レーザーテックは「終わった」のか?株価低迷の裏にある「長期的な成長ポテンシャル」を解説

先日8月7日に発表された決算では、前期まで絶好調だった業績とは裏腹に、今期の業績見通しが非常に保守的だったため、落胆された方もいらっしゃるかもしれません。さらに、決算発表の1〜2週間前には、大手証券会社モルガン・スタンレーがレーザーテックの投資判断を格下げしたというニュースも流れました。
これらの情報を受け、「レーザーテックはもう終わった」と捉える個人投資家の方も少なくないようです。しかし、本当にそうでしょうか?短期的な不利な状況は認めつつも、長期投資の観点から見た場合、異なる見方ができることを、2つの視点からお伝えしたいと思います。

レーザーテック:現在の業績と失望の背景

まずは、レーザーテックの直近の業績と、今回発表された見通しを確認しましょう。
2025年6月期の業績は過去最高を更新する絶好調ぶりでした。

出典:レーザーテック決算説明会資料

  • 売上高:対前年比 +17.8%
  • 営業利益:驚異の +51%(1.5倍)
  • 当期純利益:+43.3%

この結果から、「レーザーテックは半導体業界の盛り上がりとともにイケイケだ」と多くの投資家が感じたことでしょう。

ところが、今期2026年6月期の通期予想は一転して減益の見通しです。

出典:レーザーテック決算説明会資料

  • 売上高:-20.5%
  • 営業利益:-30.8%
  • 当期純利益:-29.1%

これまでの成長が急であっただけに、この保守的な見通しに失望された方が多いのは当然と言えるでしょう。

受注残高の急減と主力製品「アクティス」の状況

減益予想の背景には「受注の低調な推移」があります。 前期末(2025年度末)の受注残高は、以前2,700億円を超えていたものが、なんと1,052億円まで減少しました。

特に注目すべきは、レーザーテックの業績を牽引してきた主力製品である「アクティス」の受注がマイナス105億円に落ち込んでいる点です。

出典:レーザーテック決算説明会資料

アクティスとは:レーザーテックが手掛ける最先端の半導体検査装置で、EUVマスク検査装置とも呼ばれます。これは、AIデータセンターなどで必要とされるAI半導体をはじめ、最先端の半導体チップを製造する上で不可欠な検査を行う装置です。

これまでの旺盛な需要から一転、TSMCなどの主要顧客が一時的に受注を抑制している状況が、今回の業績見通しに反映されているわけです。

半導体業界のトレンド変化とモルガン・スタンレーの格下げ理由

現在の半導体製造業界では、AIブームによる需要増があったものの、製造現場では「これくらいの設備があれば、これくらいのリードタイムと歩留まりで作れる」という見通しが立つようになり、設備投資がやや抑制されつつあります。この変動の波をレーザーテックも受けていると考えられます。

加えて、モルガン・スタンレーが7月28日に発表したレーザーテックの格下げ記事では、半導体業界の技術的焦点が「微細化(リソグラフィー)」から「パッケージングソリューション」へと移行していることが、レーザーテックの事業領域に影響を与えると指摘されました。

  • 微細化:これまで半導体の進化を牽引してきた技術で、回路をより細く小さく描くことでチップの性能を向上させるものです。しかし、これ以上の微細化は研究開発コストが膨大になり、製造プロセスも極めて困難になっています。
  • パッケージング技術:微細化の限界が見える中で注目されているのが、複数の異なるチップを組み合わせることで高性能なチップを作り上げる技術です。これは、個々のチップを小さくするのではなく、「レゴブロック式」に様々なチップを統合するというアプローチです。
    レーザーテックは最先端の微細回路を描くためのマスク検査装置(EUVマスク検査装置)を主力としているため、パッケージングが主流になるとその需要が下がるのではないか、という懸念が生まれたのです。

株価の推移と市場の「悲観ムード」

これらのネガティブな情報を受け、レーザーテックの株価は、一時4万5500円まで上昇した時期もあったものの、ずるずると下落傾向にあります。モルガン・スタンレーの格下げ記事や、好調な決算発表にもかかわらず今期の業績見通しが悪いことが影響し、短期的な株価は低迷しています。

現在、市場には「レーザーテックは終わるかもしれない」という悲観的なムードが漂っていると言えるでしょう。

このような悲観的な見方が広がる中で、長期投資家としての視点から、本当にレーザーテックの将来性は「終わった」と言えるのか、という問いを投げかけたいと思います。私は、そうではないと見ています。

視点1:短期的なネガティブ要因があっても、長期的な微細化の需要はなくならない

現在の最先端半導体の需要は、主にAIデータセンターが牽引しています。GoogleやMicrosoftといった企業は、AIサービスの急速な普及に伴い、自社でAIデータセンターを構築・拡張し、インフラとしての地位を確立しようとしています。そのため、従来の計画以上にAIデータセンターへの設備投資を増やすと発表しているのです。

AIデータセンターでは、膨大なAI計算処理のために大量の電力消費とそれに伴う発熱が大きな問題となっています。この消費電力を抑えることは、地球環境の観点からも、半導体チップの性能効率を最大化する観点からも、中長期的に非常に重要な課題です。

そして、この消費電力を抑えるための技術的な鍵こそが、半導体チップの「微細化」です。半導体チップをより細かく小さく作ることで、消費電力を大幅に抑えることが可能になります。

現在、AIデータセンターの最先端プロセスでは4nm(ナノメートル)が採用されていますが、3nmや2nmといったさらに微細なプロセスに移行すると、4nmと比較して15%〜20%以上、あるいはそれ以上に消費電力を削減できると言われています。

AIサービスの普及とAIデータセンターの建設が今後も加速する中で、消費電力の抑制は不可欠であり、微細化の需要が中長期的に減少することは考えにくいと私は見ています。

確かに、超高性能なチップは研究開発や製造コストが莫大ですが、半導体業界の成長の歴史を振り返ると、初期は歩留まりが悪くても、現場の企業努力によって徐々に改善され、製造コストが下がってきました。製造コストが下がれば、iPhoneのような高価な製品だけでなく、AIデータセンター向けなど、より幅広い用途で先端チップの普及が進み、先端チップ全体の需要がさらに高まるでしょう。

TSMCの決算資料からも、この傾向は明らかです。

出典:TSMC決算説明資料

例えば、5nmプロセスの売上比率は2023年第1四半期から大きく拡大しています。これは、AI半導体需要の伸びを背景に、4nmプロセス(5nmに含まれる)の生産量が増加していることを示しています。最先端の3nmプロセスも、将来的には同様に生産効率が向上し、AIデータセンターなどで広く使われるようになる可能性が高いです。

これらの7nm、5nm、3nmといった全ての先端製造プロセスにおいて、レーザーテックの検査装置は必要不可欠です。AIサービスの普及によるAIデータセンター需要の拡大、それに伴うAI半導体需要の高まりがあれば、レーザーテックの装置需要も必然的に高まります。消費電力の観点からも、微細化の重要性は揺るがないため、レーザーテックの検査装置は中長期的に見ても必須の存在であると考えられます。

視点2:仮にパッケージングが主流になっても、レーザーテックは恩恵を受ける

もう一つの懸念は、半導体開発トレンドがパッケージング技術へ移行することでした。これにより、超最先端のチップではなく、1世代や2世代前のチップを組み合わせて高性能化を図るようになるため、レーザーテックが手掛ける超先端検査装置の需要が減るというものでした。

しかし、これは逆の見方もできます。パッケージング技術によって、1世代や2世代前の半導体チップ自体の「数量」需要は確実に増加します。つまり、半導体チップ全体の総量は伸びるという事実があるのです。

レーザーテックは、最先端のEUVマスク検査装置だけでなく、その手前の世代(DUV検査装置など)の検査装置も手掛けています。DUV検査装置は、最先端のものと比べて単価は低いものの、この分野でもレーザーテックは世界シェア70%〜80%という圧倒的な地位を確立しています。

マスク検査装置市場全体は、2030年〜2035年にかけて年平均7%〜8%程度の成長が予測されています。
したがって、たとえ最先端チップの開発トレンドがパッケージングに移行したとしても、半導体市場全体の拡大という事実は変わらず、数量増の恩恵として、レーザーテックのDUV検査装置などへの需要が大きく高まると見ることができます。

つまり、どちらの技術トレンドへ進んでも、レーザーテックの検査装置は中長期的に恩恵を受ける構造にあると言えるのです。
さらに、超先端のEUV向け装置は受注から納品まで1年半〜2年かかるリードタイムがありますが、DUV検査装置であればリードタイムがより短くなります。これは、レーザーテックにとって資本効率の向上につながり、経営的なリスクも低減されるというメリットがあります。
したがって、パッケージングが主流になったとしても、レーザーテックの検査装置の需要は高まるというのが、中長期で見た自然な考え方です。

まとめと長期投資の心構え

今回のレーザーテックを巡る状況をまとめると、以下の2点から、レーザーテックの長期的なポテンシャルは依然として高いと考えられます。

  1. 短期的なネガティブ要因はあっても、AIデータセンターの消費電力削減の観点から、超先端半導体チップに必要な検査装置の需要は中長期的に必須であり、今後も拡大が見込まれる。
  2. 仮に半導体製造プロセスのトレンドがパッケージングに移行したとしても、半導体チップ全体の数量需要は高まり、レーザーテックが70%〜80%の世界シェアを持つ1世代・2世代前の検査装置の需要が上がることで、業績的な恩恵を受ける。

今回のネガティブなトピックも、短絡的に捉えすぎず、中長期的に企業価値にどれだけ影響を与えるかを冷静に俯瞰して判断することが重要です。

半導体関連銘柄は業績も株価も大きく変動しますが、そこに一喜一憂するのではなく、高い視座で業界や会社を理解することが求められます。市場が悲観している今こそ、企業のポテンシャルを冷静に評価し、今後の行動を考える良い機会なのかもしれません。長期投資家としては、このように「どっしり構える」心構えが非常に重要であると、私は考えます。

執筆者

執筆者:元村 浩之

元村 浩之(もとむら ひろゆき)

つばめ投資顧問 アナリスト
県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。 大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。
2022年につばめ投資顧問に入社。 長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。

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