【株式動向】ダイキンは収益性改善とAIデータセンター向けで大復活を遂げる?

今回は空調業界のグローバルリーダー、ダイキンについて解説します。

足元で株価が好調に推移しているダイキンですが、以前は厳しい状況にあると報じられた時期もありました。一体何が起こり、どのようにして回復基調に乗ったのでしょうか?そして、今後何が期待されるのでしょうか?

ダイキンの業績推移と現在の課題:好調な売上と「稼ぎ方」のジレンマ

ダイキンの業績は基本的に右肩上がりで非常に好調と言えます。売上高は約4兆7,000億円、営業利益は約4,400億円に迫る水準まで伸びています。さらに、2026年3月期には売上・営業利益ともに過去最高を達成する見込みであり、業績上は大きな問題が見られないように見えます。

出典:マネックス証券

しかし、課題もありました。それは「営業利益率」です。 業績は好調であるにもかかわらず、「稼ぎ方」があまり良くないと指摘されていました。

  • 2010年代後半には11~12%程度あった営業利益率が、徐々に低下。
  • 株価が好調だった2022~2023年頃は10%前後でしたが、足元では8%程度まで下がっていました。

出典:マネックス証券

このように、好調な業績とは裏腹に、営業利益率の低下がダイキンのこれまでの問題点として挙げられていました。

ダイキンのグローバル戦略:地域密着型「市場最寄り化戦略」とは?

ダイキンは大阪に本社を置く企業ですが、その売上構成比を見ると、圧倒的にアメリカ市場が大きくなっています。全体の34%をアメリカが占め、日本、ヨーロッパ、アジア・オセアニア、中国が続きます。このため、ダイキンの業績はアメリカ市場の動向に大きく左右されます。

ダイキンが採用している戦略は、一言で言えば「市場最寄り化戦略」です。これは、販売する地域の近くで製品を製造し、そのまま販売するというものです。例えば、日本で売られるものは日本で、アメリカで売られるものはメキシコなどで、ヨーロッパで売られるものはヨーロッパで生産されています。

この戦略は、空調事業の特性に深く関連しています。

地域ごとのニーズの違い

各地域で求められる機能が大きく異なります。

  • 日本:省エネ性、快適性、湿度調整(気温を大きく下げずに湿度を下げる機能など)。
  • アメリカ:個室ごとではなく、ビル全体で空調を一括管理するシステムが一般的。
  • 中国:内装へのこだわりから、高級志向で見た目が鮮やかなエアコンが好まれる。
  • ヨーロッパ:環境重視の傾向があり、銀色のメッキ加工された外観が好まれる(日本の一般的な白色とは異なる)。

気候変動や災害への対応

各地域の気温や気候は常に変化します。地産地消の体制により、特定の地域で急な暑さが訪れればその地域の工場稼働を上げるなど、タイムリーな商品供給が可能になります。

ダイキンは世界27カ国、90カ所に生産拠点を持ち、こうしたきめ細やかな販売体制を構築しています。

直面した課題:冷媒規制と市場の読み違い

昨年(2025年3月期後半)にかけて、ダイキンはアメリカ市場で苦戦し、ディーラーシェアが低下しました。これは、前述の「市場最寄り化戦略」が裏目に出た結果と言えます。

アメリカでは、2025年から環境負荷の大きい冷媒(R410A)を使用したエアコンの生産が法的に禁止されることが数年前から決まっていました。R410Aは、二酸化炭素の約2090倍の温室効果を持つと言われる冷媒です。

ダイキンはこれに対応するため、より温室効果の小さい冷媒R32(二酸化炭素の約675倍)を使ったエアコンの生産を先行して増やしました。しかし、他社の多くは、生産禁止となるR410A冷媒を使用した既存在庫を、安価で大量に売り切る戦略をとりました。市場は価格の安さを優先し、温室効果の大きいR410Aエアコンの需要が一時的に高まったのです。

結果として、ダイキンは市場が求めたR410Aエアコンを十分に提供できず、R32の増産に注力したものの、ディーラーシェアを落とすことになりました。これは、需要の先読みが市場の動向と乖離したためであり、昨年度のダイキンにとって非常に厳しい状況でした。

利益率改善の軌跡:経営方針転換と高付加価値戦略で株価回復

しかし、足元の2025年3月期第1四半期(1Q)決算を見ると、状況は大きく好転しています。販売台数自体には大きな変化は見られず、特に住宅用ユニタリーは前年比マイナス13%と依然厳しい状況ですが、ディーラーへの個別訪問によりシェアはやや回復しています。業務用の大型空調機であるアプライド事業のデータセンター向けは引き続き好調を維持しています。

注目すべきは、売上高が微減したにもかかわらず、営業利益が前年同期を上回り、営業利益率が改善した点です。

  • 2024年1Qの売上高:約1兆2,300億円 → 2025年1Qの売上高:約1兆1,900億円(微減)。
  • 2024年1Qの営業利益:約1,100億円 → 2025年1Qの営業利益:約1,200億円(増加)。
  • 営業利益率:約8%台 → 約10%前後まで回復。

この「売上減益増」の決算は市場から非常に好意的に受け止められ、足元の株価上昇に大きく寄与していると考えられます。

なぜ利益率が上がったのでしょうか? その背景には、経営陣による抜本的な方針転換があります。

数量・売上重視から利益率・資本効率重視へ

以前は販売台数の回復に注力し、多少単価を下げてでもシェア確保を目指す「数量・売上重視」の姿勢が見られました。しかし、利益率の低下が続いたため、各地域の現地法人に対し、売上が多少落ちても利益をしっかり確保するよう営業方針が変更されました。

製品ミックスの改善(高付加価値化)

利益率の高い、中高級帯・ハイエンド機種の販売を強化

  • 日本では他社が値下げを行う中でも、ダイキンは高級エアコンの販売を継続。
  • アメリカでは、R410Aの生産禁止によって、ダイキンが先行して生産していた環境負荷の低いR32モデルが今後主流になることが期待されており、単価維持や引き上げ、製品ミックス改善により、粗利率の高い製品がより売れるようになりました。

徹底したコスト管理

  • 生産効率改善、原価低減、調達戦略の最適化など、管理コストの最適化を徹底。
  • 例えば、同じ金属でもより安価な素材に変更するなど、細かな改善が行われました。
  • 米国の関税(年間75億円相当のコスト増)のような外部要因によるコスト増も、販売価格への転嫁やコスト削減で吸収し、利益率向上に貢献しています。

このように、販売台数が伸び悩む中でも、いったん「売上」を抑え、価格を維持・引き上げ、徹底したコスト削減を行うことで、利益率を改善させる戦略が功を奏しました。

ダイキンの未来を拓く新戦略:AIデータセンターと高成長市場への挑戦

今後のダイキンの成長を考える上で、単なる利益率改善だけでなく、やはり市場全体の需要拡大が不可欠です。ダイキンは景気変動の影響を受けやすい企業であり、住宅着工件数や企業の設備投資の動向がエアコン需要に直結します。特にアメリカの住宅需要の回復は、今後の外部環境として期待したいポイントです。

そして、もう一つ、非常に大きな成長ドライバーとして注目されるのがAIデータセンター関連技術です。

AIデータセンター市場の急成長と冷却技術の重要性

生成AIを中心に、AIの発展は膨大な電力消費を伴い、大量の熱を発生させます。この熱がこもるとAIの稼働効率が低下するため、効率的な冷却が不可欠となります。

  • 市場トレンドの変化
    従来の大型データセンターでは、部屋全体を空調で冷やすのが一般的でした。ダイキンは長年の大規模ビルや工場の空調を手掛けてきた経験から、こうした広範囲を効率的に冷やす大型空調機や冷水設備を得意としてきました。しかし、AIやクラウドサービスの急速な普及により、サーバーをより小さなスペースに高密度で詰め込むケースが増加。この環境では、従来の部屋全体を冷やす方法だけでは、熱を効率的に処理しきれないという問題が生じています。特に都市部や通信拠点に設けられる小規模で高密度型のデータセンターでは、より集中的で省エネな冷却が求められています。
  • 冷却不足の深刻な影響
    2022年には記録的な熱波により、データセンターの空調機器が故障し、GoogleやOracleのクラウドサービスが一時的に利用不能になる事態も発生しました。
  • 環境への配慮
    データセンターの稼働は温室効果ガスの増加にも繋がるため、効率的な冷却技術を取り入れたデータセンターの整備は、脱炭素の観点からも非常に重要です。
  • 市場規模の爆発的成長
    データセンター冷却市場は、2025年には約300億ドル規模ですが、2035年には1000億ドルを超える見込みです。この間の年平均成長率は12%と、非常に高い成長が期待される領域です。サーバー自体が大量の熱を発生させるため、冷却の必要性は高まる一方です。
  • 冷却技術の多様化
    従来の全体冷却に加え、部品に直接冷たい液体を流す方法や、サーバー機器を液体に沈める液浸冷却など、消費電力を抑えながら冷却を進める技術トレンドが進んでいます。

戦略的買収:DDCS社とのシナジーで冷却ソリューションを強化

このような市場の動きの中で、ダイキンは積極的な行動に出ています。2024年8月6日、AIデータセンターの冷却技術強化に向けて、アメリカのDDCS社を買収する基本合意を発表しました。

このDDCS社は、ダイキンが従来強みとしてきた業務用の大型空調機とは異なり、サーバーラック単位の個別空調に関する独自の冷却技術を持っています。これにより、ダイキンは「部屋全体を冷やす」という従来の方法に加え、「個々のサーバー機器を冷やす」という技術も取り込むことができ、小規模かつ高密度なデータセンターの需要増加にも対応できるようになります。

さらに、ダイキンは2023年にもアメリカの空調機メーカーを買収しており、そこでは設備の運転を最適化する空調制御技術を取り込んでいます。これは、単に冷却機器を販売するだけでなく、効率的な管理を継続する仕組みを提供することで、アプライド事業全体の付加価値を高めようとする戦略の一環と言えます。ダイキンは冷却設備の遠隔監視や異常・性能低下の早期発見など、予防保全サービスにも力を入れており、これらを通じて継続的な売上と利益の拡大を目指しています。

アプライド事業の営業利益率は、2023年時点でアメリカにおいては約2%と、全体の利益率(8~10%)と比較して低い水準でした。ダイキンはこの領域の利益率を8%程度まで引き上げる目標を掲げており、今回のDDCS買収は、このアプライド領域に新たな付加価値を加え、収益性を高める戦略だと考えられます。

AI投資の再加速が見込まれる中、ダイキンは単なる空調メーカーとしてだけでなく、AI関連銘柄としても市場から注目される可能性を秘めています。

まとめと今後の注目ポイント

足元のダイキン株価上昇は、厳しい市場環境の中で、「利益率の改善」という経営方針の転換が市場に評価された結果と言えます。特に営業利益率が回復基調にある点は非常にポジティブです。

加えて、AIデータセンター向けの冷却技術への積極的な投資は、今後のダイキンの成長を牽引する重要な要素となるでしょう。DDCS買収によるソリューションの幅の拡大は、小規模・高密度化するデータセンターの需要を確実に捉える動きです。

今後の注目ポイントとしては、アメリカの住宅需要の回復がダイキンの基盤事業を押し上げるか、そして、生成AIデータセンター向けの事業が、売上と利益にどれほど貢献してくるか、この2点が挙げられます。特にAI関連事業は、現時点では全体の売上貢献度は不明ですが、利益率の改善が期待される分野であり、ダイキンが新たな成長ステージに進むための鍵となるでしょう。

執筆者

執筆者:佐々木 悠

佐々木 悠(ささき はるか)

つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。

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