【シマノ】株価40%超下落!買っておくべき?

今回は、シマノについて詳細に取り上げたいと思います。シマノといえば、自転車部品や釣り具を取り扱う企業であり、特に自転車の足回り部品については、世界シェアの約8割を誇る、日本が誇る非常に強力な製造業の一社です。

しかし、そのシマノの株価が直近1年間でなんと40%以上も下落している状況です。さらに、7月末の直近決算では下方修正が発表され、その時点から見ても株価が30%弱下落してしまいました。

自転車や釣りはコロナ禍で発生したアウトドアスポーツの特需の反動減が続いている、という憶測がある一方で、今回の分析ではそれとは少し違った事実も見えてきました。

シマノの足元の状況と、今後の投資対象としての是非を詳しく見ていきます。

株価と業績の確認:コロナ特需と回復の試練

シマノの株価は、2024年8月頃には2万8,000円を超える水準でしたが、その後軟調に下落し続け、直近の決算で下方修正が発表されたタイミングでさらに大きく下がり、9月19日時点では1万5,955円まで下落しています。

出典:Google

コロナ特需と利益率の低下

シマノの業績は、長期的にはなだらかな右肩上がりでしたが、コロナ禍でできるアウトドアレジャーとして特需が発生し、2021年と2022年に売上・営業利益ともに急拡大しました。

特需が剥落したのが2023年です。足元では、売上はなんとか持ちこたえている状況ですが、それに対し利益は下がり続けている点が特に注目されます。

平常モードへの期待と下方修正

四半期ごとの推移を見ると、特需剥落の影響で対前年比は一時大きく落ち込みましたが、2024年の最終四半期頃には前年割れしなくなり、ようやくコロナ特需剥落の底を打ち、平常モードに戻ってきたかのように見えました。

しかし、直近の決算では、売上自体は対前年を上回ったにもかかわらず、営業利益は-3.7%となり、これを受けて下方修正をせざるを得ない状況になりました。

下方修正を引き起こした二つの主要因

平常モードへの移行が見え始めた中で、なぜ大幅な下方修正が必要になったのでしょうか。これには主に二つの大きな要因があります。

1.為替の悪影響:アジア通貨高

下方修正の理由の一つとして、為替の悪影響が挙げられます。決算短信では、「ドル安の進行に伴うアジア通貨高の影響」により、為替評価損の営業外費用が増加したと説明されています。

シマノは、シンガポール、マレーシア、インドネシア、中国などアジア諸国に大規模な製造工場を持ち、現地法人との取引を現地通貨で行っています。これらのアジア各国の通貨が、対ドルや対ユーロに対して通貨高の傾向が高まった結果、為替評価損として計上され、経常利益に影響を与えています。
実際に、前年時点で約130億円の為替差益があったのに対し、今年は逆に約216億円の為替差損が発生しており、この悪影響の大きさがわかります。

2.中国市場の景況感悪化と在庫調整

もう一つの要因は中国市場の悪化です。

シマノは、中国市場等での在庫調整が継続する見込みであり、生産調整局面において経費の上昇による利益率の低下が見込まれるとしています。この影響が営業利益に約240億円程度効いてくることとなり、これが大幅な下方修正につながりました。

シマノは釣り具も取り扱っていますが、釣り具の売上構成費は全体の約2割程度です。釣り具はコロナのピークよりは下がっているものの、大きな売上減少は発生しておらず健闘しているため、シマノの業績のポイントは、やはり自転車部品にあることが分かります。

 

中国市場の特異な動向と欧州のE-バイク好調

シマノの自転車部品の売上高を仕向け地別(部品を卸している自転車メーカーの所在地)に見ると、各地域の状況が明確になります。

出典:シマノ 決算短信補足説明資料

中国市場の急ブレーキ

中国の自転車メーカーは、製造した製品を基本的に中国国内で消費する傾向が強いため、グラフのピンク色で示される中国の売上は、中国市場の動向を大きく反映しています。

欧州や北米が2021年や2022年に特需を迎えたのに対し、中国ではロックダウンの影響などでブームが後ろ倒しになり、2023年から2024年にかけて市場が拡大していました。

しかし、この拡大の流れが続くだろうという当初の予想から一転、中国市場の業績見通しは905億円から580億円まで大きく減少しました。これは、特需の反動減に加え、景況感の悪化により、比較的にハイエンドな自転車の販売が鈍化したためと見られています。

欧州の上方修正とE-バイクの台頭

一方で、欧州市場は自転車市場が発達している地域ですが、こちらはむしろ上方修正されています。当初の予想1,657億円から1,840億円に見通しが増額されました。

この欧州の好調の背景には、E-バイクの存在があります。E-バイクとは、バッテリーを搭載し、駆動をサポートしたり、最適なギアチェンジを電動でアシストしたりするハイエンドな自転車です。

この状況から、中国以外の地域、特に欧州では、コロナ特需の反動減は一服し、平常運転に戻りつつあることがうかがえます。

構造的な利益圧迫要因:先行投資の必要性

シマノは下方修正後も売上規模は前年やコロナ前を上回っていますが、営業利益はコロナ前よりも下がっているという状況にあります。

コスト高と固定費の負担

この利益圧迫の背景には、人件費、原材料費、輸送費といったコスト全般の上昇があります。

さらに、コロナ禍でシマノが積極的に行った設備投資に伴う減価償却費の増加も、コストとして残っています。生産能力を増強したにもかかわらず、需要の低下(特に中国の景況悪化など)により工場の稼働率が下がると、稼働の有無にかかわらずかかる固定費(電気代、人件費など)が重くのしかかり、利益率が低下する状況が起きています。

E-バイク市場の牽引と設備投資の正当性

この積極的な設備投資は、特需に乗じた結果ではなく、E-バイクの普及という中長期的なトレンドに対応するために必要不可欠な先行投資です。

E-バイクは、クロスバイクやマウンテンバイクといったハイエンドモデルで人気が高まっています。金額ベースで見ると、E-バイクの販売はすでにノーマル自転車の販売を50%超えているというデータもあり、さらに市場規模は今後10年間で2倍に拡大すると予測されています。E-バイクが自転車市場の成長を牽引する流れにあると言えます。

E-バイクは重く、賢い制御が必要となるため、シマノの足回り部品(変速機、ブレーキなど)は、より頑丈で精密、かつ電子制御に対応する形への進化が求められます。

シマノは、この高性能な部品をリードタイム短く、正確に製造するために、設備投資を増強しています。コロナ前約200億円強だった年間設備投資額は、直近で約450億円程度まで増加しており、これに伴い減価償却費も年々上昇しています。これは、世界シェア8割の牙城を崩されないため、リーダー企業として必要な戦略的投資だと考えられます。

今後の展望と投資判断

短期的なリスク要因

短期的に見ると、シマノにはいくつかの逆風が続く可能性があります。

  1. 中国市場の景況感の減速:底が見えず、大幅な下方修正につながるほどのインパクトがあります。
  2. 設備投資増強後の稼働率低下:固定費の負担が重く、利益への圧迫が続きます。
  3. 北米景況感の不透明性:ハイエンドなE-バイク(高額製品)の主要市場である北米の景況感が悪化すれば、販売動向が鈍る可能性があります。

中長期的な成長トレンドとライバルの存在

中長期では、悲観的になる必要はありません。

世界的な自転車市場は、年率5%から7~8%程度で成長が予測されています。特に、アジアの経済発展に伴う電動自転車の普及や、先進国での健康志向の高まり、政府による環境に優しい交通手段(CO2を排出しない)としての推奨(特に欧州)など、長期的な追い風は吹き続けるでしょう。

シマノは、この成長トレンドの中、足回り部品で世界シェア8割の地位を維持できれば、その恩恵を享受できます

しかし、E-バイク市場では、モーターやソフトウェア制御に強い欧州企業ボッシュ(Bosch)が主要メーカーとなりつつあり、新たなライバルとして存在感を高めています。シマノは、E-バイクになっても「足回り一式をシマノで」というポジションを維持するために、今後も技術力と設備投資による競争を続けていく必要があります。

投資の可能性

現在、下方修正によりPERは46.6倍に高まっています。過去の傾向(30倍前後で落ち着いていた)から見ても、株価は下がったものの、現時点での割安感はまだないという印象です。多くの投資家は将来的な業績回復を見込んでいると推測されます。

投資対象として検討する場合、外部環境(中国の不透明感、為替の悪影響)のリスクが払拭されるタイミングや、E-バイクのようなハイエンド品が動きやすい欧州の成長がさらに加速するタイミングなどをじっくりと伺うスタンスが望ましいでしょう。

シマノは財務状況が健全であり、冷間鍛造技術など高い技術力を持つ日本が誇る企業です。長期的な視点で応援し、投資を検討する価値のある企業であると言えます。

執筆者

執筆者:元村 浩之

元村 浩之(もとむら ひろゆき)

つばめ投資顧問 アナリスト
県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。 大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。
2022年につばめ投資顧問に入社。 長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。

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