かつてインターネット革命に邁進したソフトバンク、投資会社となって一体何を目指すのか?

ソフトバンクグループが活発な動きを見せています。先週に赤字決算を発表したことにもめげず、今週は傘下のYahoo!(Zホールディングス、4689)がLINE(3938)と経営統合を目指して協議していることが発覚しました。

かつてのソフトバンクは「インターネット革命」に邁進

この経営統合には違和感がなく、動画にある通りキャッシュレス決済やショッピング事業での競争で優位に立とうとする思惑が見えます。将来的には中国のアリババ、テンセントを目指しているのでしょう。

【参考】PayPay?LINE?キャッシュレスの勝者は意外な◯◯!中国アリペイの成功から見えた未来図=栫井駿介

しかし、最近のソフトバンクグループ孫正義会長が一体どこへ向かっているのか、私にはよくわからなくなっています。

かつて「インターネット革命」を掲げてPCソフト雑誌「ソフトバンク」を立ち上げ、米ヤフーと組み黎明期にあった日本のインターネットを育て上げ、ボーダフォンを買収して携帯電話事業に風穴を空けてきました。

その過程で、インターネット回線がなかなかつながらないとなれば、総務省に飛び込んで「ここで灯油をかぶる」と脅迫まがいのことをしたり、ボーダフォンの買収では2兆円にものぼる有利子負債を抱えたりするなど、無茶なこともしてきました。

しかし、これらはあくまで「インターネット革命」を前進させるためのものでした。その先には必ず顧客がいて、彼らにより良いもの、便利なもの、安いものを届けることを最大の目的としてやってきたからこそ苦難を乗り越えられたのだと思います。

実際に、孫氏なくして現在の日本における快適なインターネット環境はなかったでしょう。iPhoneを最初に日本に持ち込んだのも彼の功績で、私もこの時に携帯回線をauからソフトバンクに乗り換えました。

転機となったアリババへの投資

翻って現在はどうでしょう。

ソフトバンクグループはいつの間にか「投資会社」に変貌しています。転機となったのは、アリババへの投資が成功したことです。アリババ創業者にジャック・マーに欲しいと言われたものを大きく上回る金額を握らせ、結果として何千倍ものリターンを得ました。

いまやソフトバンクグループの価値の大半もアリババとなっています。

【出典】ソフトバンクグループ 2020年3月期第2四半期決算説明資料

10兆円にもおよぶビジョン・ファンドを立ち上げると言い始めたのもこの頃です。自分の目利き力があれば、第2、第3のアリババを発掘できると考えたのでしょう。

しかし、実際に投資していたのは、不動産会社の域を出ないWeWorkや、すでに大きくなりつつあったUberなどのライドシェア各社です。

経営の目的は「顧客の創造」にある

この動きを見て思うのは、今のソフトバンクグループには「顧客の姿」が見えないということです。

「AI革命」を掲げていますが、実際に投資していたのが不動産会社ということなら「何がしたいのか?」ということになりますし、すでにある程度大きくなった企業へ投資するなら、ソフトバンクでなくても良かったでしょう。

誰にとって、どうやって世の中が良くなっていくのか、そこでソフトバンクがどのような役割を果たすのか、行動と結果が結びつかないのです。

WeWorkに関しても、一刻も早く利益を確定しようと上場を急いだ節がありました。今の姿を見ていると「そこにいる顧客」ではなく、投資で成果を出すことばかりに精を出しているように見えるのです。そこに哲学は見えてきません。

経営学者のピーター・ドラッカーは、経営の目的を「顧客の創造」だと言いました。ソフトバンクはそれを果たしているでしょうか。私には顧客の姿は見えず、利益を追求しているだけのように感じられます。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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