近年、銀行株が大きく上昇していることに注目が集まっています。もしかしたら、あなたのポートフォリオにも銀行株が含まれているかもしれませんし、これから投資を検討している方もいるかもしれません。この記事では、銀行株の株価が上昇してきた背景、そして今後潜むリスクについて解説します。
目次
なぜ今、銀行株が注目されているのか?過去数年の株価推移
過去数年の株価推移を見てみましょう。振り返ってみると、銀行株は長らく割安な銘柄として認識されてきました。しかし、2023年頃からその状況は一変し、株価は大きく上昇しています。2023年の初め頃と比較すると、株価が約2倍になった銘柄も少なくありません。
この株価上昇の背景には、主に以下の2つの要因が考えられます。
割安株の見直し
東京証券取引所からのPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に対する改善要請を受け、銀行各社も様々な施策を打ち出しました。これに対し、海外投資家を中心に日本の割安株への期待感が高まり、銀行株への買いが集まったのです。
金利の上昇
日本でも、特に植田総裁が就任して以降、徐々に金利が引き上げられてきました。 銀行のビジネスモデルは、企業などへの貸し出しによって収益を得るというものです。金利が上昇すれば、貸出金利も上昇するため、単純には収益増に繋がると考えられます。 実際に、10年国債利回りも株価の上昇とともに上昇しています。
知っておきたい銀行のビジネスモデル:金利上昇は永遠の追い風ではない
金利上昇が銀行にとってプラスに働くことも確かですが、注意しておきたい点もあります。
まず、金利が上がれば単純に収益が上がるとは限りません。
銀行は預金としてお金を調達し、それを貸し出すことで利益を得ています。預金には預金者に対して金利を支払う必要があります。貸し出し金利が上がる一方で預金金利も上がるため、利益の源泉となる「利ざや」は増えないということになります。
銀行は預金としてお金を調達し、それを貸し出すことで利益を得ています。預金には預金者に対して金利を支払う必要があります。貸し出し金利が上がる一方で預金金利も上がるため、利益の源泉となる「利ざや」は増えないということになります。
これまでは金利が低すぎたため、貸し出し金利が下がる中で預金金利はゼロ以下に下げられないという状況が続いており、利ザヤは縮小していました。金利の上昇局面では、貸出し金利が大きく上がり、預金金利の上昇は緩やかなため、一時的に利ザヤが広がります。しかし、金利が上がり続ければいつまでも利益が拡大するわけではなく、預金金利もいずれ上がり、利益の拡大も止まってしまいます。
足元の株価下落:トランプ関税の影響と投資家の懸念
現時点でもPBRは1倍程度、PERは11倍程度と割安感があり、利回りも3%以上と魅力的に見えるかもしれません。
しかし、これまで株価が上昇してきたからといって、まだ割安だから買えるとは限りません。足元の状況をもう一度考える必要があります。
特に、トランプショックと言われている株価の急落があります。割安であればそんなに下がらないはずだという見方もありますが、利益確定売りだけでなく、一部の投資家はこれから起こりうる状況を懸念して売っている可能性も否定できません。
なぜなら、日本の銀行に限らず、米国の銀行も関税ショックで大きく株価を下げているからです。バンク・オブ・アメリカの株価も同様に下落しています。
関税の影響は直接的には銀行には及ばないはずですが、今回の関税の余波として、現在の銀行は大きなリスクを抱えることになったと言えます。
景気後退リスク
現在、米国は中国に対して相互関税を課しており、さらに上乗せ関税も検討されています。米国は中国からの輸入品が非常に多いため、関税が引き下げられない場合、米国で販売される商品の価格は大幅に上昇します。上乗せ関税ともなれば、一瞬で価格が倍になることもあり得る状況です。
そうなると、物価高騰により人々の財布の紐は固くなり、米国GDPの7割を占める個人消費が大きく落ち込む可能性があります。そのまま景気後退に陥るかもしれません。
さらに、インフレが加速することで、後述する金利の問題にも影響が出てきます。
景気に関するもう一つの懸念は、企業の設備投資です。トランプ氏は関税を引き上げることで、製造業を米国に取り戻そうとしています。しかし、本質的に米国に工場を作ることは、人件費や立地条件などを考えると必ずしも良い戦略とは言えません。また、工場の建設は長期的な目線で考える必要があり、現時点での関税の動向が不透明な中、企業は投資に二の足を踏む可能性があります。
企業が投資をストップすると、GDPの構成要素である企業投資(I)も減少します。個人消費(C)の減少と合わせて、GDPの減少、つまり景気後退を招く可能性が高まります。
景気が後退すると、銀行にとっては基本的にマイナスの影響しかありません。銀行が損失を計上する大きな要因の一つに、貸し倒れの増加があります。景気悪化により企業の業績が悪化し、倒産が増加することで、貸し出したお金が回収できなくなるリスクが高まるのです。
また、倒産の懸念が高まると、損益計算書(PL)上でも貸倒引当金を積み増す必要があり、利益を押し下げる要因となります。景気後退時には、銀行のPLと貸借対照表(BS)の両方に大きなダメージが生じる可能性があるのです。
過去には、リーマンショック時に多くの銀行が赤字に転落しました。これは貸し倒れの増加だけでなく、保有していた有価証券の価値が大きく下落したことも要因の一つです。
今回も同様の事態が起こらないとは限りません。銀行の財務状況や貸し出し先の健全性を見抜くことは、有価証券報告書を見ただけでは非常に難しいです。不良債権比率などの指標は開示されていますが、いざ倒産が発生すれば隠しようがありません。
実際に、三菱UFJの不良債権比率を見てみると、全体としては高い水準ではありませんが、米国の不良債権比率が2024年3月期に上昇しています。これは、米国で企業の倒産が増えていることを示唆しており、米国に進出している日本の銀行も損失を被る可能性があります。
金利上昇リスク(アメリカ)
一方、金利が上がれば銀行にとって良いのではないかという意見もありますが、景気が悪くなる局面ではそう単純ではありません。特に日本の銀行の場合、景気が悪いのに金利を上げようとすれば、中小企業の資金繰りを悪化させる可能性があり、大きな反発を招くでしょう。したがって、日本においては景気後退局面での大幅な利上げは期待しにくいと考えられます。
次に、米国の金利について見てみましょう。足元では、トランプ関税の影響で米国の金利が急上昇しています。これは、関税によるインフレ懸念から、FRB(連邦準備制度理事会)が利下げに転じることが難しくなっているためです。インフレを抑制するためには、通常、政策金利をインフレ率よりも高く維持する必要があります。
金利が下がらない、あるいは上昇する場合、銀行にとってどのようなリスクがあるでしょうか?
記憶に新しいところでは、シリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻があります。これは、金利上昇によって保有していた債券価格が下落したことが大きな要因です。多くの銀行は国債などを保有していますが、金利が上がると債券の時価評価額は下落します。
満期まで保有すれば損失は出ないのですが、SVBの場合、預金者がより高い金利を求めて資金を引き出したため、保有する債券を売却する必要に迫られました。その際、債券価格の下落により損失が拡大し、破綻してしまったのです。これは取り付け騒ぎの典型的な事例であり、金利上昇が再び同様の事態を引き起こす可能性も否定できません。
シリコンバレーバンクの破綻以降、金融システムは安定化していますが、それは金利が落ち着いているからです。もし今後さらに金利が上昇するようなことがあれば、再び危機に陥る銀行が出てくる可能性は十分にあります。
日本の銀行も、米国ドル建ての債券などを運用しており、米国の金利動向の影響を受けます。メガバンクだけでなく、地方銀行も同様です。最近では、日本最大の機関投資家である農林中央金庫も、米金利上昇による債券評価損で大きな損失を出しています。また、あおぞら銀行も、米金利上昇や米国のオフィス向け不動産融資の焦げ付きにより大きな損失を計上しており、同様の問題は他の銀行も抱えている可能性が高いです。景気後退となれば、これらのリスクが表面化する可能性が高まります。
したがって、景気後退時に銀行株を積極的に保有するメリットはあまりないと言えるでしょう。
銀行株はまだ割安なのか?今後の投資判断のポイント
景気後退時に株価が下落したとしても、安定した3~4%の配当が入ってくるから良いと考える方もいるかもしれません。しかし、それも必ずしも当てにはならない可能性があります。
確かに、三井住友フィナンシャルグループなどは累進配当、つまり減配せずに増配を目指す方針を掲げています。しかし、これはあくまで方針であり、法的な根拠があるものではありません。
コロナ禍において明らかになったように、どんなに安定配当や累進配当を謳っている会社でも、通常と異なる経済状況になった場合には、減配することがあります。
三菱UFJフィナンシャル・グループは累進配当を特に謳っておらず、「利益成長を通じた一株当たり配当金の安定的な持続的増加を基本方針とする」としています。一方、みずほフィナンシャルグループも「累進的な配当を基本とし、自己株式取得は機動的に実施する」としていますが、「累進的」という表現はやや曖昧です。
いずれにしても、これらの配当に関する記述は目標に過ぎず、経済状況によっては取り下げられる可能性があることは理解しておくべきでしょう。現在の利回りが3%を超えているとしても、過度に期待するのは禁物です。
まとめ:長期投資の視点で見極める銀行株
相場には「小回り3ヶ月、大回り3年」という言葉もありますが、銀行株の上昇が始まってから約2年が経過しており、そろそろ一巡したと考えることもできます。
足元のトランプ関税による株価下落や、今後の景気後退リスク、金利上昇リスクなどを考慮すると、長期的な視点で今から銀行株へ投資することは慎重になるべきでしょう。

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