプラのブランドを使っているのではないでしょうか。

SNSを見ていても資生堂の商品が出てくることはほとんどなく、SNSマーケティングの面ではかなり後れを取っていると思われます。

美容にとことんお金をかける人々は美容整形(またはそれに近しいこと)まで行うようになっていますし、かといって欧米のブランドのような高級ブランドに入っているかというとそうでもなく、どっちつかずの状況になってしまっているように感じます。

 

百貨店でも、美容部員がしきりにおすすめすることは少なくなっていて、資生堂と消費者の接点がどんどん失われていっている部分があるのではないかと思います。

強みを再構築できるか

資生堂の業績の話に戻りますと、実は私はこれから数年の資生堂の業績について悲観はしていません。

これまで資生堂は、日本ではコスト削減を行い、一方で中国や他の地域では伸ばすとしてきましたが、中国・トラベルリテールの高い成長にも見直しが必要、米州・欧州・アジアパシフィックでは成長よりも収益性の向上が必要とし、完全に守りに入っている状況です。

 

魚谷会長は2024年いっぱいで辞めて、次のCEOが就任することになっています。
役員が変わるということは、これまでの失敗を失敗として扱い、次に進もうとしているのではないかということが見て取れます。

 

業績の推移を見ると、売上に関してはそれほど落ちているわけではなく、一方で(M&Aなどによる)コストがかさんでしまっていた部分があったと思います。

人員を削減する話もありましたが、日本・海外も含めてうまく作用していないコストを見直す時だと思います。
また、ブランドも多く作りすぎているように見えるので、そこも一気に整理することが大事ではないでしょうか。

一時的にコストを削ることによって利益を復活させることは十分にできると思います。

 

ただし、それで株価が戻るかどうかは別の話です。

出典:Google

資生堂の株価はここ5年で65%も下がっています。

現在の赤字スレスレのところからは利益は回復すると思いますが、利益が2016年の頃に戻ったとしてもPERは35倍であり、ここから株価が上がっていくためにはさらにそこから先の成長を描けなければなりません。

日本でも韓国コスメやプチプラ化粧品、高いところでは美容整形なども台頭してきていますし、中国は景気が悪く、地元企業も参入してきています。
欧米ではそもそもあまり上手くいっておらず、八方ふさがりのように見えます。

 

その中で資生堂が使える強みとは何なのでしょうか。

私が可能性を感じるところは、「研究開発力」です。
資生堂の商品自体は質がよく、ネットのレビューなどでも評価が高いです。
しかし、それが若い人には伝わっていないように思えますし、少し高価なのでハードルが高く、そのハードルを越えられるようにプッシュできていないのではないかと思います。

かつて美容部員がやっていたお客さんとの接点をどうやって取り戻せるかが資生堂にとっての鍵になるのではないでしょうか。
もちろんSNSなどによるアピールも行っているでしょうが、全く上手くいっていないように思います。

唯一の解決策ではないと思いますが、顧客にアピールする方法を本気で見つけていかないと資生堂に先は無いと思います。

 

昔からのお客さんもいて、そこで売上が支えられている以上、潰れてしまうようなこともすぐにはないと思いますが、成長するためにはお客さんとの接点を取りもどすことが必要です。

 

かつてはテレビCMにお金をかけていればブランドを構築できていましたが、時代は変わって、ネットの口コミやインフルエンサーの力など、遡及力が分散しました。

その時代をどう乗りこなすか、仮にモノは良いとするならどうやってお客さんとの接点を作っていくかということが、これからの資生堂にとってのマーケティング戦略になると思います。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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