2026年スポーツイヤー到来!アシックス・ミズノ・ナイキはいつ上がる?

2026年は、冬のオリンピック、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、そしてサッカーワールドカップと、世界的なスポーツイベントが目白押しです。足元ではこれらのイベントへの期待からスポーツ関連銘柄が上昇を見せており、個人投資家の間でも「さらなる業績や株価の伸び」を期待する声が高まっています。

しかし、スポーツ用品業界には、「イベントが起きたからといってすぐに売上が跳ね上がるわけではない」という独特のメカニズムが存在します。今回は、元スポーツ小売店店長の現場感覚を持つ専門家の視点を交え、主要企業の現状と将来性を詳細に解説します。

スポーツ関連銘柄の基本分類と「業績反映」のラグ

スポーツ関連銘柄を理解するためには、まずその立ち位置を分類する必要があります。

業界は大きく分けて、アシックスやミズノのような「用品メーカー」、デサントやゴールドウインに代表される「アパレルメーカー」、それらを繋ぐ「卸(問屋)」、そして一般消費者が直接目にする「小売(ショップ)」という4つのカテゴリーで構成されています。

投資家が最も気になる「スポーツイヤー」の恩恵がいつ業績に現れるかという点について、結論から言えば、大きな大会が開かれてもその影響が直ちに数字として表れることは稀です。例えばWBCで日本が優勝した翌日に、いきなり野球人口が激増してバットやグローブが完売し続けるといった現象は起きにくいのが現実です。

このメカニズムを解く鍵は「競技人口の増減」にあります。日本の場合、競技人口が大きく変動するのは主に4月の新学期であり、中学生や高校生が「どの部活動に入るか」を決めるタイミングで最大の需要が発生します。
したがって、3月に開催されるWBCの影響はその年の4月の需要に反映される可能性がありますが、冬の大会などの影響は翌年4月以降までずれ込む傾向にあります。

短期的なテーマ投資として熱狂するのではなく、大会を通じて「競技者の裾野がどれだけ広がるか」を見極めることが、中長期的な投資判断において極めて重要となります。

【アシックス(7732)】シューズ特化戦略でV字回復した覇者

日本を代表するメーカーであるアシックスは、現在、非常に強力な成長フェーズに突入しています。同社の事業構造における最大の特徴は、全社売上の8割をシューズが占めている点にあります。競合のナイキがアパレルやエキップメントでも多額の利益を上げているのに対し、アシックスは徹底した「シューズ至上主義」の構成を貫いています。

出典:マネックス証券

このアシックスが成し遂げた驚異のV字回復には、明確な理由があります。

2020年頃にはコロナ禍の影響やブランド力の低下により赤字に転落し、店頭では在庫処分として50〜60%引きで叩き売りされるような苦しい時期がありました。当時、市場を席巻していたナイキの厚底シューズにシェアを奪われていた同社ですが、自社の技術力を武器に厚底のハイエンドモデルを開発し、反転攻勢に出ました。その結果、かつてナイキ一色だった箱根駅伝の足元は、現在ではアシックスやアディダスが大きく巻き返すまでに回復しています。

また、マクロ環境の変化も味方にしています。

インフレの恩恵もあり、4〜5年前には1万5,000円程度だったレーシングシューズが、現在では3万円から4万円という高価格帯でも飛ぶように売れており、定価が約3割上がったことで利益率が劇的に改善しました。この成長は日本国内に留まらず、欧州、米州、そして中国を含むアジア全域でブランド認知が高まっており、世界中のあらゆる地域で業績を伸ばしています。

さらに、カジュアル路線の「オニツカタイガー」が爆発的な人気を博していることも見逃せません。大阪や銀座といった一等地ではインバウンド観光客がショップに押し寄せ、まさに「爆買い」していく光景が日常化しています。

ただし、投資判断においては注意点もあります。現在の株価は大きく上昇しており、PERは約31と決して割安とは言えない水準にあります。
また、アンタなどの中国メーカーによる品質向上が将来的な脅威として囁かれていますが、現時点では欧米市場において中国ブランドがアシックスの地位を脅かすまでには至っていません。

【ミズノ(8022)】「ワークマン市場」に食い込む経営の妙

ミズノもアシックスと同様に、2021年3月期を底として業績が著しく回復しています。

出典:マネックス証券

同社について特筆すべきは、世間一般のイメージとは異なる意外な成長カテゴリーである「ワーク(作業用品)」の存在です。ミズノといえば野球用品のイメージが強いですが、実は野球・ソフトボールの売上比率はそれほど高くなく、今最も勢いがあるのは「作業用シューズ(プロテクティブスニーカー)」です。

同社はワークマンが切り開いた市場に対し、自社の高いブランドイメージを背景に1万円から2万円という高価格帯のプレミアムな作業靴を投入しました。ランニングシューズで培った「ミズノウェーブ」という独自の波形プレート技術を靴底に搭載し、過酷な現場で働く人々から「履き心地が良く安定している」という絶大な支持を得ることに成功したのです。電気設備工事や建築土木といった現場需要を巧みに捉えたこの戦略は、同社の新しい収益の柱となっています。

もちろん、本業である競技用カテゴリでも強みを発揮しています。
サッカーでは「モレリア」というスパイクが多くの日本代表選手に支持されており、シューズを起点としてウェアやアクセサリーへの波及効果が生まれています。
また、バレーボールでも『ハイキュー!!』などのIP(知的財産)の影響や製品の強さから業績が下支えされています。
WBCにおいても、野球用品への高い信頼性から大会後の野球熱の高まりによる恩恵を最もダイレクトに受けやすい立場にあります。

指標面では、PERは約15とアシックスに比べて割安な水準に据え置かれています。以前は国内中心の経営でしたが、現在は米州や欧州での伸び率が高まっており、海外売上比率が着実に向上していることも、今後のさらなる爆発力を期待させる要因となっています。

【ナイキ(NKE)】苦境に立つ「スポーツ界の絶対王者」

一方で、世界最大のナイキは現在苦しい局面を迎えています。

株価と業績の低迷

日本勢が好調な一方で、世界最大のナイキは現在非常に苦しい局面を迎えています。株価は2021年11月の高値から、足元では約1/3にあたる64ドル付近まで下落してしまいました。この低迷の背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。

出典:Google

まず、かつて独占状態だった厚底シューズ市場において、アシックスやアディダス、さらには「オン(On)」や「ホカ(HOKA)」といった新興勢力に激しくシェアを奪われ、競争が激化したことが挙げられます。
また、好調時に生産体制を強化しすぎた結果、大量の在庫が滞留し、それを処分するための値引き販売が利益を大きく圧迫しています。マクロ環境においても、海外で製造して米国へ輸入するモデルゆえに関税の影響を強く受け、さらに中国市場での消費マインド低下というダブルパンチに見舞われています。

ブランド戦略にも課題が見え始めています。かつての「エア・ジョーダン」のような、次世代を担うスーパースターを起用したブランド展開に勢いが欠けている点が、投資家にとっての懸念材料です。機能性で愚直に評価されるアシックスに対し、ナイキは「かっこよさ」という付加価値に大きく依存しているため、トレンドの波を読み間違えると負のスパイラルに陥りやすいという、王者ゆえの脆さが露呈しています。

注目すべき新興ブランド

主要メーカー以外にも、市場を揺るがす新しい勢力が登場しています。

スイス発のブランドであるオン・ホールディングス(ONONはニューヨーク証券取引所に上場しており、その高い機能性から競技者の間で急速に注目を集めています。最近ついに黒字化を達成し、PER54倍という高水準ながらも、次世代のリーダーとしての高い期待を一身に受けています。

一方で、かつて一世を風靡したアンダーアーマー(UAは苦戦を強いられています。斬新なコンプレッションシャツで市場を席巻したものの、その後の商品展開がうまくいかず、現在は赤字に転落するなど、ブランドの維持と拡大がいかに困難であるかを物語っています。

まとめ

スポーツ関連銘柄は、流行り廃りのサイクルが非常に激しい業界です。しかし、実際に店舗へ足を運んで売れ行きを確認したり、競技者の生の声を聴いたりすることで、数字に表れる前の変化を察知できるという、個人投資家の「現場感覚」を存分に活かせる分野でもあります。

今後の戦略としては、圧倒的な技術力とハイエンド戦略で世界を席巻しているアシックスの勢いを見守りつつ、ワーク用品やサッカーへの多角化で着実に利益を積み上げ、PER的にも妙味のあるミズノに注目するのが賢明かもしれません。

そして王者のナイキについては、現在は「端境期」であると捉え、次世代のスター選手の登場や新技術の開発、そして在庫問題の解消を経て、再び王座を盤石にする復活のタイミングをじっくりと待つフェーズと言えるでしょう。

執筆者

執筆者:元村 浩之

元村 浩之(もとむら ひろゆき)

つばめ投資顧問 アナリスト
県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。 大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。
2022年につばめ投資顧問に入社。 長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。

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