日経平均株価が過去最高更新!なぜ今上がる?過熱感は?

2025年8月12日、日経平均株価が約1年1ヶ月ぶりに過去最高値を更新しました。株式市場の好調ぶりに驚いている方も多いのではないでしょうか。なぜ今、これほどまでに株価が上昇しているのか、そしてこの状況は「バブル」なのか、今後の投資戦略はどうすべきかについて、詳しく解説していきます。

なぜ日経平均は過去最高を更新したのか?メディアが報じる理由とその裏側

メディアでは、日経平均の好調を支えるいくつかの要因が報じられています。

  • 日米関税の合意:日米間の関税が15%でまとまる見込みとなり、過度な懸念が後退したこと。
  • 日本企業の決算・業績見通し:発表された日本企業の決算や業績見通しが「マイルド」で、市場の期待を大きく裏切らなかったこと。
  • AI関連銘柄への期待:特にアメリカのテック企業を中心にAI(データセンターへの投資)が加速しており、経済成長への期待が高まっていること。具体例として、データセンター向け光ファイバーや機器を製造する藤倉の株価が急騰し、情報修正も発表されています。また、AI関連銘柄としてソフトバンクグループも注目されており、半導体設計会社アームへの投資がその恩恵をもたらし、同社も過去最高水準の株価を記録しています。

しかし、これらの理由だけで現在の株価上昇を説明できるのでしょうか? 実は、少し疑問符がつく点もあります。

  • 関税の影響:たとえ15%でまとまったとしても、関税はかかるわけで、それが米国での物価に転嫁されれば、経済に悪影響を及ぼす可能性も考えられます。
  • 全体業績の不調:AI関連銘柄は好調なものの、日本企業全体としては、第1四半期の決算は前年同期比で若干マイナスとなっています。特に自動車会社(ホンダやトヨタなど)は関税の影響で業績を落としており、全体として株価が上がるほどの状況ではないかもしれません。

このように、メディアで報じられる「良い材料」は、あくまで「話半分」で聞く姿勢が重要です。これらの情報に流され、「本当に好調なんだ」と安易に信じ込むのは危険かもしれません。

株価上昇の「本当の」理由:市場心理と利下げ期待、そして「降参」

では、現在の株価上昇の本当のメカニズムは何なのでしょうか?キーワードは「降参(ギブアップ)」です。

  1. 「買いが買いを呼ぶ」心理:株価が上がると、それを正当化するような良い材料が後から次々と報じられ、それを見た投資家が「やっぱり買わなきゃ」と行動を起こし、さらなる上昇を促すという循環があります。
  2. アメリカの利下げ期待:現在、世界の株式市場を大きく動かしているのは、アメリカの利下げ期待です。アメリカ経済の雇用が思わしくないという見方があり、経済が良くない時には金利が引き下げられるのが一般的です。金利が下がると株価は上がるという定説があるため、世界の投資家は米国の利下げを期待し、積極的に株を買い進めている状況です。
  3. 出遅れ株としての日本株:世界の主要市場を見ると、今年の株価上昇はヨーロッパが20%程度、中国もかなり上がっているのに対し、日本は最近の上昇があったとはいえ11%程度と、出遅れ感がありました。このため、世界中の投資家が「日本株はまだ割安だ」と判断し、資金が流入してきた側面があります。
  4. 「谷深ければ山高し」と「降参」:今年4月にトランプ関税ショックで株価が大きく下落しました。しかし、相場の格言に「谷深ければ山高し」という言葉があるように、大きく下がった後は大きく上がりやすい性質があります。トランプ関税ショックの際に「市場は危ない」と感じて株を売ったり、空売り(ショート)していた投資家がいました。しかし、株価が反発して上昇を続けると、彼らは「上がっているのに買わないのはまずい」と感じ始め、買い戻しや新規の買いに動きます。特に空売りをしていた投資家は、損失を避けるために買い戻し(踏み上げ)を強いられ、この動きがさらなる上昇を加速させます。この現象こそが「降参」です。つまり、これまで「まだ下がるかも」と抵抗していた投資家たちが「もう無理だ、買わないとやばい」とギブアップして買いに転じることで、株価が急上昇するのです。
  5. 夏枯れ相場の影響:夏の時期(特に日本のお盆など)は、機関投資家が休暇に入り、市場に参加する投資家が少なくなる「薄商い(うすあきない)」になりやすいという特徴があります。このような時期は、わずかな取引でも株価が大きく動きやすいため、現在の急激な上昇もその影響を受けている可能性があります。

これらの要因、すなわち「景気の現状」「これまでの市場の動向」「現在の薄商いの状況」が組み合わさって、今の株価上昇が起こっていると考えるのが、最も現状を正確に説明していると言えるでしょう。

ジョージ・ソロス「再帰性理論」が示すバブル生成のメカニズムと市場の過熱感

今回の株価上昇を理解する上で、投資家ジョージ・ソロス氏の提唱する「再帰性理論」が非常に参考になります。

通常、自然界では何かが「行き過ぎる」と、元に戻そうとする「負のフィードバック」が働きます。例えば、気温が上がりすぎると積乱雲ができて雨が降り、気温が下がる、といった具合です。

しかし、ソロスは株式市場においては、一時的にこの「負のフィードバック」が働きにくくなると指摘します。つまり、株価が上がると、その上昇自体に市場が反応し、「良い材料」が次々と報じられ、それがさらなる株価上昇を引き起こす、という「正のフィードバック」が働くのです。これは、バブルが生成される過程そのものです。

現在の市場には、まさにこの「行き過ぎた」状態を示す加熱感が見られます。

  • 騰落レシオ:この指標は、値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の比率から市場の過熱感を示すものです。現在の騰落レシオは、25日移動平均で140、15日移動平均で170といった非常に高い水準に達しており、過去数年で最も高い加熱状態を示しています。

出典:世界の株価

  • 買場はどこか?:過去のデータを見ると、騰落レシオが低い時(例えば、4月のトランプ関税ショック時のように60を切るような時)が「売られすぎ」で、絶好の買い場となります。現在の高値で買うことは「ジャンピングキャッチ」のリスクを伴う可能性が高いと言えます。

逆説的な市場心理:悲観論者がいる限り上昇は続く?

市場が加熱しているにもかかわらず、まだ株価が上昇する可能性もあります。これは非常に逆説的な考え方ですが、市場に「悲観論者」が残っている限り、相場の上昇は続きやすいという特性が株式市場にはあります。

  • 悲観論者の「降参」:「まだ市場は危険だ」「いつか下がるはずだ」と考えて株を買わずにいる悲観論者がいるということは、彼らが最終的に「もう耐えられない」「買わなければ後悔する」と「降参」した時に、新たな買い手となる余地があることを意味します。
  • バブル崩壊のタイミング:バブルが崩壊するのは、全ての悲観論者が降参して買い切り、新たに買う人がいなくなった時だと考えられています。

したがって、短期的には、まだ悲観論者が残っているため、株価がさらに上昇する可能性はあると見られています。これは「ハイリスク・ハイリターン」の状況と言えるでしょう。

今後の見通しと投資戦略:短期 vs 長期

現在の状況を踏まえると、投資家はどのような戦略を取るべきでしょうか。

短期トレーダーの戦略

  • 短期的な上昇の可能性はまだあるため、今の局面は「ハイリスク・ハイリターン」と認識しつつ、利益を狙う余地があるかもしれません。
  • しかし、どこかでバブルが弾ける可能性を常に意識し、警戒しながら取引に臨む必要があります。

長期投資家の戦略

  • 現在の加熱した状況は、長期投資にとっての「買い時」ではないと考えるべきです。
  • 長期投資家は、周囲が熱狂して買っている中で、「買いたい気持ちをこらえる」忍耐力が求められます。
  • 有名な経済評論家・株式投資家の邱永漢さんの言葉に「株の利益は我慢料」というものがあります。まさに今が、長期投資家にとって我慢の時と言えるでしょう。
  • バブルの最後の局面は、最もリスクが高まるにもかかわらず、最も急激に上昇しやすいという特性があります。もし私自身が「もう無理、買わないと!」と言い出したら、それがバブルのピークだと思っていただきたいです。

 

ハワード・マークスの著書「市場サイクルを極める」では、上昇局面の市場サイクルが以下のように説明されています。

1. 景気拡大、経済の良いニュースが続く。
2. 企業利益が予想を上回って拡大する。
3. メディアが良いニュースばかり報じる。
4. 証券相場が強含む。
5. 投資家が次第に自信を強め、楽観的になる。
6. リスクが低く、相対的に安全だと認識される。
7. リスクを許容することが確実に利益を上げる道だと考える。
8. 強欲が行動を促す。
9. 投資機会に対する需要が供給を上回る。
10. 資産価格が本質的価値を超える水準に上昇する。
11. 懐疑主義の度合いが弱まり、市場への信頼が強固になることで、リスクの高い取引が可能になる。
12. 状況が悪化することが全く想像できなくなり、どんな良い出来事も当然と考えるようになる。
13. 誰もが状況が永遠に良くなり続けると見込む。
14. 損失を出す危険性を軽視し、機会を逸することだけを懸念する。
15. 売る理由がなく、売りを余儀なくされる者もいない。
16. 買い手の数が売り手の数を上回る。
17. 相場が一時的に下がると、投資家が喜んで買いに動く。
18. 価格が高値を更新する。(今この辺りかもしれません)
19. メディアがこの素晴らしい出来事を大々的に報じる。
20. 投資家が気分を高揚させ、警戒心をなくす。
21. 証券保有者が自身の才知に驚嘆し、場合によっては買い増す。
22. 傍観し続けていたものが後悔の念を抱き、降伏して買いに動く。
23. リスクが高まる。

現在の市場はまさに、このサイクルの最終局面に近づいている可能性があります。このような状況では、投資家は「機会を逸する可能性」へのこだわりを捨て、「損失を出すこと」だけを懸念すべきであり、「警戒心」が非常に重要であると、マークスは述べています。

まとめ

日経平均株価の過去最高値更新は、単に経済の好調を示すだけでなく、市場の心理や特有のメカニズムが複雑に絡み合った結果と言えるでしょう。特に「降参」という心理が現在の株価上昇を加速させている側面は強く、短期的な高揚感と長期的なリスクを冷静に見極めることが重要です。

長期投資家としては、今の加熱感を冷静に見守り、忍耐強く「買い時」を待つ姿勢が求められます。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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2 件のコメント

  • 18. 価格が高値を更新する。(今この辺りかもしれません)

    この状況下では場合によって利確や損切りを考えていくべきなのでしょうか?
    ベース銘柄はあくまでも長期保有すべきかとは思いますが、、、

    僕はユニバーサル園芸が一気に高騰したのでつい利確してしまいました。

    • お世話になっております。
      こちらオープンなサイトとなりますので、会員としてのご相談でしたら「会員サイト」よりお願いいたします。

  • 栫井 駿介 へ返信するコメントをキャンセル

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