ヤマハ発動機の最終利益63%下方修正!株価はこれからどうなる?

今回は、ヤマハ発動機について解説します。

2026年2月2日、ヤマハ発動機は最終利益の極めて大幅な下方修正を発表しました。
これを受けて翌日の市場では株価が一時10%を超える大幅な暴落を見せています。
この暴落が一体何によって引き起こされたのか、そしてこれがヤマハ発動機という1社だけの問題で終わるのか、それとも皆様が保有している他の銘柄でも同じようなことが起きる可能性があるのかを深掘りします。

注意喚起の意味も込めて、お手元のポートフォリオをチェックするための視点も合わせてお伝えします。

ヤマハ発動機の事業構造:利益の源泉はどこにあるのか

ヤマハ発動機がどのようなビジネスで収益を上げているのか、改めて整理しておきましょう。

出典:ヤマハ発動機 決算説明資料

2025年12月期の連結業績を見ると、売上高の構成で最も大きいのは「ランドモビリティ事業」です。
これは皆様もお馴染みのバイク(二輪車)や電動アシスト自転車などが含まれます。

しかし、投資家として注目すべきは「マリン事業」です。

ここには船外機(マリンエンジン)やボート、ウォータービークルなどが含まれますが、売上の構成比以上に営業利益の構成比が非常に大きいという特徴があります。
つまり、ヤマハ発動機にとっての本当の「稼ぎ頭」はマリン事業にあると言っても過言ではありません。

その他にも、表面実装機などを扱うロボティクス事業や金融サービス事業を展開していますが、主力の二本柱はランドモビリティとマリンであることをまずは押さえてください。

営業利益は「上方修正」なのに、最終利益「63%下方修正」の怪

今回、市場に衝撃を与えた2月2日のニュースリリースを詳しく見てみましょう。

出典:ヤマハ発動機 2025年12月期通期連結業績予想および配当予想の修正ならびに個別業績見込みと前期実績との差異に関するお知らせ

内容は通期の連結業績予想および配当予想の修正に関するものでしたが、その数字の出方が極めて異例でした。

まず営業利益に関しては、従来出していた業績予想から5%引き上げるというポジティブな内容でした。

しかし、その一方で最終利益(親会社株主に帰属する当期純利益)の部分は、なんと従来の見通しから63%も一気に引き下げたのです。
営業利益が上がっているのに最終利益がこれほどまでに削られるという、非常にショッキングな内容でした。

あわせて配当についても下方修正が行われました。
前期は年間で1株あたり50円(上期25円、下期25円)を配当していましたが、今期は上期こそ25円を維持したものの、下期を10円に引き下げ、通期で35円としました。
50円から35円への大幅な「減配」です。
これら一連の発表が重なり、翌日の株価は10%という凄まじい暴落を記録するに至りました。

「繰延税金資産の取り崩し」とは何か

なぜ営業利益が増えているのに、最終利益が63%も減ってしまったのでしょうか。
その原因は「繰延税金資産の取り崩し」という会計上の処理にあります。

繰延税金資産とは、非常に簡単に言えば「将来使える税金の割引チケット」のようなものです。
これは会計上の利益と、税金を計算する際の「所得」のずれを調整するために存在します。
例えば、会計上では先に費用として計上しているけれど、税務上はまだ認められていない場合、一旦は税金を多めに支払っておきます。
しかし、将来的に十分な儲け(利益)が出るのであれば、その時に税金を安くしてもらえる権利として「資産」に計上できるのです。

ところが、将来の儲けが当初の予想ほど出そうにないという判断に傾くと、この「割引チケット」を使う機会がなくなってしまいます。そうなると、資産として計上していたものを消さなくてはいけません。これが取り崩しです。
資産が消えるということは、その分が損失のように働き、最終的な利益を大きく押し下げる要因となります。

米国における「追加関税」と「コスト増」のダブルパンチ

繰延税金資産の取り崩しが意味する最も重い事実は、会社側が「将来の業績見通しが悪くなっている」と公に認めたことにあります。

ヤマハ発動機の説明によると、同社単体および米国の主要子会社であるヤマハ・モーター・コーポレーションUSAにおいて、将来の回収可能性を慎重に見積もった結果、今回の処理に至ったとしています。

その背景にあるのが、米国における「追加関税によるコストの増加」です。

ヤマハ発動機にとって北米市場は最大の稼ぎ頭であり、非常に重要な地域です。
そこにおいて、昨今の関税を巡る動きがダイレクトに悪影響を及ぼし始めています。

足元の状況を精査すると、主力であるモーターサイクル(二輪)事業では、北米の販売台数が前年比で92%にまで落ち込んでいます。

関税の影響そのものは全体の利益下落要因の中で極めて大きいとまでは言えませんが、それ以上に販売の鈍化や、原材料費・物流費といった諸々のコスト上昇分を価格転嫁でカバーできていないという苦しい台所事情が見て取れます。

マリン事業の変調は富裕層の「道楽」が冷え込んだから

さらに深刻なのが、利益率の高いマリン事業です。

この事業の主力である船外機の販売台数自体は、実は前年比107%と増えています。
しかし、売上収益の数字を見ると、対前年で92%にまで下がっているのです。
台数は出ているのに、売上が減っている、これは「売れているものの単価が下がっている(ミックスが悪化している)」ことを意味します。

マリン事業、特にレジャー用の船外機にはピンからキリまであります。

これまでは、富裕層が釣りに行く際に、ハイスピードでスポットまで到達するために必要な「超大型・ハイパワー」なエンジンが飛ぶように売れていました。
これらは非常に高額で、利益率も極めて高い製品です。しかし、現在の米国では高金利やインフレの影響により、こうした大型モデルへの需要の強さが顕在化していません。
つまり、富裕層の「遊び」に対する消費が、明らかに一服してしまっているのです。

ヤマハ発動機側は「中長期的な需要拡大の流れに変化はない」と説明していますが、繰延税金資産を今回取り崩したという事実は、将来の業績見通しをより保守的に見ざるを得ないという決意の表れでもあります。

今回の下方修正は決して一時的な会計上の処理ではなく、米国の実体経済の悪化を反映した根深いものと捉えるべきでしょう。

同じように厳しい企業はある?

ここで考えるべきは「ヤマハ発動機が大変だったね」で終わらせてはいけないということです。
皆様自身のポートフォリオの中に、同様のリスクを抱えた企業がないかをチェックする必要があります。

特に警戒すべきは、北米向けの輸出比率が高く、なおかつ関税や物流、為替などのコスト上昇分を十分に価格転嫁できていない「耐久消費財メーカー」です。

例えば、他の二輪・四輪メーカーはどうでしょうか。

たとえ北米に工場を持っていたとしても、主要な部品を北米外から輸入しているのであれば、そこに関税コストが重くのしかかります。
そのコスト増を上回るだけの値上げができるか、あるいは需要がそれを許容するかが焦点となります。

昨今の北米市場を見ると、企業の業績自体はまだ良好に見えるかもしれませんが、一般消費者の家計はインフレと高金利で確実に圧迫されています。
そうなると「レジャー系の製品は今買わなくてもいいよね」「将来が不安だから少し我慢しようか」という心理が働きます。
こうした消費マインドの減退が、ヤマハ発動機のマリン事業で見られたような形で、他の企業にも波及する可能性は十分に考えられます,。

芝刈り機や建機も例外ではない

想像力を働かせてみれば、影響を受けるのはバイクやボートだけではありません。

例えば、北米では住宅の敷地が広いため、一家に一台持っているような「芝刈り機」や、個人が使うような「小型建設機械」なども対象になり得るでしょう。
これらも耐久消費財であり、生活に密着してはいますが、買い替えを先延ばしにしようと思えばできる製品です。

金利が高い局面が続けば、ローンを組んでまで購入しようとする意欲はさらに削がれます。
消費意欲が低下している中で、企業はなかなか強気の値上げに踏み切ることができません。
コストは上がっているのに、値上げができず、需要も細っていく。
このような「板挟み」の状況に苦しんでいる企業が他にないか、ぜひ皆様の手持ちの銘柄の決算資料や市場動向を、今一度チェックしてみてください。

長期投資家としてこの暴落から何を学ぶべきか

今回のヤマハ発動機の事例は、単なる一社の業績不振ではなく、グローバルに展開する日本の製造業が直面している「米国の景気後退リスク」と「コスト高」の象徴的な出来事と言えます。
最終利益の63%下方修正という数字はあまりに強烈ですが、その裏にある「将来の利益への自信の低下」という本質的なメッセージを読み取らなくてはなりません。

長期投資家としては、目の前の株価の乱高下に一喜一憂するのではなく、企業の稼ぐ力が構造的にどう変化しているのかを見極めることが大切です。
北米市場に依存しすぎていないか、コストを価格に転嫁できるだけのブランド力や製品力があるか、といった視点で投資先を再点検する良いきっかけにしてください。

執筆者

執筆者:元村 浩之

元村 浩之(もとむら ひろゆき)

つばめ投資顧問 アナリスト
県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。 大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。
2022年につばめ投資顧問に入社。 長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。

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