【東京エレクトロン】下方修正で株価急落!何が起こっている?

2025年7月31日に発表された東京エレクトロンの第1四半期決算は、多くの投資家に衝撃を与えました。売上高・営業利益ともに前年同期を下回る結果に加え、第1四半期にもかかわらず通期業績の「下方修正」を発表したのです。この発表を受け、翌8月1日には株価が一時ストップ安に迫り、最大で前日比18%も下落するという事態に発展しました。

なぜ、日本を代表する半導体製造装置メーカーである東京エレクトロンがこのような状況に陥ったのでしょうか。その背景にある主要な2つの懸念材料と、今後の見通しについて詳しく解説します。

東京エレクトロン下方修正の主な2つの理由

東京エレクトロンが下方修正を発表した背景には、大きく分けて2つの理由があることが明らかになりました。

1. 生成AI向け設備投資のペース鈍化

昨今の生成AIブームを受け、半導体メーカーは積極的な先行投資を行ってきました。しかし、時間が経つにつれて、顧客企業側で以下のような変化が見られています。

  • 歩留まりの改善による生産性向上:生成AIに必要な半導体を効率よく製造できるようになりました。例えば、以前は100個に1個の不良品が出ていたものが、1000個に1個、あるいは1万個に1個といった具合に改善されています。
  • 需給バランスの最適化:ブームから時間が経過し、足元の需要予測が立てやすくなったことで、半導体メーカーは「先行投資」から「着実な投資」へと切り替えを進めています。
  • 次世代AI半導体向け投資の先送り:より高性能な次世代AI半導体の需要があるものの、足元の状況を見て、設備投資を少し後ろ倒しにする動きが見られます。製造装置を早期に発注すると、それが遊んでしまう可能性があるため、タイミングを見計らっているようです。

これらの要因により、これまで業績を押し上げていた生成AI関連のプラス要素が、一時的に落ち着きを見せている状況です。ただし、2027年後半には、より高性能なAIサーバーに不可欠な最先端半導体が求められるようになるとの予測もあり、この需要が急遽立ち上がれば、東京エレクトロンの製造装置需要も再び大きく拡大する可能性があります。しかし、現状ではその予測が少し後ろ倒しになったことで、今期の通期業績見通しにマイナスに影響したと見られています。

2. 中国向けレガシー半導体製造装置需要の急減速

もう一つの、そしておそらく影響が大きいと見られる理由が、中国市場におけるレガシー(成熟世代向け)半導体製造装置の需要低迷です。

  • 過去の大量調達の背景:昨年、東京エレクトロンの売上高の約半分を中国向けが占めるほど、中国市場への依存度が高まっていました。これは、米中対立の激化による半導体製造装置への輸出規制を懸念し、中国の半導体メーカーが「買えるうちに買っておけ」という判断から、大量の装置を先行して調達したためです。
  • 現状の「お腹いっぱい」状況:電子デバイス産業新聞の報道(2023年2月)によると、中国の半導体メーカーはすでに”お腹いっぱい”の状況にあり、購入したもののクリーンルームに未実装のまま倉庫に置かれている装置がかなりあるとされています。このため、日本からのフォーキャスト(予測)は「かなり弱気」であり、2025年度は「相当厳しくなることを覚悟しなければいけない」という見通しも出ています。
  • 中国経済の悪化と「脱チャイナ」:中国の不動産不況を起点とした景況感の悪化や、地政学リスクの高まりに伴う「脱チャイナ」の動き(世界各国の工場が中国から近隣アジア諸国へ移転)も、レガシー半導体の需要をさらに押し下げる要因となっています。

これらの複合的な要因により、中国向けの半導体製造装置の需要が急速に縮小しており、特にこの影響がいつまで続くかが見通せない点が、東京エレクトロンにとって大きな懸念材料となっています。

東京エレクトロンの今後の見通し:長期的な成長性は健在か?

足元の状況だけを見ると不安になるかもしれませんが、東京エレクトロンがこのままずるずるとダメになるわけではないと考えています。

  • 業界全体のトレンドであり、シェアの低下ではない:今回の下方修正は、東京エレクトロンが幅広い半導体製造装置を扱うがゆえに、業界全体のネガティブな動向の影響を受けているに過ぎません。同社が業界内でのシェアを奪われたわけではない点が重要なポイントです。
  • 半導体市場の長期的な拡大:半導体市場は、2030年頃までに現在の約2倍弱まで拡大すると予測されています。東京エレクトロンは、その中で非常に重要な半導体製造装置をグローバルな半導体メーカーに提供しており、製品ラインナップも非常に広いため、半導体市場の拡大に伴い、いずれはプラスの恩恵を受ける時が来ると予測されます。
  • 地政学リスクと生産拠点シフト:中国向け需要の縮小は懸念材料ではあるものの、中国がダメになれば、半導体の製造拠点はそれ以外の地域に移転する動きが中長期的に出てくるでしょう。市場全体の拡大という事実が変わらない限り、需要地が変わるだけで、半導体製造装置市場は中長期では拡大していくと考えるのが自然です。
  • 技術トレンドへの対応:半導体製造プロセスにおける「後工程(パッケージング)」技術への移行が東京エレクトロンの業績に影響を与える可能性も指摘されていますが、技術のトレンドがどちらに転んだとしても、東京エレクトロンの半導体製造装置は不可欠な存在であり続けると考えられています。
  • 次世代AI半導体の再需要:昨今開発されている様々なAI関連サービスを考えると、次世代AIサーバー向けの高性能AI半導体の需要が再び勃興すれば、東京エレクトロンの業績に大きなプラスの上振れ余地がある点は変わっていません。

短中期と中長期、どちらの視点で見るか

以上の点を踏まえると、短中期的な目線で見た場合、業績が悪化する可能性は高まっていると言えます。しかし、中長期的な目線で見れば、東京エレクトロンはまだまだ成長していく可能性を秘めていると考えられます。

半導体関連銘柄は、景気変動リスクに大きく業績や株価が左右される特性があります。また、今回は同じ半導体関連企業の中でも業績に明暗が分かれるなど、複雑な側面もあります。

安易な考えで投資をしてしまうと、目先の業績や株価の変動に動揺しがちです。そのため、東京エレクトロンのような景気変動リスクや株価変動リスクが大きい企業に投資する際は、企業のことをしっかりと理解し、ご自身の投資スタンスと照らし合わせた上で、投資判断を慎重に検討することが求められます。

まとめ

東京エレクトロンの最新決算は、生成AI向け投資のペース鈍化と、特に中国市場におけるレガシー半導体製造装置需要の急速な冷え込みという、2つの大きな懸念材料を浮き彫りにしました。これにより株価は一時的に大きく下落しましたが、同社の市場シェアが奪われたわけではなく、半導体市場全体の長期的な成長性や、同社の技術的な重要性を考慮すると、中長期的には引き続き成長が期待できる企業であるという見方もできます。

投資を検討する際は、短期的な変動に惑わされず、企業の特性とご自身の投資戦略を深く理解することが重要です。

執筆者

執筆者:元村 浩之

元村 浩之(もとむら ひろゆき)

つばめ投資顧問 アナリスト
県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。 大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。
2022年につばめ投資顧問に入社。 長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。

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