タカタの上場廃止はなくても株価が上がらない理由

エアバッグのリコール問題でタカタの経営が揺れています。一部報道ではリコール費用の総額が2兆円に上るとも言われ、株価は1年前の約3分の1まで下落しています。果たしてタカタへの投資を検討できる状況なのでしょうか。

リコール費用2兆円の試算も

タカタはエアバッグやシートベルトを製造し、自動車メーカーに納入しています。問題となっているのは同社が作るエアバッグの不良により死亡事故が発生した事案で、世界で11人が死亡したとされています。死亡事故のほとんどが米国でのものです。

事故の厳密な原因は調査中となっていますが、結論に先立ち自動車各社はリコールを行っています。現在リコールの対象となっているのは約5,000万台で、最終的に1億台に上るとも言われています。1台の修理にかかる費用が1~数万円ということなので、負担総額2兆円と言われている数字と合致します。

リコール費用を全てタカタが負担するというわけではありません。自動車メーカーとの協議の上、負担割合が決定されます。それでもタカタの純資産は約1,400億円しかなく、リコール費用の額から考えて債務超過は免れそうにありません。債務超過になると、何も手を打たなければ上場廃止になってしまいます。

業界でのプレゼンスは高い

タカタは1933年創業の伝統ある企業です。エアバッグの他にシートベルトやチャイルドシートなど、自動車の安全に関わる部品を製造しています。株式は約6割が創業家によって保有される、典型的な同族経営です。

主な納入先はホンダ、フォルクスワーゲン、GM、ルノー日産、フィアット・クライスラーなどであり、日本企業にとどまらないグローバルな展開を行っています。なかでもホンダとの関係は深く、今回の件の鍵を握っていると考えられます。

エアバッグやシートベルトはいずれも世界シェア20%程度と2~3番手に付けています。今回のリコール台数が1億台に上るというのも、それだけ自動車業界での高いプレゼンスがあるということの裏付けです。自動車に安全装置は欠かせないものなので、需要も安定しています。

ホンダはきっと救済する

それだけ業界でのプレゼンスがある会社ですから、仮に多額のリコール費用を負担することになっても完全に倒産することはなく、事業は何らかの形で継続するでしょう。そうしないと多くの自動車メーカーが困ってしまいます。

タカタの事業そのものは悪化していないので、資本注入さえできれば困難を乗り越えることができるでしょう。資本注入の主体として真っ先に名前が上がるのがホンダです。しかし、ホンダの八郷社長は2月の会見で以下のように発言しています。

独自でタカタの経営支援は考えていない

突き放したようにも見える発言ですが、これは他の自動車メーカーに対するけん制だと考えています。タカタが潰れて困るのはホンダだけではないので、自社だけでなく他社にも協力して欲しいというのが本音でしょう。

ホンダにとって一番困るのが、タカタが会社更生法を適用し、リコール費用の負担を減額してしまうことです。もしそうなった場合、ホンダをはじめとする自動車メーカーはタカタが払えなかったリコール費用を負担せざるを得なくなります。合理的に考えれば、タカタが会社更生法を申請する前に資本注入により救済して、リコール費用をしっかり払ってもらった方が”得”なのです。

以上の理由から、私は最終的にホンダがタカタを救済し、上場廃止は免れる可能性が高いと考えます。しかし、救済されるから株価が上がるかというと、そうもいきそうにありません。

株価上昇を妨げる「希薄化」

資本注入されたとして、その金額は数千億円単位になると考えられます。タカタの現在の時価総額は300億円そこそこですから、資本注入時に株式数が10倍前後にまで増える「希薄化」が起きてしまうのです。

仮に3,000億円の資本注入があった場合、株式数は8,300万株から8億6,000万株まで急増します(本日終値386円で算出)。株式数が増えるということは、1株あたりの価値が薄まるということです。

リコール問題を脱した後のタカタの本質的な価値が時価総額2,000億円だったとしても、株式数増加後の適正株価は233円ということになります。なお、事故発覚前である2年前の時価総額は1,600億円程度なので、2,000億円でも甘めの見積もりです。

上場廃止リスクに加えて、それを逃れたとしても希薄化が必至であり、株価は上昇しにくい状況が続きそうです。

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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