”景気の先行指標”安川電機が下方修正!景気は悪化している?

※本記事の内容は2025年7月16日に作成したものです。

本日は「景気の先行指標」として注目される安川電機の最新決算から、現在の経済状況と今後の展望について詳しく解説します。安川電機は、その決算発表が他の多くの企業よりも早いため、経済全体の動向を占う上で非常に重要な存在です。

安川電機とは?なぜ景気の先行指標とされるのか?

安川電機は、一般的な企業が多い3月期決算とは異なり、2月期決算の企業です。このため、3月期決算企業がラッシュを迎える前に先行して決算を発表する傾向にあります。

さらに、安川電機は顧客企業がグローバルに広がっているため、世界的な景気動向の先行指標として捉えられやすいという側面を持っています。

同社が手掛ける製品は、工場で必要とされるロボットやサーボモーター、インバーターといった制御装置が中心です。これらの製品は、特定の場所に正確に動かしたり、モーターの速度を制御したりするために不可欠なものです。
顧客の業界は多岐にわたり、半導体工場、家電製造工場、食品工場、自動車製造工場など、ありとあらゆる工場で必要とされています。

特に、安川電機の製品は、企業が生産ラインを増やしたり、新しい工場を建設したりするような「攻めの設備投資」の局面で強く求められます。このため、企業の設備投資意欲が数字に反映されやすいという特性があり、「設備投資意欲指標」とも言えます。

最新決算:まさかの下方修正の背景

安川電機は7月4日に2026年2月期第1四半期の決算を発表し、下方修正を行いました。
第1四半期にもかかわらず、売上高で約400億円、営業利益で約170億円もの下方修正となりました。これは、通期の売上予想5150億円に対して約10%弱の修正に相当します。

この下方修正の主な原因として挙げられているのが、トランプ氏の関税政策です。これにより先行き不透明感が増し、特に自動車業界を中心とした設備投資が鈍化するという見込みが背景にあります。

トランプ関税が設備投資に与える影響

現状、トランプ関税が実際にどうなるか分からない状況が、各企業の投資に対して「及び腰」にさせています。安川電機の決算にも、この不透明感が数字として現れつつあると見られています。

これまで米州では、製造業の国内回帰や半導体工場の米国建設といった動きが活発で、比較的受注が好調でした。

出典:安川電機 決算説明資料

しかし、今回のトランプ関税によって、米国での設備投資がどうなるか不明瞭になり、企業が投資を抑制する流れが今後出てくるだろうと予想されています。

米国への輸出を考えて工場を建設する場合、関税がいくらかかるか分からないため、投資に慎重にならざるを得ません。一方、米国国内で生産する分には関税がかからないため、米国での工場建設が相対的な選択肢になりそうにも見えます。

しかし、自動車製造においては、工場建設やサプライチェーン、物流全体の再構築には莫大なコストと時間が発生します。さらに、関税がいつまで継続するか不透明なため、数年後に政策が変われば、米国に製造拠点を移したことが無駄な時間と経費のロスになる可能性も懸念されています。既存の稼働率や生産キャパシティ、人材確保の難しさなども考慮すると、企業は安易に投資を増やせない状況にあると言えるでしょう。

地域別の動向:中国と日本の状況

安川電機の地域別売上を見ると、国内、米州、中国が大きな比率を占めています。

出典:安川電機 決算説明資料

中でも中国は、過去2年ほどで受注が大きく縮小していることが明らかになっています。2023年度には第1四半期で364億円あった中国の売上が、足元では271億円まで減少しています。

その他の地域、特に国内は、現時点では中国ほど大きなダメージを受けていません。しかし、関税の影響が長引けば、国内市場もズルズルと悪化する可能性が指摘されています。全体で見ても、安川電機の売上は過去2年ほど右肩下がりとなっており、これはこれから景気が悪化する可能性を示唆しているかもしれません。

マクロ経済への広がりと安川電機の特性

トランプ関税の影響がさらに長引けば、自動車業界だけでなく、製造業全般や半導体業界にも間接的に影響が及ぶ可能性があります。景気が悪化すると、半導体工場や製造装置自体の生産も抑制され、結果的に安川電機の制御部品への需要も落ち込むことになります。顧客企業の「攻めの設備投資」が抑制されれば、中長期的にはさらに安川電機の業績に影響が出るかもしれません。

安川電機は、特定の顧客業界ごとの内訳を開示していませんが、これは同社が顧客企業から製品の用途を完全に把握できていない側面もあるためです。顧客は安川電機に「こういう装置を作るから、最適な制御装置を設計してほしい」という設計仕様しか見せないことが多く、最終的に何に使われるのかは安川電機側にも分からない場合があるとのことです。

このため、安川電機は「部品屋」のような位置づけになりがちで、顧客の設備投資意欲に左右されやすいという特性があります。例えば、キーエンスのように自社から積極的に提案するビジネスモデルとは異なり、安川電機は顧客のニーズに「なされるがまま」に対応する傾向が強いと言えます。この特性が、安川電機の業績をマクロ経済の動向、特に企業の設備投資の動向を読み解く上で非常に分かりやすい指標にしているのです。

業績と株価の動向

安川電機の営業利益は、2023年2月期にピークを迎えた後、ずるずると低下しており、2024年2月期から2025年2月期にかけて3年連続で減益となる見通しです。これは売上高の右肩下がりの傾向とも連動しています。

株価も同様に、2024年の半ば頃から下落傾向にあります。これは中国経済の減速だけでなく、世界経済全体に好ましいトピックが少ないことが織り込まれている印象です。

現在のPERは22倍であり、業績相応の動きを示していると言えます。安川電機の株価は、極端に加熱したり冷え込んだりすることなく、業績に連動して比較的安定的に動く傾向があるようです。

まとめ

安川電機の最新決算と下方修正は、トランプ関税による先行き不透明感が、特に自動車業界を中心とした企業の設備投資意欲を冷え込ませている現状を浮き彫りにしました。同社の業績が景気の先行指標としての役割を果たすことを考えると、この傾向は世界経済全体、特に製造業や半導体業界にも波及する可能性を示唆しています。今後、関税の動向や企業の設備投資戦略がどう変化するかが注目されます。

執筆者

執筆者:元村 浩之

元村 浩之(もとむら ひろゆき)

つばめ投資顧問 アナリスト
県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。 大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。
2022年につばめ投資顧問に入社。 長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。

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