現在、株式市場ではAI関連銘柄ばかりが急騰し、「AIがバブルなのではないか」という議論が盛んに交わされています。その中で、AIブームの頂点に君臨するNVIDIA(エヌビディア)が先日決算を発表しました。
今回は、NVIDIAのジェンスン・ファンCEOの強気のコメントを分析し、現在のAI市場がどのような状況にあるのか、そして投資家がどのように考えるべきかについて、解説したいと思います。
目次
AI市場の牽引役:NVIDIAと関連銘柄の動向
現在、株式市場、特にAI分野ではAI関連銘柄への資金集中が進んでいます。日本国内では、ソフトバンクグループ、NVIDIAと関連の深いアドバンテスト、そして半導体分野の東京エレクトロンといった企業の株価が大きく上昇しています。
アメリカ市場においては、NVIDIAが相場を牽引しています。AIを稼働させるためには半導体が必要であり、半導体銘柄が盛り上がる中で、NVIDIAはその頂点に位置しています。NVIDIAは単に半導体を製造・供給するだけでなく、AI開発のためのプラットフォーム(CUDAなど)やシステムも提供しており、AI分野をトップで押さえている企業です。
ファンCEOは、今回決算で「産業革命の入り口」であるという捉え方ができる、と発言しています。もしこれが産業革命の入り口であれば、現在の株価上昇はまだ序の口に過ぎず、これからさらに大きく上がっていく可能性が見えます。
好業績の裏側:ITバブルとの大きな違い
NVIDIAの業績は非常に好調で、過去に例を見ないほどの好調な決算となっています。これは、今や世界最大の時価総額を持つ会社で起きている「とんでもないこと」です。売上高は前年同期比で約100%、つまり2倍近くに伸びており、利益も同様に伸びています。
このAIブームは、過去のインターネットバブル(ドットコムバブル)とは一線を画す側面があります。ドットコムバブル期には、利益どころか売上さえ立っていない企業に高い時価総額が付くというおかしな状況がありましたが、NVIDIAに関しては利益をしっかり出しています。周囲の半導体銘柄についても、大きな利益を出して伸び続けている点が、ITバブルとの大きな違いです。
ジェンスン・ファンCEOが示すAI経済の未来(3つの強気な根拠)
株式市場の一部では、AIブームの終焉や胡散臭さが指摘される一方、ファンCEOは引き続き強気な姿勢を見せています。その根拠として、以下の3点が挙げられます。
- 新型半導体「Blackwell」への異常な需要
NVIDIAが開発している新しい高性能半導体「ブラックウェル(Blackwell)」に対する需要は、「もはや異常(インクレディブル)なレベルにある」とCEOは述べています。ブラックウェルは非常に高価(数千万クラス)ですが、それでも買い求める人が後を絶たず、需要に追いつけていない状況です。この導入により、AI自体がものすごくスケールアップすると見られており、「まだまだAI革命は進行する」というCEOのメッセージが込められています。 - AIの進化:「ツール」から「労働力(レイバー)」へ
現在のAIは進化し、単なるチャットボットのように質問に答えるだけでなく、AI自らが色々と考えて答えを出すようになっています。
・推論需要の爆発:質問者の意図を推測し、複雑な回答を導き出す「推論」の需要が爆発的に増えています。
・使用量連動の収益モデル:従来のような定額使い放題モデルから、複雑なAIの利用が増えることで、使用量に応じた従量課金モデル(クレジット制など)が増加しており、AIによるマネタイズが可能になりつつあると示唆されています。
・AIは労働力: AIはもはや単なるツールではなく、人間のやっていることを置き換える「デジタル従業員」「労働力(レイバー)」であるとCEOは主張しており、その置き換えによって十分に採算が合うとしています。 - 次の波:物理AIとロボティクス(重工業への応用)
ファンCEOは、「物理AIとロボティクスが次なる波(Physical AI & Robotics are the next Wave of Heavy Industries)」となると指摘しています。AIが従来のプログラム通りに動くロボットではなく、微妙な形状の違いなどにも対応できるようになることで、生産現場などの重工業におけるAIの市場がさらに広がると見られています。
AI投資の持続可能性に関する疑問点とリスク
CEOは強気な見通しを示していますが、市場にはAIブームの持続性について深刻な疑問が存在します。
投資収益率(ROI)の疑問と短期償却リスク
現在、Microsoft、Google、Amazonといった各社がデータセンター建設に何兆円もの単位で巨額な投資を行っています。しかし、あるレポートによると、AI設備投資が約100兆円規模であるのに対し、そこから生まれる収益はまだ数兆円規模にとどまっています。
この投資の採算性が合わない最大の懸念は、データの陳腐化の速さです。
データセンターの償却期間は通常20年程度で計画されますが、AI技術の進歩が速すぎるため、今投資したばかりの設備も2〜3年後には、新しい高性能な半導体(例:Blackwell)で動くAIに比べて処理速度が遅くなり、すぐに使えなくなる(償却しなければならない)パターンが想像できます。もし100兆円投資して、3年で30兆円しか儲からない場合、大規模な赤字が発生します。
循環取引の疑念
NVIDIAと顧客の間で、資金が循環しているのではないかという疑念も指摘されています。NVIDIAがOpenAIなどの企業に出資し(何兆円単位)、そのOpenAIがデータセンター構築のためにオラクルなどに発注し、オラクルがNVIDIAから半導体を購入してデータセンターを作る、という流れです。
元をたどればNVIDIAの出資金が戻ってきているだけであり、同じところでお金がぐるぐる回っているだけという見方があります。この循環取引の推定分は、NVIDIAの売上高の最大15%に上るのではないかという指摘もあります。これは子会社間での不正会計ではありませんが、疑ってかかるべきグレーな側面だと考えられています。
物理的な限界と電力制約
AIの進化には物理的な限界も立ちはだかります。
- 電力インフラの制約:データセンターを作るにも、そもそも電力供給が足りず、稼働できないという問題が生じています。
- 冷却・排熱の問題:ブラックウェルなどの高性能半導体は、膨大な電力を消費し、ものすごい熱を発生させます。この冷却・排熱の問題も、AI進化の大きなネックになる可能性があります。
ファンCEOはこれに対し、AIは労働力であり、古いCPUサーバーを新しいAIサーバーに置き換えることで、電力消費を差し引きゼロに近づけられると反論しています。また、国家や重工業といった「ソブリンAI」をターゲットにすることで、外部から大きな資金を調達できると主張しています。
覇権争いの行方:Googleのダークホース化
NVIDIAが現在AI半導体のトップに君臨していますが、この地位が永続するかどうかは不明です。過去のインターネット黎明期において、シスコなどがインフラ企業として強かったものの、収益化に時間がかかり株価の回復に25年を要した事例があるように、誰が覇権を取り続けるかはわかりません。
Google (Alphabet) の優位性
NVIDIAのGPUに対抗する存在として、Googleが独自開発しているTPU(Tensor Processing Unit)が挙げられます。Googleは、TPUを裏側に持つことで、OpenAIの最新モデルを上回る性能を持つ「Gemini」のようなAIを開発しています。
Googleの強みは、そのマネタイズ構造にもあります。
- 自己資金調達力:YouTubeや検索で稼いだ豊富な資金を、AI開発に投入できる点。
- クラウド収益源:AIを利用する企業に対してデータセンター(クラウド)を貸し出しており、そこがすでに収益源となっている点。
- 顧客基盤:顧客に対する接点(検索、YouTubeなど)も押さえており、NVIDIAやOpenAIの強力な競合相手となっています。
もしAI投資が一時的にストップしたとしても、Googleは他の事業で利益を出せるため、投資をストップするだけで済む可能性があり、弱点が見えにくい存在です。
投資家としての考察:時間を味方につける戦い
NVIDIAのCEOは、市場の懸念を打ち消し、AIへの投資を継続させるために強気な発言を続ける必要があります。もしCEOが弱気な発言をすれば、AIバブルは一気にしぼむ可能性があるためです。
AI技術自体は超長期的に見れば間違いなく素晴らしいものですが、問題は「どこかの時点で利益が出せるのか」ということです。巨額の赤字が垂れ流され、資金の出し手(銀行や投資家)がいなくなった時に、一度ストップせざるを得ないタイミングが来るかもしれません。
投資家としては、特定のシナリオに賭けて大怪我をしないよう、様々な可能性を冷静に見つめ続ける姿勢が重要です。
プレゼント①『株式市場の敗者になる前に読む本』
プレゼント②『企業分析による長期投資マスター講座』第一章
メールアドレスを送信して、特典をお受取りください。
※個人情報の取り扱いは本>プライバシーポリシー(個人情報保護方針)に基づいて行われます。
※送信したメールアドレスに当社からのお知らせやお得な情報をお送りする場合があります。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。








コメントを残す