「世紀の空売り」として知られる、2008年のリーマンショックを予見し巨額の利益を上げた投資家、マイケル・バーリ氏。彼の動向は常に世界の投資家から注目を集めています。映画「マネーショート」のモデルにもなったバーリ氏が、現在(2025年時点)再び空売りを仕掛けていると話題になっています。
この記事では、マイケル・バーリ氏の過去の成功、現在の投資スタンス、そして彼が警戒する現在の市場環境について詳しく解説します。
目次
マイケル・バーリ氏とは?リーマンショックでの「世紀の空売り」
マイケル・バーリ氏は、もともと医師でありながら、独自の視点で市場の歪みを見抜くことで知られる投資家です。彼の名を一躍有名にしたのが、2008年に発生したリーマンショックでの空売り成功です。
リーマンショックの原因となったサブプライムローン問題
リーマンショックの根本原因は、サブプライムローンと呼ばれる住宅ローンにありました。これは、返済能力の低い人々にも住宅ローンを貸し付けたもので、アメリカの貧富の差が大きい状況を背景に広がりました。銀行は貸し付けたローンを「証券化」し、投資家に販売することでリスクを分散させようとしました。
しかし、これらの証券の中身は、質の低いローン(借り手の返済能力が低い)であり、本来のリスクが無視されていました。さらに、当時のアメリカでは「住宅価格は上がり続ける」という神話があり、もし借り手が返済できなくなっても、担保である住宅を売れば返済できるだろうと考えられていました。これは、日本のバブル期における不動産神話に似ています。
バーリ氏は、こうした市場のファンダメンタルズから見て、サブプライムローンの状況がおかしいと判断しました。彼はローンのリストを一つずつ調べ、「これは危険だ」という結論に至ったのです。
周囲の嘲笑をよそに空売りを敢行
当時、住宅市場は好調だったため、バーリ氏の空売りは周囲のトレーダーから嘲笑されました。しかし、彼は自身の分析を信じ、空売りや「クレジット・デフォルト・スワップ(株価が下落するなど特定の事象が起きた場合に利益が出る商品)」といった手法を用いて、市場の暴落に備えました。
結果として、サブプライムローンの破綻が連鎖し、リーマン・ブラザーズ証券の破綻を招き、2008年にリーマンショックが発生し、バーリ氏はこの予見に基づいた投資で大きな利益を上げました。この出来事は、映画「マネーショート」で詳細に描かれています。
リーマンショック後から現在までのバーリ氏の動き
リーマンショックで成功を収めた後、バーリ氏はしばらく表舞台から遠ざかっていましたが、後にサイオン・アセット・マネジメントというファンドを設立し、2019年頃から再び活発な動きを見せ始めます。
ゲームストップ株での成功
2021年には、一時大きな話題となったゲームストップ株に投資し、ここでも成功を収めました。ゲームストップは、店舗型のゲーム販売店で、当時非常に割安に放置されていました。コロナ禍でRedditの個人投資家たちがこの株に注目し、株価が急騰したことで、バーリ氏も大きな利益を得ました。
中国株への投資と売却
その後、中国のハイテク企業に対する政府の締め付けが強化され、中国株が大きく下落した際には、アリババなどを買い付けました。アリババ株の上昇局面で利益を確定するなど、ここでもファンダメンタルズ分析に基づいた投資で成功しています。中国政府の方針は厳しいが、アリババのリアルなビジネスには価値があると見たためと考えられます。
これらの成功事例から、バーリ氏の分析手法は今なお健在であることがうかがえます。彼は神がかり的なセンスではなく、徹底的なファンダメンタルズ分析に基づいて投資判断を行っていると考えられています。
現在のバーリ氏の投資スタンスと警戒するリスク
そして今、マイケル・バーリ氏は再び空売りを仕掛けていることが話題となっています。彼の現在のポートフォリオは、ネガティブなポジションが多く見られます。
空売り対象の銘柄
現在、バーリ氏が空売りしている主な銘柄には、以下のようなものがあります。
- NVIDIA
- アリババ
- ピンドゥオドゥオ (PDD)
- JD.com (JD)
- バイドゥ (BIDU)
- Trip.com (TCOM)
NVIDIA以外の多くは中国株です。また、以前保有していた米国のヘルスケア株なども売却しています。空売りはしていませんが、とにかくポジションを落とし、弱気なスタンスを取っていることが分かります。
バーリ氏が警戒する市場リスク
バーリ氏がこのようなスタンスを取る背景には、いくつかの市場リスクへの警戒があると考えられます。
【米国株の割高感】
米国株は非常に割高だと懸念している可能性があります。長期的な割高感を示すシラーPERレシオも、ITバブル期に次ぐ高水準になっています。
【AIバブル】
NVIDIAの空売りは、AI関連株の上昇が行き過ぎたAIバブルを警戒している表れだと考えられます。
【米中貿易摩擦】
中国株の大量空売りは、現在進行中の米中貿易戦争を懸念しているためでしょう。関税によって中国企業は苦しい状況に陥り、同時に米国も関税によるインフレという形でダメージを受ける、という現実的な考え方があるようです。
なぜ市場は上昇しているのか?構造的な問題と「中銀プット」
著名なファンダメンタルズ投資家であるウォーレン・バフェット氏や、JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOなど、他の多くの著名投資家も市場に対して警戒感を示しています。しかし、足元の株価は依然として上昇しており、S&P500指数は過去最高水準に戻っています。
では、なぜ警戒感が高まっているにも関わらず、市場は上昇を続けているのでしょうか?これには構造的な問題と、過去の経験に基づく投資家の心理が関係していると考えられます。
機関投資家の構造的な問題
投資信託などを運用する機関投資家には、お客様から預かった資金を現金で持っておくことが難しいという構造的な問題があります。手数料を取っている以上、現金のままではお客様の資産が減ってしまうため、市場に投資し続けなければならないという内的なルールや、顧客への宣言があります。
市場が大きく下落した後、一時的に現金比率を高めたとしても、時間が経てば再び株を買い戻さざるを得ない状況が生じます。これは、市場が下落した後に自然と上昇を呼び込む要因の一つとなります。
パフォーマンス評価と追随買い
また、ファンドマネージャーは四半期や毎月のパフォーマンスで評価されます。市場が上昇している局面で、現金比率を高めて市場から遅れを取ると、パフォーマンスが悪化し、最悪の場合クビになる可能性もあります。このため、市場が上昇している時は、ファンドは買わざるを得なくなり、上昇がさらなる上昇を呼ぶという状況になりがちです。
「デッドキャットバウンス」と安心感
経済の状況が悪いにも関わらず、株価が大きく下がった後に一時的に反発する現象を”デッドキャットバウンス(死んだ猫も落とせば跳ねる)”と呼ぶことがありますが、現在の市場もこれに似ているように見えます。
さらに、過去数年間の経験、特にコロナショック以降、市場が下落しても最終的には持ち直してきたという経験から、「下がったら買い」という安心感を持っている投資家も少なくありません。
長期にわたる金融緩和の影響
過去2008年のリーマンショック以降、政策金利は歴史的に見て非常に低い水準が長く続いていました。コロナ禍でさらに金利は引き下げられゼロ近くになり、ようやく近年になって過去の水準に戻ってきたところです。このように長期間にわたって世の中にお金がジャブジャブだったことが、金融商品、特に株にお金が流れやすく、株価が上がりやすいベースを作っていたと考えられます。
「中銀プット」への期待
そして、多くの投資家が期待しているのが「中銀プット」と呼ばれるものです。これは、株価や経済が悪化した際には、中央銀行(FRBなど)が金利を引き下げてくれるだろうという期待です。過去、金利引き下げ局面では株価が上昇した経験があり、このため多少の市場下落は、かえって株価上昇の呼び水になると考える投資家も多いようです。
中銀プットが機能しないかもしれないリスク
しかし、この中銀プットへの期待にもリスクが潜んでいます。
通常、景気後退局面ではインフレ率が低下するため、中央銀行は金利を引き下げやすくなります。しかし、現在の状況、特にトランプ関税のような政策の影響で、たとえ景気が悪化してもインフレが進行する可能性があります。関税により輸入品の価格が上昇し、国内での代替生産も容易ではないため、物価は上がる一方となるでしょう。
物価が上昇している時に金利を引き下げるとどうなるでしょうか?人々は現金の価値が目減りすることを恐れ、物や金(ゴールド)などの資産に資金を投じようとします。これにより、さらにインフレが加速してしまうリスクがあります。
このようなインフレは、特に金融資産を持たない人や年金生活者に深刻なダメージを与えます。働く人々の賃金上昇が物価上昇に追いつかず、年金の額もインフレほどは増えないため、日々の生活が苦しくなります。これは、ロシアがソ連から移行した際に年金制度が崩壊し、高齢者が苦しんだ状況にもたとえられます。
アメリカのように貧富の差が大きい国では、インフレによってさらに格差が広がり、社会不安や暴動を引き起こす可能性すらあります。FRBはこのような状況を看過できないため、インフレが続いている状況では、たとえ株価が下落しても金利を引き下げる、つまり中銀プットを発動するのが難しくなる可能性があるのです。
多くの市場関係者は「FRBが金利を下げるから大丈夫だろう」と考えているかもしれませんが、それができなくなる可能性も考えなければなりません。
バーリ氏のタイミングと長期投資の考え方
マイケル・バーリ氏の現在のネガティブなポジションは、このような現実的なリスクを考慮したものだと考えられます。ただし、バーリ氏の予想が常にピンポイントで当たるわけではありません。2023年にも株式市場が下がる可能性を示唆しましたが、実際には市場は上昇しました。
彼はリーマンショック前も2005年頃から危険を察知していたと言われており、頭のいい人は往々にして”早すぎる”傾向があります。危険を察知してから実際に市場が崩壊するまで時間がかかるため、その間は自身の考えに反して株価が上昇し続ける、いわゆる「我慢の時」が続きます。しかし、現状を考えると、いよいよその時が近づいているのではないか、という気もします。
相場全体の動きを正確に予想することは、変動要因が多すぎて非常に難しいことです。そのため、私は投資戦略として、長期投資を選択しています。
長期投資においては、目先の株価のアップダウンは受け入れつつ、本当に素晴らしい企業を選んで購入し、持ち続けることが重要だと考えています。企業が成長すれば、10年といった長い時間軸で見れば株価も上昇するはずだという考え方です。良い株であれば、安易に売却することは考えません。
しかし、長期投資であっても、株価が”変に高い時”に買いすぎると苦しくなる可能性があります。現在の株価水準は、構造的な要因などで高くなっている面もあるため、むしろ買うのをぐっとこらえることが重要です。
逆に、市場が大きく下落し、悲観が蔓延している時こそが最高の買い時だと考えています。著名投資家のウォーレン・バフェット氏も「悲観は友、楽観は敵」という言葉を残しており、ジョン・テンプルトン氏も「悲観は最高の買時であり、楽観は最高の売り時である」という格言を残しています。
現在の市場は、中銀プットへの期待など、ある種の楽観がある状況だと感じられるため、変に強気になるタイミングではない。むしろ、「もうダメだ」という悲観的な時こそが本当の買い時である、というのが私の考えです。
まとめ
マイケル・バーリ氏の現在の空売りスタンスは、米国株の割高感、AIバブル、米中貿易摩擦といった複数のリスクに対する警戒に基づいていると考えられます。一方、市場が上昇を続けている背景には、機関投資家の構造的な問題や「中銀プット」への期待といった要因があります。しかし、インフレリスクや社会不安を考慮すると、中央銀行が従来のように株価を支えるための金融緩和を行いづらくなる可能性もあります。
相場全体の予想は難しいですが、長期投資家としては、現在の「変に上がっている」状況で焦って買うのではなく、市場が悲観に包まれ、大きく下落する時こそが投資のチャンスである、というウォーレン・バフェット氏やジョン・テンプルトン氏といった偉大な投資家の格言を心に留めておくことが重要です。
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