「意識高い系企業」のHOYA(7741)。コーポレート・ガバナンスは株式投資に役立つか?

HOYA(7741)は、日本において突出してコーポレート・ガバナンスへの意識が高い企業です。

コーポレート・ガバナンスとは、日本語では「企業統治」と訳されます。なあなあで経営するのではなく、株主・取締役・経営者が企業の価値を高めるために適切な役割を果たすことです。

6人中5人社外取締役でROE20%超

本来、株主・取締役・経営者は別々のもので、それぞれが適度な緊張感の上に成り立っていなければなりません。取締役はオーナーである株主によって選出され、会社の経営を監視する役割を委託されます。

しかし、多くの日本企業ではほとんどの取締役が内部昇進者によって占められます。身内が身内を「監視」する効果は薄く、緊張感のない経営になってしまうことが珍しくないのです。

その対局の立場にあるのが、HOYAです。わかりやすいところで言えば、取締役6人のうち5人は独立性の確保された社外取締役で占められます。彼らは直接経営を直接担わず、経営の監視に特化しているのです。

では、誰が会社の経営を行うのかと言うと、「執行役」と呼ばれる人たちです。執行役員ではありません。これは「委員会設置会社」に独自の役職です。取締役会から委託され、会社の経営に専念する人たちです。

執行役が考えるべきなのは、取締役会の上に存在する株主の利益です。HOYAではSVA(Shareholders Value Added)という指標を用いて、株主の利益を測定しています。これはすなわち、毎年どれだけ株主価値を増やせているかということです。

これを単純化したのがROEです。HOYAのROEは21%と、平均の8%を大きく上回ります。限られた資本でできる限り多くの利益を生むことができれば、必然的に株主価値の向上=長期的な株価上昇につながります。

「ブルーオーシャン戦略」を忠実に実践。経常利益率は驚異の25%超え!

HOYAの事業は、メガネ・コンタクトなどの「ライフケア」と、半導体製造用マスクブランクス・ディスプレイなどの「情報・通信」があります。

事業戦略は一貫しています。その根底にあるのは「小さな池の大きな魚」です。すなわちニッチ市場ながらトップシェアを取れる分野に経営資源を集中させます。

例えば、メガネレンズでは世界シェア2位半導体製造に用いられるマスクブランクスでは世界シェア1位です。これらはいずれも高い利益率を生み出します。どちらも現代社会に不可欠なもので、安定感があります。

少しでも経営学をかじった人なら「ブルーオーシャン戦略」という言葉を聞いたことがあるでしょう。HOYAの経営はこれを忠実に実践しているのです。

すごいと思うのは、それを机上の空論に終わらせず、実践して成功を収めていることです。利益は着実に成長し、メーカーで10%あれば優秀とされる売上高経常利益率は、25%を超える驚異的な水準を叩き出します。

【出典】マネックス証券

業績の伸びに比例して、株価も堅調です。この10年できれいな右肩上がりを描いています。コーポレート・ガバナンスがしっかりしている会社だからこそ、投資家も安心して株を持ち続けることができるのです。

チャート画像

安心して持ち続けられる会社だが、成長には大きな決断も必要

ただし、今後も右肩上がりが続くかどうかは、これもまた経営者次第です。

「小さな池」は、あまり大きくはなりません。成長を続けるためには、新たな池を次々に見つけなければならないのです。これを自力だけでやるのは容易ではありませんから、M&Aなどの戦略が求められます。

これまで小さなM&Aは行ってきたHOYAですが、会社を大きく変えるほどのものを実行したことはありません。これをするためには、ガバナンスだけではどうにもならず、経営者の大きな決断が必要になります。

幸いにも財務状況は非常に優秀で、実質無借金会社です。ここからさらに伸びるには大きな決断をするか、さもなくば配当や自社株買いで株主に還元する姿勢が求められます。

もっとも、これだけコーポレート・ガバナンスのことをわかっている会社ならそんなことは重々承知しているはずです。その点で見ていてやはり安心感があります。

株価はPER25倍とやや高めの水準です。半導体製造といった市況関連商品も抱え、今あえて投資するタイミングではないと考えます。しかし、下がった時に買うとしたら、あとは安心して持ち続けられる事業内容および経営状況と言えるでしょう。

コーポレート・ガバナンスや経営戦略の教科書にしたい会社です。

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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