今回は、アミューズメント施設大手の「ラウンドワン」について深掘りしていきます。足元で業績も株価も絶好調なラウンドワンですが、実は日本国内はもちろんのこと、特にアメリカでの成長が著しいと注目を集めています。海外のヘッジファンドからも「素晴らしい株価の成長を遂げる」と高評価を得ており、その実態と今後の展望について詳しく解説します。
目次
ヘッジファンドがラウンドワンに熱視線
ラウンドワンが注目されるきっかけの一つは、2025年5月29日に香港のヘッジファンド「オアシス・マネジメント」のセルフィッシャーCEOがラウンドワンに注目していると発言したことでした。オアシス・マネジメントは過去に京セラなどにも投資していた実績があるアクティビストとしても知られています。
セルフィッシャーCEOは、ラウンドワンの創業者であり現社長の杉野さんを「成長の魔術師」と称賛しています。彼がラウンドワンの魅力として挙げているのは、である点、そして日本食をアメリカで展開する新規事業への期待です。オアシス・マネジメントは、ラウンドワンの株価が約3倍になると見ているとも語っています。この発言が影響し、翌日には株価が一時10%ほど上昇するなど、市場も大きく反応しました。
業績はV字回復、過去最高益を更新中
ラウンドワンの業績を見てみると、2007年からコロナ禍前までは売上が伸びていましたが、長期的に見ると減少傾向にありました。しかし、コロナ禍での臨時休業や営業停止を経て一時的に赤字に転落したものの、そこからの回復は目覚ましく、売上を大きく伸ばし、営業利益も過去最高を更新し続けています。特に、2023年、2024年、2025年、2026年と非常に順調に成長を続けているのが特徴です。

この成長の背景には、地域別の店舗戦略が大きく関わっています。日本では店舗数が長期的に減少傾向にある一方で、アメリカでは店舗数を大きく伸ばしているのです。アメリカへの進出は2010年から始まっており、日本での積極的な店舗増加戦略を取らず、その分のリソースをアメリカに投下しています。

アメリカ事業の成長ドライバー:アミューズメントと日本IP
国内とアメリカの事業別売上構成を見ると、共通してアミューズメント部門(UFOキャッチャーやゲームセンター関連)が非常に大きく伸びています。これは、オアシス・マネジメントのコメントにもあったように、アニメグッズなど日本の人気IPを活用したクレーンゲームがアメリカで大流行しているためです。

日本ではボウリング、カラオケ、スポッチャなどを含めた「総合アミューズメント施設」というイメージが強いラウンドワンですが、アメリカではアミューズメントの売上が圧倒的に大きく、ボーリングがわずかに続き、スポッチャはほとんどありません。
利益面でもアメリカの成長は顕著です。2017年には約5億円だったアメリカの利益が、2025年には136億円にまで伸びています。日本も倍以上に伸びてはいますが、成長率で考えるとアメリカが牽引役となっていると言えるでしょう。

アメリカでの成功要因:戦略的な出店と日本流の運営ノウハウ
では、なぜラウンドワンはアメリカでこれほどの成功を収めているのでしょうか?
【早期のアメリカ進出とショッピングモール戦略】
アメリカ進出は2010年からと比較的早く、当初は財務的な制約で加速できなかった時期もありましたが、その後は積極的に店舗を増やしていきました。その際、ラウンドワンが狙ったのは、全米の既存大型ショッピングモール内への「居抜き出店」でした。これにより、ショッピングモールの既存来店客を顧客として取り込み、夜間は大学生を中心とした若年層をターゲットにしました。
【アメリカの地域特性への適応と健全な遊び場の提供】
ショッピングモールへの出店は、単に都会だけでなく、アメリカの「田舎」にも展開することを可能にしました。アメリカの田舎には遊ぶ場所が少なく、若者が不健全な行動に走りがちな地域もある中で、ラウンドワンはゲームセンターやボーリングを通じて「健全な遊びの場」を提供し、地域の若者に受け入れられています。
【日本で培った「運営ノウハウ」の活用】
日本のラウンドワンは、かつてゲームセンターが「ヤンキーのたまり場」といったネガティブなイメージを持たれることもありましたが、近隣住民への説明会などを通じて「危なくない施設」であることをアピールし、地域に受け入れられるよう努力してきました。家族連れなども増え、特にコロナ禍以降はアニメ人気も相まって、幅広い層が利用する健全な場所へと変化しました。この「きめ細やかな運営ノウハウ」をアメリカでも生かすことで、荒れることなく健全な遊び場として定着させようとしているのです。
【アメリカの不動産会社との良好な関係構築】
ラウンドワンがこれだけの大型スペースを確保できるのは、アメリカの不動産会社との関係構築が非常にうまくいっていることが大きいと考えられます。特にコロナ禍でショッピングモールに空きスペースが増えた時期に、ラウンドワンのような大規模施設が入居することは、不動産会社にとっても大きなメリットがあった可能性があります。
これら様々な要素が複合的に組み合わさることで、ラウンドワンのアメリカ事業は今まさに花開いていると言えるでしょう。
今後の成長戦略と新たな挑戦
今後のラウンドワンの成長戦略としては、アメリカでの店舗数を継続的に増やしていくことが基本方針です。日本では店舗数を積極的に増やすことはせず、アニメ、VTuber、アイドルなどの様々なIPとのコラボレーションキャンペーンを積極的に行い、来店動機を作り出すことに注力しています。
ラウンドワンのユニークな点は、時間帯によって利用者層が異なることです。夜は大学生を中心とした若者が、日中はボーリングの大会や教室に参加するシニア層が、そして週末にはファミリー層が増えるなど、幅広い客層に対応できる特徴も持っています。
そして、今後の大きなトピックとして注目されているのが、「日本食プロジェクト」です。ヘッジファンドもこのプロジェクトに期待を寄せ、株価3倍の根拠の一つとしていました。
新たな挑戦:日本食プロジェクト「ラウンドワンデリシャス」
この「ラウンドワンデリシャス」は、日本の最高級の日本食(寿司、天ぷら、焼き鳥、創作日本料理など)の一流店舗とコラボレーションし、アメリカで出店するというプロジェクトです。社長の杉野さんがアメリカ視察時に「美味しい日本食がない」と感じたことや、日本を訪れる外国人観光客が予約困難な一流店を体験できない現状から、「日本で食べられないような店をアメリカに出そう」という発想で始まったとされています。
2023年にプロジェクトが始まり、同時に人材募集も行われました。料理学校を卒業した人や料理人の経験がある人を採用し、これらの人材は現在、日本の有名店で約1年間修行中です。今年の夏にはアメリカでのオープンが予定されています。
リスクと課題
しかし、ラウンドワンの今後の成長にはいくつかのリスクも存在します。
【日本市場の人口減少】
日本国内では人口減少が避けられない課題であり、ラウンドワンもこれを認識し、日本での店舗増加には慎重な姿勢を見せています。
【アメリカ出店コストの増加と金利上昇】
コロナ禍での居抜き出店は比較的低コストで可能でしたが、今後も同じペースで低コスト出店を維持できるかは疑問視されています。新規出店には多額のコストがかかり、財務的な負担が増大する可能性があります。さらに、アメリカの金利が上昇しているため、ドル建てでの借入れは金利負担が増えるリスクがあります。
【日本食プロジェクトへの懐疑的な見方】
「ラウンドワンデリシャス」については、業界の専門家から懐疑的な声も上がっています。
- 食事業の難しさ: 海外での食事業は現地化なしには成功が難しい傾向にあり、ラウンドワンには食に関するノウハウがありません。
- 経営資源の分散: 会社本来の強みから大きく外れた事業に多額の資金や社長の経営資源が投じられることへの懸念があります。特に好調な時ほど、本来の軸から外れた事業に手を出しがちになるという経営の鉄則に反する可能性があります。
- 社長の過去の発言との矛盾: 杉野社長は過去のインタビューで多角化には慎重な姿勢を示していましたが、今回の外食事業はこれと矛盾しているように見えます。
- 都市部への出店: 日本食プロジェクトはニューヨークなどの都市部の一等地への出店を想定しており、これはこれまでのアメリカでの成功要因であった「田舎」での展開とは異なります。
もちろん、社長自身は真剣にこのプロジェクトに取り組んでいるものの、投資家としてはこの新規事業の行方を慎重に見守る必要があるでしょう。
まとめ
ラウンドワンは、日本のアミューズメント施設がアメリカという海外市場で成功を収めている、非常に興味深い事例です。特に、日本のIPを活用したアミューズメントの訴求力、現地の特性に合わせた戦略的な出店、そして日本で培われたきめ細やかな運営ノウハウが、その快進撃を支えています。今後は、アメリカでの事業をいかに現地の文化として根付かせ、継続的な成長を維持できるかが鍵となるでしょう。
一方で、リスクとして、日本市場の縮小、アメリカでの出店コスト増、そして新規事業である日本食プロジェクトの成否が挙げられます。特に日本食プロジェクトは、既存の強みと異なる分野での挑戦であり、今後の動向が注目されます。
執筆者

佐々木 悠(ささき はるか)
つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。

プレゼント①『株式市場の敗者になる前に読む本』
プレゼント②『企業分析による長期投資マスター講座』第一章
プレゼント③『YouTubeプレゼン資料』
メールアドレスを送信して、特典をお受取りください。
※個人情報の取り扱いは本>プライバシーポリシー(個人情報保護方針)に基づいて行われます。
※送信したメールアドレスに当社からのお知らせやお得な情報をお送りする場合があります。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。
コメントを残す