米国経済がトリプル安、つまり株安、債券安、そしてドル安という危機的な状況に陥っています。この異常事態は、トランプ大統領の関税政策がもたらしたものであり、市場は彼の政策が米国経済を「地獄」のような状況に導くと懸念しているようです。このままいくと、その懸念が現実のものとなる可能性も否定できません。
目次
なぜ米国はトリプル安に? トランプ大統領の関税政策と市場の懸念
トリプル安の直接的な原因として挙げられるのが、トランプ大統領による相互関税政策です。2024年4月には、トランプ氏が相互関税をかけると発言したことで、ダウ平均株価が大幅に暴落しました。
一時的に市場は落ち着きを取り戻したものの、4月21日にはトランプ氏がFRBのパウエル議長を解任するのではないかという憶測が流れ、実際にX(旧Twitter)でパウエル議長を強く批判したことで、再び株価は大きく下落しました。
しかし、影響は株式市場だけに留まりません。長期金利が急騰していて、これは債券価格の下落を意味します。債券価格と金利は逆方向に動くため、金利の上昇は債券が売られているということになります。同時に、ドルも下落傾向にあり、ドル安が進行しています。
市場は、トランプ大統領の政策が米国経済にとって非常にネガティブな影響をもたらすと考えているようです。株安、債券安、ドル安というトリプル安は、投資家の信頼を失い、さらなる経済の悪化を招きかねません。
米国、中国よりも大きなダメージ? 相互関税がもたらすGDPへの影響
アジア経済研究所(ジェトロの一組織)のレポートによると、トランプ政権の相互関税政策は、関税をかけられた国だけでなく、米国自身に大きなダメージを与える可能性が指摘されています。2027年のGDP変化の予測では、米国は-5.2%と大幅なマイナス成長が想定されているのに対し、関税の主なターゲットである中国のマイナス成長は-1.9%に留まっています。
関税政策が米国経済にとって自殺行為になりかねないことです。
米国の構造的な問題点:工場海外移転と貿易赤字の真実
なぜこのような事態が起こるのでしょうか?その背景には、米国経済の構造的な変化があります。
かつて米国には多くの工場があり、国内の消費を国内生産で賄っていました。しかし、第二次世界大戦後、日本や中国など海外で生産された製品を輸入する方が安価になったため、米国の企業は生産拠点を海外に移転するようになりました。これは、米国企業がより安い製品を消費者に提供し、利益を追求するための合理的な行動でしたが、結果として国内の製造業は衰退しました。
1980年代には日米貿易摩擦が激化し、プラザ合意によって円高が進みましたが、米国の貿易赤字は解消されませんでした。むしろ、その後は中国をはじめとするアジア諸国での生産が活発になり、米国の貿易赤字は拡大し続けています。しかし、貿易赤字は必ずしも悪いことではありません。特に、ドルのように世界で通用する強い通貨を持つ国にとっては、海外から安価な製品を輸入できるというメリットもあります。
ドルの強さとサービス業:貿易赤字でも米国が強かった理由
アメリカドルは世界的な基軸通貨であり、その強さによって米国は世界中の安い製品を買い叩くことができました。また、GoogleやMicrosoftといった米国のサービス業は世界中で収益を上げており、これは貿易収支には現れません。成熟した豊かな国であれば、必ずしも国内で生産にこだわる必要はなく、金融収支などで経済を維持できるため、貿易赤字は容認できる範囲内でした。むしろ、これまでの米国は「アメリカ最強」の状態を享受していました。
トランプ大統領がFRB議長を解任? 金融政策の混乱とインフレ懸念
しかし、トランプ大統領の関税政策は、この「アメリカ最強」の状態を自ら手放すような行為と言えます。その背景には、支持層である白人労働者層へのアピールがあります。製造業の海外移転によって職を失った彼らに仕事を取り戻すため、輸入を制限しようとしているのです。また、中国の経済力を削ごうという意図もあるかもしれません。
さらに、トランプ大統領は、株価下落を受けてFRBのパウエル議長に対し、金利引き下げを強く要求しています。しかし、現在のインフレ状況を考慮すると、安易な利下げは更なるインフレの加速、ひいてはハイパーインフレを引き起こしかねないと懸念されます。
コロナ禍後の金融緩和で株価が回復した経験から、トランプ氏は利下げが株価上昇に繋がると考えているようですが、現在の状況は当時とは全く異なります。インフレが高まっている状況で利下げを行えば、市場にお金が溢れ、物価上昇に拍車がかかるのは経済学の基本的な原則です。市場は、このようなトランプ大統領の経済政策に対する不確実性から信頼を失い、それが今回のトリプル安に繋がっていると考えられます。
なぜ日本株は下がらない? 米国経済混乱の裏で恩恵を受ける日本の可能性
米国株が大幅に下落する一方で、日本の日経平均株価はそれほど下落していません。これは、トランプ政権の関税政策によって、日本企業が恩恵を受ける可能性があるからです。
特に、これまで中国から多く輸入されていた電子機械などの製品において、中国製品に高い関税が課せられることで、相対的に日本製品の競争力が高まる可能性があります。自動車産業は依然として厳しい状況にありますが、電子部品などの分野では、日本からの輸出が増加するかもしれません。例えば、コンデンサなどの電子部品を製造する村田製作所や太陽誘電などがその恩恵を受ける可能性があります。人件費の低下も、日本企業の国際競争力を高める要因となるかもしれません。
世界経済への波及は避けられない? 各国のGDP予測と日本の立ち位置
世界経済全体で見ると、トランプ政権の関税政策による悪影響は避けられないでしょう。アジア経済研究所の予測では、世界全体のGDPも-1.3%のマイナス成長が見込まれています。米国が自ら苦しむ中で、カナダやメキシコといった近隣諸国は、中国からの輸入代替として恩恵を受ける可能性があります。また、インドなども新たな生産拠点として注目されています。
一方、タイやベトナムなど、輸出依存度の高い国はGDPが減少する可能性があります。
このような状況下で、日本は中国とも良好な経済関係を維持しつつ、中立的な立場を保つことで、国際的な評価を高める可能性があります。今回の日本株の底堅さも、そうした期待の表れかもしれません。
今後の見通し:日本企業のチャンスと投資戦略
トランプ政権の関税政策が今後どうなるかは分かりませんが、中国からの調達が難しくなった製品を日本企業が代替することで、業績を伸ばす企業が出てくる可能性があります。
しかし、短期的には世界経済の減速によって日本企業の業績も厳しくなることもあるでしょう。
もし株価が下落するような局面があれば、それは将来性のある優秀な企業に投資するチャンスと捉えることもできます。長期投資家としては、目先の株価変動に惑わされず、価値ある企業に虎視眈々と狙いを定めたい局面と言えるでしょう。

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