オリンパス株価4割下落、買い時か?欧米流改革の光と影

2022年9月に3,200円の高値を記録したオリンパスの株価は、現在約1,800円前後と、ピークから約4割も下落しています。
消化器内視鏡分野で世界シェア7割を誇る(と言われてきた)優良企業が、なぜこのような状況に陥っているのでしょうか。

今回は、オリンパスの株価下落の背景にある、過去の粉飾決算事件から欧米流経営改革、そして現在の製品品質問題や競争激化に至るまでの歴史を紐解き、長期投資の観点から「買い」なのかどうかを詳細に分析します。

オリンパスの株価推移と業績の現状:急成長からの急ブレーキ

オリンパスの株価は、2019年頃から順調に上昇し、2022年には3,198円の高値をつけるなど、一時的に3倍にまで急騰しました。

出典:株探

これと連動するように、2019年から2022年にかけて、営業利益も280億円から1,860億円へと約9倍に伸びていたのです。

しかし、その後は状況が一変。2024年3月期には営業利益が大幅に減少し、2025年3月期も持ち直したものの、足元では再び下落基調にあります。利益水準だけを見ると、何とも落ち着かない推移を辿っていると言えるでしょう。

過去の教訓:2011年粉飾決算事件と企業再生の道のり

オリンパスと聞いて、株に詳しい方であれば2011年の粉飾決算事件を思い出す方も多いのではないでしょうか。これは、バブル期の資産運用失敗による過去の損失を隠蔽し続けていたことが、外国人社長の就任を機に明るみに出たという大問題でした。

この事件は、有価証券報告書の虚偽記載として立件され、多くの関係者が逮捕される事態に発展。一時は上場廃止の危機にまで追い込まれましたが、結果的に上場は維持され、株価は大きく下落した後に急回復を遂げました。この時、株価は一時106円にまで落ち込んでいます。粉飾決算は過去の過ちとはいえ、当時のオリンパスは内視鏡だけでなく、デジタルカメラや顕微鏡といった事業も堅調で、製品自体には高い競争力がありました。

変革の契機:ValueActの参入と「選択と集中」の戦略

粉飾決算事件後の経営の混乱を経て、オリンパスに転機が訪れます。2017年、アメリカのファンドValueAct(バリューアクト) 」がオリンパス株を取得したのです。ValueActはいわゆる「アクティビスト」と呼ばれる投資家ですが、一般的なアクティビストとは一線を画す「穏健派アクティビスト」として知られています。

彼らは、単に短期的な株価向上を目的とするのではなく、経営陣との対立ではなく協調を重視し、5~10%程度の株式保有を通じて取締役の派遣や対話を行い、企業の長期的な価値向上を目指します。任天堂やリクルート、海外ではマイクロソフトやアドビなどにも投資実績があり、特にアドビがクラウド移行を成功させたのはValueActのアドバイスがあったからとも言われています。

ValueActの支援のもと、オリンパスは「選択と集中」という経営手法を導入します。これは、ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチが採用したことで有名な戦略で、儲かっていない事業や将来性の低い事業を売却し、得意分野に資源を集中させるというものです。現在のオリンパスCEOもGE出身者です。

この戦略により、オリンパスは2021年にデジタルカメラ事業を、そして2023年には創業以来の事業であった顕微鏡事業売却しました。これにより、2023年3月期には過去最高益を記録するなど、ValueActの改革は一度は成功したかに見えました。

暗転:FDAからの警告と製品品質問題の連鎖

しかし、最高益を記録した2023年3月期以降、オリンパスの業績には陰りが見え始めます。特に深刻なのが、米国市場における問題です。オリンパスの売上高の41%を占めるアメリカにおいて、食品医薬品局(FDA)から度重なる警告やリコールが発令されているのです。

具体的には、2022年には内視鏡の製造と再処理に関する品質システム規制違反で3通の警告レターを受け取り、患者の安全を無視していると批判されました。さらに、2023年10月と2025年1月には気管支ビデオスコープのリコールが発生。不適切な再処理によるデバイス汚染や感染リスクが指摘され、中には死亡事故も発生していました。2025年6月には、一部製品の米国への輸入が禁止される「輸入アラート」まで発令されています。

これらの問題は、売上への直接的な影響は限定的とはいえ、人命に関わる医療機器を扱う企業としての信頼性を大きく揺るがす事態です。背景には、選択と集中や利益を追求するためのコスト削減が、製品品質への軽視に繋がったのではないかという推測がされています。

失われつつある?「ものづくり」の精神

現在のオリンパスの経営資料を見ると、KPI達成やポリシーといった「きれいな言葉」が並ぶ一方で、「技術者魂」や「ものづくり」の精神が見えにくいという懸念が指摘されています。

経営陣の半数以上が外国人であり、その経歴を見ても、製造業の経験者よりも経営専門家や、中にはFDA出身者が名を連ねるなど、規制対応に重点を置いているような印象を受けます。これは、根本的な製品品質の改善よりも、規制をいかにクリアするかという「カンニング」に近いアプローチを取っているのではないかという見方もできます。しかし、本当に製品に問題がある以上、それでは根本的な解決にはなりません。

古くから顕微鏡や内視鏡を開発し、その技術力を積み上げてきた日本企業であるオリンパスが、「ものづくり」という日本の強みを失いつつあるのではないかという危機感が募ります。

外部環境の逆風と競争の激化

製品品質問題に加えて、オリンパスは複数の外部環境の逆風にも晒されています。

  • 米中摩擦と関税問題:米国での関税問題により、輸入を控える動きが見られました。
  • 円高傾向:足元の円高は、輸出企業であるオリンパスにとってはマイナス要因です。
  • 中国市場の変質:中国では「国内企業優遇政策」が鮮明になり、中価格帯以下の製品では実質的にオリンパスが市場から排除されつつあります。中国企業の技術力向上と世界進出への懸念も浮上しています。

さらに、オリンパスの牙城であった内視鏡分野でも、競争が激化しています。

  • 富士フイルム:画像診断技術に強みを持ち、AIとの相性も良いことからシェアを伸ばしています。
  • カールストルツ:外科用内視鏡分野でオリンパスに次ぐ2位のシェアを持ち、拡大を続けています。

社員の生の声:停滞する開発力と危機感の欠如

現場で働く従業員の声も、現在のオリンパスの課題を浮き彫りにしています。

  • 意思決定の遅さ:経営陣や意思決定層の判断が遅く、良い技術や新製品のアイデアが潰されることが多い。
  • 新製品開発力の低下:画期的な新製品がリリースされず、既存製品のアップデートに留まっている。
  • 「消化器内視鏡シェア」への過信:競合他社の攻勢に対する危機感が薄く、このままでは5~10年スパンでシェアが失われる可能性が高いとの懸念。
  • 「ものづくり」の軽視:先端技術や高品質化といった製造業が追求すべき点が疎かになり、他の部分に注力しすぎている。
  • 上滑りする経営目標:「グローバル化」や「メドテックカンパニー」といった流行語のような標語が先行し、具体的な戦略や中身が伴っていない。
  • 経営層の製品への無関心:経営層が自社製品について質問されても答えられない状況が見られる。

これらの声からは、かつての日本の強みであった技術力や「ものづくり」の精神が失われ、競争力が低下している実態が窺えます。

長期投資の視点から見たオリンパス:現状は「買い」なのか?

現在のオリンパスの株価は、高値から4割も下落しているとはいえ、PERは22倍程度と、決して割安とは言えません。外部環境の厳しさはもちろんありますが、同時に企業自身の競争力喪失の可能性も否定できません。

ValueActは、株価がピークを迎えた頃に保有株式の一部を売却しており、ファンドとしては成功を収めたものの、オリンパスという企業に何を残したのかは改めて考える必要があるでしょう。

医療機器という人命に関わる製品を扱う企業として、最も大切なのは信頼性です。しかし、現在のオリンパスはFDAからの連続的な警告やリコール、そして従業員のコメントに見られるように、その信頼性が危機に瀕している状況です。

直近の業績も2023年3月期以降、下方修正が続いており、このような状況で積極的に投資するのは難しい判断と言わざるを得ません。真のグローバル化とは、単に欧米のやり方を導入することではなく、日本の優れた企業文化を継承しつつ、製品作りとバランスの取れた経営を目指すことではないでしょうか。

オリンパスが再び「ものづくり」の精神を取り戻し、揺るぎない競争力を確立できるかどうかが、今後の重要な焦点となるでしょう。

執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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