あなたは大丈夫?証券口座乗っ取り対策を万全にする方法

最近、証券口座の乗っ取り被害が拡大しており、投資をしている皆さんは非常に不安を感じられていることと思います。

しかし、これを理由に投資を中断してしまうのは非常にもったいないことです。特に長期投資では時間が重要であり、一度投資を中断してしまうと、その時間は取り戻すことができません。

私たちにできることは、可能な限りの対策を行い、安心して投資を続けることだと考えます。しっかりと対策をすれば被害を防ぐことができますし、万が一被害に遭った場合でも、証券会社の補償を受けられる可能性も出てきました。

この記事では、証券口座乗っ取り被害の現状、その背景、そして個人が取るべき具体的な対策と被害補償について詳しく解説します。特に不安を感じている方や投資に慣れていない方は、ぜひこの記事を読んで、被害を防ぎ、投資を続けるための対策を講じていただければと思います。

証券口座乗っ取り被害の深刻な現状

証券口座の乗っ取りは以前から発生していましたが、近年になって被害が急増しています。
有名な投資家であるテスタさんが口座の乗っ取り被害に遭ったというニュースは、非常に大きな話題となりました。

出典:日本経済新聞

テスタさんの場合、早朝に楽天証券から二段階認証のログイン確認メールが届いたことで不審に思い確認したところ、前夜に身に覚えのない注文履歴があったそうです。慌ててパスワードを変更したものの、その間にも新たな注文履歴が更新されていました。幸い、すぐに証券会社に連絡して口座をロックしてもらったため、金銭的な被害は間一髪で避けられたとのことです。

金融庁の発表によると、インターネット取引サービスへの不正アクセス・不正取引による被害は急増しています。

出典:金融庁

2月の時点では2つの証券会社で43件と金額も小さかったのですが、4月16日時点では6つの証券会社で1847件もの不正アクセスが確認され、被害額は売却金額合計で506億円、買付金額合計で448億円にも上っています。これは報告があったものだけであり、実際にはこれ以上の大きな被害が出ている可能性もあります。

なぜ今、証券口座の乗っ取りが増えているのか?

このような被害の急増を見ると、「証券会社のセキュリティは大丈夫なのか?」という疑問を持つ方もいるでしょう。正直に言うと、これまでの証券会社のセキュリティは、銀行と比べて厳重ではなかったと言えます。

インターネットバンキングが登場して以来、銀行の取引は非常に厳重なセキュリティ対策が講じられてきました。これは、銀行では直接お金を動かすため、セキュリティが甘いと顧客のお金がまるまる失われてしまうリスクがあるからです。

一方、証券会社の口座は、直接現金を動かす仕組みにはなっていませんでした。お金を入金する際も出金する際も、基本的に本人名義の銀行口座を使う必要があったのです。名義が違うと、お金の出し入れはできませんでした。そのため、たとえ第三者が証券口座を乗っ取ったとしても、株を売って得たお金を自分の口座に送金することは難しかったのです。これが、「証券口座を乗っ取ってもあまり意味がない」と考えられ、セキュリティ意識が薄かった背景にあると思われます。

しかし、今回の犯人グループは賢く、この仕組みを突破する方法を編み出しました。それは、証券口座からお金を引き出さなくても利益を得られる方法です。
彼らはまず証券口座にログインし、直接的な現金の引き出しはしませんが、株の売買は行います。ここで彼らが狙うのは、流動性の低い小型株です。事前にそういった株を密かに買っておき、株価を上げないように仕込んでおきます。その後、乗っ取った多数の証券口座を使って、その小型株を一斉に大量に買い付けます。株価は需要と供給で決まるため、突然需要が急増すると株価は一気に高騰します。この高騰したタイミングで、事前に仕込んでおいた自分の持ち株を売却することで利益を得るという手口です。高騰した価格で乗っ取った口座の注文に対して、自分の売りをぶつけるような形で行われます。
元々中国株で行われていたこの手法が、最近では日本株でも行われているという話もあります。

このような「抜け道」ができたことで、犯罪グループにとって証券口座を乗っ取るインセンティブが生まれてしまったのです。

あなたの口座は大丈夫?まずは現状確認を

この話を聞いて不安になった方も多いでしょう。まずはご自身の証券口座にログインし、身に覚えのない取引や株の購入履歴がないか確認してください。取引履歴を見れば一目瞭然です。テスタさんのケースのように、注文してもすぐに取り消された場合でも履歴が残っていることがあります。

もし、明らかに身に覚えのない取引が確認された場合は、一刻も早く証券会社に連絡してください。
これまでは、証券口座の不正被害があっても、証券会社側に責任がないとして補償しない姿勢のところもありました。しかし、被害が拡大しすぎたため、このままでは証券業界全体の信頼が失墜するとの懸念から、一定の被害補償を行う方針が日本証券業協会を通じて打ち出されています。

出典:日本証券業協会

ただし、この補償を受けるためには、顧客側の対応や証券会社側の対策などが勘案されることになります。被害状況を十分に精査した上で、個別の事情に応じて対応が決まります。

資産を守るための具体的な対策5選

被害に遭わないため、そして万が一被害に遭った際に補償を受けるためにも、個人でできる対策をしっかり行うことが重要です。

1.ログイン履歴・取引履歴の確認

まずはご自身の証券口座にログインし、過去のログイン履歴や取引履歴に身に覚えのないものがないか確認しましょう。特にログイン履歴を確認することで、第三者が不正にログインしていないかチェックできます。

2.ログイン通知メールの設定

多くの証券会社には、ログインがあった際にメールで通知する機能があります。これを設定しておけば、もし第三者が不正にログインしようとした際にすぐに気づくことができます。身に覚えのない時間帯にログイン通知が届いたら、ログイン情報が漏洩している可能性が高いと考えてください。

3.多要素認証(二段階認証)の設定

これは最も重要な対策です。多要素認証とは、IDとパスワードだけでなく、SMSやメール、専用アプリなどに届く認証コードなど、複数の要素を使って本人確認を行う仕組みです。これを設定しておけば、たとえIDとパスワードが漏洩していても、認証コードがなければログインはできません。理論上、不正ログインを防ぐことができます。
現在、多くの証券会社で多要素認証の設定が推奨されており、SBI証券のように5月31日以降必須化される動きもあります。

出典:SBI証券

これは、皆さんの資産を守るためだけでなく、万が一被害に遭った際に証券会社からの補償を受けるために必要になる可能性が高いためです。証券会社としては、対策を呼びかけたにも関わらず多要素認証を設定していなかった顧客に対しては、補償しないという判断をする可能性も考えられます。多少面倒に感じるかもしれませんが、大切な資産を守るために必ず設定してください。

フィッシング詐欺などでID、パスワード、取引パスワードまで全て漏洩した場合、ユーザー側に責任があると言われがちですが、多要素認証を設定していれば、これが「最後の砦」となります。これを設定していれば、たとえユーザーに責任があるケースでも補償を受けられる可能性が高まりますし、もし証券会社側のシステム上の問題で被害が発生した場合でも、確実に補償を求める根拠となります。

4.古いPC取引ツールの使用中止

楽天証券のマーケットスピードのような、パソコンにインストールして使うタイプの取引ツールは、セキュリティが甘い可能性があります。特に古いバージョンはメンテナンスが行き届いていない場合があり、狙われやすい穴となる可能性があります。このようなツールを使っている場合は、今すぐアンインストールすることを強くお勧めします。

一般的に、スマートフォンの取引アプリの方がセキュリティが高い傾向にあります。パソコンでの取引が必要な場合もあるかもしれませんが、セキュリティを優先するならスマホアプリの利用を検討しましょう。

5.安全性の高いメールサービスの使用

フィッシング詐欺は、メールを通じてIDやパスワードを騙し取る典型的な手口です。使用しているメールサービスの迷惑メール対策が不十分だと、フィッシング詐欺メールが通常の受信トレイに届いてしまうことがあります。
私の経験上、Gmailはフィッシング詐欺メールを高い精度で迷惑メールとしてブロックしており、通常の受信トレイに届くことはほとんどありません。一方、Yahoo!メールなどでは、通常のメールとしてフィッシング詐欺メールが届くケースが見られます。
もし可能であれば、Gmailをメインのメールアドレスとして使用することを検討しましょう。他のドメインのメールアドレスでも、Gmailに取り込んで使うことも可能です。メールは様々なサービスのログイン情報に紐づいているため、メールのセキュリティを高めることは非常に重要です。

まとめ:対策を講じて投資を続けよう

ご紹介した5つの対策(現状確認、ログイン通知メール設定、多要素認証設定、古いPCツールの使用中止、安全なメールサービス利用)を実践すれば、よっぽどパソコン自体を乗っ取られるようなケースでない限り、不正アクセスによる被害を防ぐことができるでしょう。

私はセキュリティの専門家ではないため、これら以外にも対策があるかもしれません。より詳しい方にアドバイスを求めるのも良いでしょう。

ここでお伝えしたいのは、今回の件を理由に投資を諦めないでほしいということです。特に長期投資において、投資している「時間」は複利の効果によって資産を大きく成長させるために不可欠です。ここで投資を中断してしまうと、これまでの時間が水の泡になってしまう可能性があります。

市場は不安定な時もありますが、いつ大きく伸びるかは誰にも分かりません。常に市場に居続けることが大切です。

証券会社も、利用者離れを防ぐため本格的な対策に乗り出してくるでしょう。世の中には不安なことも多いですが、不安に対してしっかり対策を打ち、継続した人が投資でも人生でも成功していくと信じています。

ぜひ、この記事を参考にセキュリティ対策をしっかり行い、安心して投資を続けていきましょう。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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