映画『マネー・ショート』に見る投資の教訓

現在公開中の映画『マネー・ショート』を見てきました。サブプライム危機を事前に察知し、空売り(ショート)戦略を成功させたウォール街のアウトローの話です。投資家はもちろんのこと、経済に興味があれば見るべき作品です。

あらすじ(ネタバレあり)

サブプライム危機の数年前、その予兆に気づいたファンドマネージャーや成り上がりの個人投資家が、周囲からの嘲笑やウォール街の不条理に耐えながら空売りを仕掛け、ご存知のとおりサブプライム危機で大儲けする話。一見痛快ストーリーにも見えますが、成功しても苦悩が続く人間ストーリーとなっています。テーマにあるのは、ウォール街(金融業界)の異常性繰り返すバブルの危険性お金に関する虚しさというところでしょうか。

主人公たちは、サブプライムローンやそこから派生するMBS(資産担保証券)の危険性に気付くのですが、ウォール街の「金融のプロ」たちは全く相手にせず、彼らを「異常者」として嘲笑の的にします。主人公の一人であるファンドマネージャーは顧客から追及され、ファンドの解約を停止したことで訴訟を起こされてしまいます。

ウォール街は、住宅ローンを「安全なもの」として扱っています。銀行はローンを組成するなり、それを担保とするMBSとして自分から切り離します。格付会社はMBSに対し盲目的に高格付けを付与しているので、投資家は安心して購入していました。

しかし、住宅ローンの多くは「サブプライム」と言われ、借入人に全く収入がなかろうと、家の値上がりを前提に誰でも借りられる仕組みになっていたのです。逆に言うと、家の値上がりが止まった瞬間に崩れてしまう砂上の楼閣なのですが、ウォール街は知ってか知らずかそれを礼賛し、好景気に踊っていました。歴史上何度も繰り返すバブルの仕組みです。

サブプライム危機が発生し、主人公たちは「賭け」に勝ってハッピーとなるかというと、そうではないのがこの映画の見どころです。上記のファンドマネージャーは、懇意にしていた顧客と弁護士を通じてしか連絡を取れなくなり、ファンドを畳みます。モルガン・スタンレー傘下のファンドに所属し、金融業界の腐敗を正そうとしていた一人は、自分が戦っていた相手が親会社のモルガン・スタンレーだったと知り、愕然とします。危機により家を失った人が街に溢れる一方で、金融業界はまた同じことを繰り返そうとします。最後は「2015年には当時と同じ商品が再び市場を取り巻いている」(注:正確ではない)と、不吉な予言を残して終わります。

投資家への教訓

本作品はノンフィクションであり、真に迫っていると感じます。原作者のマイケル・ルイスはかつて投資銀行ソロモン・ブラザーズで債券トレーダーとして活躍し、これまで数々の金融ノンフィクション作品を手がけています。

映画を通じて、投資家が肝に命じるべき教訓が散りばめられています。市場を読む上で知っていなければならない一方、金融の「プロ」を含む多くの人が見過ごしていることでもあります。以下では、映画で描かれている教訓を私なりにまとめました。

バブルは必ず起きる

歴史上、バブルは発生と崩壊を繰り返してきました。1693年のチューリップ・バブルに始まり、1720年の南海泡沫事件、最近では2000年前後のITバブルまで続きます。

バブルを発生させるのは、人間の強欲です。物の値段が上がればもっと儲けようとする人が群がり、やがてリスクを無視して実態とはかけ離れた価格で取引されるようになります。人々は妄信的になり、悪いことには耳を貸さなくなります。映画の中でも「人は凶事を低く見積もる」「今起こっていることがずっと続くと思う」とその性質を書きとどめています。

あとから振り返ると何でこんなことが分からないのかと思うでしょう。しかし、バブルを目の前にしている時は、ほとんどの人が「正しい」ことに目を向けようとしません。多数派による狂気です。現在の情報化社会では、沈静化どころか増幅される可能性が高いと感じています。

常識を疑って本質に迫れ

バブルが起きている時、人々はそれが「当たり前」だと思っています。しかし、主人公たちは金融商品の目論見書や住宅ローン組成の現場を自ら当たることで、「当たり前」とされていることが異常であると言うことに気が付きます。

個人投資家が肝に銘じて欲しいのは、専門家と呼ばれる人の多くは誰かの言っていることを鵜呑みにしているだけということです。映画でも出てきますが、ほとんどの「専門家」は目論見書(最も基礎的な金融商品の資料)さえまともに読みません。特に、専門用語を振りかざす人ほど注意が必要です。

個人投資家にとって必要なのは、自分で考える力をつけることと、相談相手となる本当の「専門家」を見つけることです。(つばめ投資顧問は皆さまの相談相手として、いつも本質に迫ることをモットーとしています。

儲けようと思うなら、人と違う道を通れ(ただし、それは茨の道だ)

私は常々言うようにしていますが、儲けようと思ったら人と違う行動を取らなければなりません。この映画の主人公たちも圧倒的少数派ですが、多くの投資家がしっちゃかめっちゃかになったサブプライム危機で大儲けしました。

単に逆張りをしろという意味ではありません。本質に忠実に行動すれば、本質と「常識」の乖離が大きければ大きいほど、儲けるチャンスは大きくなるのです。これが私がよく言っている「安全域」の考え方と一致します。

人と違うことをするのは、はっきり言って茨の道です。テレビを観てもネットを開いても、大多数は自分の考えと違うことを言っていますから、自分の考えに自信がなければくじけてしまいます。バフェットの師であるベンジャミン・グレアムは以下のように言っています。

自分だけで考えろ。正確に考えろ。

つばめ投資顧問は、この言葉を忠実に実行するアドバイザーでありたいと思います。

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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