今回は日産についてです。
日産はホンダとの経営統合が報道されていますが、なぜ日産はこのような状況になってしまったのかということと、これらの会社が今後どうなっていくのかということを、佐々木アナリストと元村アナリストとディスカッションしてみたいと思います。
日産の状況はそんなに悪い?
栫井:日産、あるいはホンダについて、2人は何か気になることはありますか?
佐々木:そもそも日産の業績が悪いとニュースでは言われていますが、本当にそこまで悪いんですか?
栫井:足元では確かに悪いですね。業績予想を下方修正して、2025年3月期は赤字なのではないかという報道が出ています。
ただ、そこまで悪いかというとそういうわけでもなく、去年までは一応利益を出していましたし、自己資本比率は30%あり、資本については問題ありません。一方で足元では(特にアメリカで)車が売れていないという話があり、それも事実だと思いますが、全く売れないというわけでもなく、売上はある程度たちますし、売上があるということはそれなりにお金が入ってくることになります。在庫が溜まっているわけでもなく、一部で言われているほどすぐに潰れるとは考え難いです。
佐々木:すぐに潰れるほど悪いわけではないということですね。
栫井:ただ、すぐに潰れることはないにしても状況が悪いことも確かです。株価は未来のことを織り込むので、日産がこれからどうやって自動車を売っていくのかということが重要です。
日産の売上の半分くらいはアメリカが占めていますが、「ブランド力ランキング2023」では、トヨタやホンダ、スバル、マツダが上位に入る中で、日産はブランド力が落ちてしまっています。なぜここまでブランド力が落ちてしまったのかというと、なんとかたくさんの車を売ろうとして「販売奨励金」というものを出しているんです。
佐々木:「マーケティングコスト」と計上されるような、販売のための費用ですよね。
栫井:新車を買う時に値引き交渉を行うことがありますが、お店としても”ここまでは値下げできる”というものがあって、その値引き分を日産がメーカー側として補充していたというものが「販売奨励金」になります。販売奨励金を多く出したことによって、日産の車が値引きの効く安物だという印象を与えてしまっている部分が間違いなくあります。
佐々木:なぜ値引きをしないといけない状況になっているのでしょうか。
栫井:これはけっこう根深い問題だと思っていて、4年前までのゴーン政権の後遺症をずっと引きずっているんですよ。ゴーン氏が掲げたのは、グループで800万台というほどとにかくたくさんの車を売るということを至上命題に掲げていました。台数を売ろうと思ったら値下げをする必要があります。値下げの結果確かに販売台数は稼げましたが、利益が出ないという状況が続きました。これでは良くないということで、今の経営陣はグプタ氏主導で、台数よりも1台あたりの利益を増やそうとしていました。
販売台数はゴーン以後で明らかに減っていますが、売上も利益も去年まではきちんと出せていて、車の値段を上げるということはできてはいました。ところがブランド価値の低下に歯止めがきかなくなっているのが足元の状況かと思います。
元村:ブランド力が落ちた根本的な要因は何なのでしょうか?
栫井:1つは値下げすることによって買う側に”日産車は大したことない”という印象を与えてしまったことです。それと、台数を稼ぐためにレンタカーやタクシー(キャブ)にたくさん流したことによって、それが中古車市場に流れてしまい、割と新しい日産の中古車であふれ、新車が売れなくなってしまったのです。
元村:自分で自分の首を絞めた形になったんですね。もう一つ聞きたいのですが、日産といったらEV(電気自動車)の駆け出しという印象を持っていたのですが、結局世界的には販売台数が減ってきているという話ですよね。日産はどっちつかずになっているような感じがします。
栫井:まさにどっちつかずですよね。日産に限った話ではないですが、振り切れなかったところがあります。日産の中でもEVは20%くらいで、結局ガソリン車の方が大部分を占めていて、それを捨ててEVだけに特化するということはなかなかできることではありません。もし世の中の流れが完全にEVの方に行くとすると、最初から専業だったテスラやBYDが強いですよね。
元村:日産が今さら海外のEVに追いつくのは難しいんですか?
栫井:結局遅れてしまいましたね。EVを作ること自体はそれほど難しくないのですが、航続距離を伸ばそうとすると電池が鍵を握ることになります。BYDは電池を作っている会社なので当然強いですし、テスラはパナソニックに電池を作らせています。
元村:日産は自社でバッテリーのサプライチェーンを構築する部分ではかなり後れを取っている印象はありますね。
栫井:やってできないことはなかったんでしょうけど、そこまでおしりに火が付かなかったんでしょうね。
佐々木:そう考えると、日産の、車の販売における強みって何なのでしょうか。ガソリン車のイメージはあまりないですし、EVが強いというわけでもないとなると、強みが見えないところが難しい問題なのかなと思います。
栫井:そうですね。車が好きな人であれば、日産車のデザインが好き(古くはGTーRなど)ということもあります。アメリカでは、燃費が良くて丈夫で値段もそこそこというポジショニングではあったのですが、それに追加するものがなかったのかなと思います。マツダやスバルはSUVなどで車好きに向けたもので尖れたんですよね。それに対して日産は尖れていないところがあります。実はホンダも似たような状況で、自動車部門で見るとそれほど利益率は高くないです。
経営統合のメリットは?
佐々木:日産とホンダの経営統合という話が出ていますが、ホンダにとって日産を経営統合するメリットって何かあるんでしょうか?
栫井:間違いなく言えることは、規模が大きくなれば販売台数が増えるのでその分売上ができて、研究開発は会社の大小にかかわらずやらないといけないので、規模の大きい会社の方が多くの研究開発費をかけられて時代についていけるということは確かにあります。ただ、シナジーというところを考えるとあまり思いつかないですね。日産のEV技術も正直遅れてしまっているし、ホンダも必ずしも持っているわけではありません。大きくなれば潰れにくくなることくらいですかね。
佐々木:スケールメリットはあるかもしれないですけど、シナジーが見えてこないですよね。そこから先の成長性とか、新しいものが生み出せるのかということは別の話ですね。
栫井:日産からしてシナジーが見込めるのはコストカットだと思います。これまで販売台数を減らしてきたのにその間リストラは行っていなくて、稼働していない工場もかなりあると思います。ホンダは日産に対して、ちゃんと人員整理等を行わないと経営統合のスタートラインに立てないということを言っています。日産の話を聞いているとまだ甘えがあるような印象ですが。
元村:今の一連の話を聞いていると、誰が何のために経営統合を進めているのかなおさら分からなくなってきました。
栫井:国の圧力があったのではないかという噂はありますよね。台湾の鴻海がルノーから日産の株を買うという話になったところでいよいよヤバいとなってホンダに泣きついた形かもしれないです。
日産株保有者の視点
佐々木:今日産の株を持っているという個人投資家の方もいると思うんですけど、その人たちはこの経営統合に対してどのように向き合っていけば良いのでしょうか。
栫井:この経営統合はそれほど大きな株価上昇を見込める話ではなくて、そもそも経営統合スキームはどちらかの株価を上げるスキームではないんですよね。あくまで両方の会社が横並びでくっつくというだけの話です。これがM&Aだったなら、今の株価に最低限30%のプレミアムをつけないと売ってくれないので、株価が上がりやすいです。しかし、経営統合の場合はそうはならず、株主にとっては必ずしもおいしい状況にはなっていないですね。
佐々木:となると、どうなったら良いんでしょうか?
栫井:これは、日産の経営陣や経産省にとっては望ましくないかもしれませんが、例えば鴻海が買ってくれた方が、あるいはもっと強烈な買収者が来てくれた方が良いということになります。買収合戦になるからです。今回、経営統合しますが、最終的には40%弱を持っている株主であるルノーがOKと言わないと成立しません。それに対して鴻海の方が高く買うという話になるとルノーはそっちになびいた方が良いですし、さらに他の買収者が出てきたら株価はつり上がっていきます。今回の話が動き出してしまった以上、日産の株主にとっては、株価のことだけを考えたら経営統合が成立しないか、一悶着二悶着あった方が良いわけです。
佐々木:業績やリストラの話ではなくあくまで経営統合と株価の観点ではということですね。
栫井:買収されたらその後さらにきついリストラをしなければならなくなると思いますけどね。でもきついリストラをすることがある意味で日本の自動車会社の足腰を強くすることになるかもしれないので、どちらが日本のためになるかは実は分からないところです。
ホンダ株保有者の視点
元村:日産の株主にとっては分かったのですが、逆にホンダの株主はどう捉えたら良いのでしょうか。
栫井:ホンダにとって日産を経営統合するメリットはあまり見出せなくて、むしろ経営統合しない方がやりやすいのではないかと思います。さらに、ホンダは二輪が強いですよね。
佐々木:利益率で言うと、四輪が1~4%くらいで、二輪は15%くらいあります。
栫井:売上構成としては四輪の5分の1くらいなのに利益では四輪と同じくらい稼いでいます。しかもホンダの二輪は世界シェアも1位ですし、新興国にカブなどで入って、新興国が少しずつ豊かになるとホンダの良いバイクを買うようになって、さらに経済が発展すると自動車へとなるのですが、ある程度自動車が普及すると今度は趣味で良いバイクに乗りたいということでバイクを買います。趣味のバイクとなると値段としては青天井ということで、バイクのシェアが世界一で、世界では目立った競合がいないとなると相当強いです。ホンダはこの二輪を持っていて、全体としては足を引っ張っている車をどこまでやるのかという話もありますし、ホンダの株主としては二輪だけ切り出してほしいと思っているのではないでしょうか。四輪だけ経営統合して二輪が別になったとしたら、二輪の株を買いたいなと思います。
元村:二輪だけになったら魅力的ですね。
栫井:だからホンダ自ら話を進めたということはないでしょうね。もし経営統合が進んでしまうとすれば、日産に対していかにリストラのプレッシャーをかけていくかが大事になりますし、生き残るためにはおそらく自社の方でもリストラをする必要があると思います。
栫井:ホンダと日産がEV社会についていけるかということが焦点になりがちですが、話はまだまだ前段階で、これからどんな社会になっていくかは分からないですが、いずれにしても今の時点で利益が出るような企業体質にしておかないとその後の変化にもついていけないと思うので、ここは両社にとって正念場になると思います。
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