AI時代を支えるTDK。今から買っておくべき?

今回注目するのは電子部品大手TDKです。足元で株価が急上昇しており、多くの注目を集めている企業だと思います。この株価の伸びは、単なる一過性の現象ではなく、何かしらの普遍性や長期潮流を連想させるものであり、改めてTDKの事業内容を詳しく調査する必要性を感じました。

詳細な調査の結果、TDKの主力事業に対する従来のイメージとのギャップや、今後、特に引き合いが強くなりそうな製品群が多数存在するという驚きがありました。

TDKがどのような事業を展開し、どのような製品が、どのような市場の変化によって需要を伸ばしていくのかを解説します。これにより、なぜ足元で評価が高まっているのか、そして長期投資の観点から見て魅力的なのかどうかを紐解きます。

TDKの株価推移と業績概況

TDKの株価は、コロナ禍では伸び悩んでいましたが、2023年の中頃から大きく上昇し、現在は再び上昇気流に転じています。

出典:Google

過去20年間の業績を見ると、リーマンショック時などには赤字に転落した時期もありますが、中長期的には売上・利益ともに右肩上がりで伸びてきています

出典:マネックス証券

直近では、2024年3月期に売上が頭打ちになり減少しましたが、2025年3月期、そして今期(2026年3月期)にかけては、売上も利益もさらに伸びていく局面に入っていると見られています。

特に注目すべきは、2024年10月末に発表された決算で上方修正が行われた点です。当初の見通し(概算)として売上規模は2兆2100億円程度でしたが、今回の決算を通して、売上高は2兆300億円に上方修正されました。これに伴い、営業利益の業績見通しは、当初の2250億円から2450億円へと引き上げられています。

ただし、この上方修正後も、株価は市場の調整局面などもあり、発表前と比べて若干下がっている状況です。これは、上方修正の内容がすでに株価に織り込まれていたと見るのが自然な動きであり、競合の村田製作所や太陽誘電も同様の動きを見せています。

TDKのコア技術:創業の核「フェライト」

TDKが多岐にわたる製品を手掛けている中で、そのコアとなっている技術がフェライトです。

TDKの事業ポートフォリオを見ると、自動部品(電子部品)、磁気応用製品、電池など様々ですが、電池を除いた多くの製品の根幹にはフェライト技術の応用があります。

フェライトとは?
フェライトは、鉄とその他の金属を混ぜて作られた材料で、磁気の力を持っています。この磁気を利用して、電気の制御、ノイズの防止、エネルギーの変換などを行う製品に活用されています。

TDKは1935年の創業当初から、このフェライトという材料が持つ製品展開の可能性に着目し、事業をスタートさせています。そこから、多様な製品が派生してできているのがTDKです。

世界シェアトップの主力製品:小型二次電池と応用製品

TDKの事業ポートフォリオの中で特に伸長が著しいのが、オレンジ色で示される電池の分野です。これは「エナジー応用製品」に分類されます。

出典:TDK 統合報告書

エナジー応用製品の代表的な製品が小型二次電池であり、TDKはこれで世界シェア50%から60%を占めるナンバーワンの地位にあります。

この小型二次電池の主要な用途は、まさに皆さんがお持ちの製品、スマートフォンのバッテリーです。スマートフォン市場の普及と共に、TDKはこの事業を大きく成長させてきました。現在、スマートフォンの台数自体は伸び悩んでいるものの、高性能化が進むことで、より薄く、軽く、大容量のバッテリーが求められ続けており、事業規模は大きく維持されています。

出典:TDK 個人投資家説明会資料

小型二次電池以外にも、TDKはハードディスクドライブ用のサスペンション、ノイズを防ぐ信号系EMCフィルター、車載用セラミックコンデンサー、温度センサーなど、様々な分野で世界シェア1位または2位の製品を保有しています。電池以外の多くの製品群は、フェライト技術を応用したものです。

AIデータセンター需要がTDKの成長を加速

直近の決算情報では、TDKの好調な要因が明確に示されています。

自動車市場の需要は低迷している一方で、スマートフォンの新モデル立ち上げやデータセンター向けドライブの需要が堅調に推移するなど、ICT市場の生産が前年同期を上回る結果となりました。

ざっくり言うと、自動車市場は低調であるものの、スマホやデータセンター向けなどが含まれるICT市場が好調であるということです。

このICT市場、特にAIデータセンターの需要増加は、TDKの多岐にわたる製品群に恩恵をもたらしています。

1. センサーシステム:サーバーの効率化と保護

TDKのセンサー事業は、前年同期比で大きく伸びており、その理由はICT市場および産業機器市場向けが好調であるためです。

TDKは、AIデータセンター向けにセンサーシステムソリューションを提供しています。その役割は、「サーバーを止めない、壊れない、効率よく動く」ようにすることです。

例えば、高熱を持つAIサーバーの温度管理のために、サーバー、冷却システム、電源部品などに温度センサーが必要とされます。また、データサーバーの電源ユニットで電流の流れを瞬時に検知し、効率化を図る超高速応答電流センサーも活用されています。

2. 磁気応用製品:HDDとデータ保存の鍵

磁気応用製品の分野、特にハードディスクドライブ(HDD)向けの製品も、AIデータセンター需要によって伸びています。

最新のデータセンターのデータ保管の約8割はHDDに保存されているとされています。その理由は、HDDが高い堅牢性、信頼性を備え、大容量のデータ保存が可能で、コストパフォーマンスに優れているためです。

AIデータセンターが建設されるほど、HDDの需要が高まっています。現在、AIデータセンター向けのHDDは供給が追いついておらず、購入に24ヶ月待ち(2年待ち)といった遅延が発生しているという記事も出ています。

TDKは、このHDDに使用される重要部品であるサスペンションや、記録を行うための磁気ヘッド、アームを制御するアクチュエーターなどを手掛けており、AIサーバーの需要増加の恩恵を間接的に受けている状況です。

TDKの未来:次世代技術への貢献

TDKは、現在のAIデータセンター需要に加え、将来の市場を創造する次世代技術にも注力しています。

中型二次電池の可能性

小型二次電池以外にも、中型二次電池が有望な分野として注目されています。小型二次電池よりも大きいこの製品は、産業用ロボットや無人搬送車といったファクトリーオートメーション(FA)関連機器、電動バイクなど、多様な用途での需要が高まっています。

さらに、AIデータセンターのバックアップ用バッテリーとしての活用も期待されています。データセンターは絶対に停止させてはならないため、停電時の緊急電源として大容量の中型二次電池が活躍する可能性があります。

Hai端末と予知保全システム

TDKは、AIエコシステム全体への貢献を考えており、中でもHai(Human-centric AI)端末に注力しています。

Hai端末は、工場などに組み込まれ、端末側でAI処理を行うことで価値提供を行います。例えば、工場の設備にセンサーを取り付け、温度や振動のデータを集積し、正常時と異常発生前の変化を比較することで、故障を事前に予測(予知保全)受動部品、センサー、二次電池の全てに需要増をもたらします。TDKはこの分野への注力として、ソフトウェア企業の買収なども行っているようです。

ARグラスと次世代ウェアラブル

さらに長期的な展望としては、スマートフォンに続く次世代のウェアラブル端末として注目されるARグラス(拡張現実グラス)への貢献です。

ARグラスは、現実世界にスマートフォンのような情報を重ねて映し出すデバイスであり、もしこれがスマートフォン並みに普及した場合、二次電池、センサー、受動部品の需要は当然爆発的に高まることが予想されます。

たとえARグラスの普及が遅れたとしても、ドローンなど様々な新しい電子デバイス機器の誕生は今後も続くと予想され、TDKはあらゆる形でその恩恵を受けることとなるでしょう。

まとめ:TDKのバリュエーションと投資の見方

TDKは、AIサーバー需要の盛り上がりによって、二次電池メーカーとして、また電子部品メーカーとして大きな恩恵を受けるフェーズに入っています。

しかし、株価のバリュエーション(割安性)という観点から見ると、直近の上方修正はすでに織り込まれており、決して割安とは言い難い状況にあります。当面は業績の伸びに沿って株価も連動していく程度で見ておくのが妥当でしょう。

ただし、AIの恩恵の大きさが、現在市場が想像しているよりも遥かに大きいことが将来的に明らかになれば、さらなるバリュエーションの引き上げも期待できます。

TDKの業績は、AI向けだけでなく、自動車、スマートフォン、産業機器、民生用機器といった様々な市場動向に左右される点には注意が必要です。過去の業績傾向を見ても、上がり下がりが激しい側面があります。

しかし、EV市場の下火などにより低迷していた自動車市場や、ようやく回復に向かうと見られるスマートフォン市場など、他の市場にも今後伸びる余地があり、TDKの製品群が時代のニーズと共に必要とされていくことは確かであると言えます。

執筆者

執筆者:元村 浩之

元村 浩之(もとむら ひろゆき)

つばめ投資顧問 アナリスト
県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。 大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。
2022年につばめ投資顧問に入社。 長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。

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