【鹿島建設】国土強靭化銘柄!国策に売りなし?

日本を代表するスーパーゼネコンの一角である鹿島建設の株価が、2023年の初頭から足元までで大体3倍ぐらいまで跳ね上がっているという、驚くべき状況が続いています。

出典:Google

建設セクターは近年、投資家からの注目度も非常に高まっており、今回は、鹿島建設がどのような事業を行い、なぜ株価が長期停滞を経て足元で3倍も跳ね上がる状況になったのか、そしてこれから買いを検討する人が持つべき投資判断基準について、深掘りして解説していきます。

鹿島建設の事業内容:建築・土木を統括する「街づくり」

鹿島建設はゼネコン、すなわち、ビルやマンション、橋といった大規模な建築・土木工事を、設計から施工管理まで一貫して請け負い、工事全体を統括する大手建設会社です。単に建造物を作るだけでなく、「街づくり」に関わること全体を担っている会社だと捉えることができます。

鹿島建設が取り扱う建造物は幅広く、建築部門土木部門に分かれています。建築部門では、事務所や庁舎関連が売上の約4割、工場や発電所関連が約3割を占めています。一方、土木部門の売上内訳を見ると、鉄道関係が23%、道路関係が21%といった構成になっています。

出典:鹿島建設

売上規模の面では、上場しているスーパーゼネコン4社の中で、鹿島建設が業界ナンバーワンを誇ります。また、営業利益率の推移を見ると、他社が直近で変動が激しいのに対し、鹿島建設は緩やかな減少傾向はあるものの、利益のばらつきが他のスーパーゼネコンと比べると低い傾向にあります。

競合他社に比べてバランスの取れた事業ポートフォリオ

鹿島建設の事業ポートフォリオはバランスが良いのが特徴です。

売上比率では、建築が約36%、海外関係が約38%、土木が約14%を占めており、これに加えて、建設以外の不動産設備管理業務などを行う国内関係会社や、不動産開発事業も存在します。

特に注目すべきは、建築事業の売上比率の低さです。競合他社である大林組が70%、大成建設が64%、清水建設が79%を建築事業が占めるのに対し、鹿島建設は36%に留まっています。建築事業は外部環境によって利益が左右されやすいという特徴がありますが、鹿島建設はこの比率が低いため、外部環境の影響を受けにくいという点が強みです。

さらに、鹿島建設は海外の売上比率もスーパーゼネコンの中で高く、約4割弱を占めており、国内だけでなく海外にも事業ポートフォリオを持っていることも大きな特徴と言えます。

鹿島建設の株価を押し上げた「二つの波」

鹿島建設の業績は、リーマンショック後の不景気から回復し、2016年3月期頃からは、不採算案件の一巡や東京オリンピック関連の案件などもあり、売上と利益が急激に伸びました。その後、コロナ禍で利益が低迷しましたが、2023年3月期からは再び売上と利益が上昇傾向に転じました。これに連動し、株価は2023年初頭から足元にかけて約3倍に上昇しており、この上昇は2段階の波が見られます。

第一の波:コストの価格転嫁の実現

株価上昇の第一の波は2023年初頭から始まりました。コロナ禍では、スーパーゼネコン各社は、先行き不透明な中で新規受注が難しくなったことに加え、資材価格や建材価格の高騰、人件費の高騰といったコスト増に直面し、構造的に利益が出にくい状況に陥っていました。

しかし、2023年頃になると、先行きがだいぶ見通せるようになり、新たに獲得する案件において、資材価格や建材価格の高騰分を織り込んで受注することが可能になりました。つまり、コスト増加分を適切に価格に転嫁できるようになったことで、業績の上方修正が期待できる機運が高まったのです。この時期、建設や土木分野で上方修正を発表する企業が多かったという背景もあります。

第二の波:国策銘柄としての本格的な評価

株価上昇の第二の波は、鹿島建設を含むスーパーゼネコンが、「国策銘柄の代表格」として本格的に投資家に見られ始めた側面に起因します。

日本は災害大国であり、災害対応や減災・防災の施策を一括して統括する行政機関として、2026年度中にも防災庁が設置される機運が高まっています。これは地震や豪雨への備え、全国の防災施策の一元管理の必要性から来ています。

さらに、高度経済成長期に作られた高速道路やダムといったインフラの老朽化が進んでいるため、災害に備えるための「国土強靭化」の取り組みが重要視されています。

この国土強靭化は、防災庁が取りまとめて指揮する政策の一つと見られており、次期5年間(2026年度から2030年度の5年間)でおよそ20兆円の予算がつく見通しとなっています。

出典:国土交通省

これは、直近5年間(2021年から2025年)の実績値約15兆円と比較して、30%強の予算の積み増しを意味し、この点が市場から高く評価されています。

ただし、この30%増は「防災・減災・国土強靭化」のための予算部分であり、公共事業関係費全体が同じように大きく伸びるわけではない点については、誤解しないよう認識しておくべきです。

土木事業の優位性:利益を担保する「品確法」の存在

公共工事、特に土木関係の案件増加は、スーパーゼネコンにとって非常に有利に働きます。なぜなら、土木事業は建築事業と比べて利益が出やすい構造になっているからです。

建築事業は、顧客が民間のケースがほとんどであり、顧客側はコストにシビアなため、契約後に資材価格や建材価格が高騰すると、ゼネコン側の収益に打撃を受けるという特徴があります。

一方、土木事業は、「品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)」という法律によって、発注者側がゼネコンの利益を確保できる体制が担保されています。この品確法(令和6年度にも改正が行われている)のおかげで、ゼネコンは無理な短納期に追われずに工事ができ、途中で材料費が高くなっても値段に転嫁できるため、安定して儲かりやすい事業が担保されているのです。

これは、建設・土木業界が、高齢化の進行や人手不足の慢性化といった問題に直面する中で、国がインフラを守るために、施工業者が適切な利益を確保できるよう体制作りを進めているためであり、ゼネコン側から見れば「売手市場」になりつつあると言えます。

実際にセグメント利益率を見ると、直近の2025年3月期の実績では、建築事業が4.9%であるのに対し、土木事業は8.8%と、高い利益率を確保していることが確認できます。

大手寡占化の恩恵

建設業界では、受注額ベースで大手寡占化(大手化)が進んでいます。建設工事全体の受注高において、上位40社の受注総額の約5割を、大手5社のゼネコンが占めている状況です。

国土強靭化計画の予算が上昇すると、主に土木事業が恩恵を受けますが、災害対応や耐震改修といった形で建築事業も恩恵を受けます。その中で、受注高の約5割を占める大手スーパーゼネコンが、この国策の恩恵を最も受けるという見通しが立てやすくなっているのです。長期安定的に業績が伸びていくイメージがしやすくなった側面が、投資家から評価されていると言えます。

投資判断基準:期待値の過剰織り込みと成長機会

国策銘柄として注目が集まる鹿島建設ですが、投資を検討する上ではリスク要因についても冷静に評価する必要があります。

主要なリスク要因

  1. 人材リソースの問題:建設・土木業界は慢性的な人手不足であり、国土強靭化計画などの案件が増加しても、人材リソースを割き、効率的に案件を回せるのかという現場側の問題が残ります。
  2. 鹿島建設の土木比率の低さ:国策の恩恵を最も受ける土木事業が、鹿島建設の売上に占める比率は約14%に過ぎません。市場が期待しているほど、業績が伸びない可能性も認識しておくべきです。
  3. 不動産開発リスク:鹿島建設の不動産開発事業は利益率が27%と高収益ですが、開発期間が長期にわたるため、その間に不動産の価値が暴落した場合、損失額が大きくなるリスクを念頭に置く必要があります。

現在、最も重要な投資判断基準は、国策銘柄として期待値が過剰に株価に織り込まれていないかどうかを、これらのリスクと照らし合わせながら冷静に見ることです。

今後の成長機会と高評価ポイント

リスクが存在する一方で、「国策に売りなし」という格言がある通り、鹿島建設が今後も注目されうる企業であることは間違いありません。

鹿島建設は、近年、建築事業においても、半導体関連や医薬関連の工場、データセンターなど、クリーン度や精密な温湿度管理が求められる高付加価値な建物への進出を積極的に進めており、市場の潮流にも乗っています。

また、海外事業の優位性も評価されています。海外では土地が広いため平屋建ての建物が多く、高層ビルよりも工数が低いため、回転率の高いビジネスを手掛けることが可能となっており、この点も高評価につながっています。

鹿島建設は、品確法に守られた土木事業の安定性と、国策である国土強靭化の恩恵を受け、長期的・安定的に業績が伸びていくというイメージが投資家から評価されています。しかし、これらの良い潮流とともに、人手不足や土木比率の低さといったリスクも冷静に見つめ、期待値が過剰になっていないかを判断することが、今後の投資において非常に重要となります

執筆者

執筆者:元村 浩之

元村 浩之(もとむら ひろゆき)

つばめ投資顧問 アナリスト
県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。 大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。
2022年につばめ投資顧問に入社。 長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。

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