SBIホールディングスの株価が直近で軟調な動きを見せており、SNSや投資家の間で大きな話題となっています。
多くの投資家にとって、SBIといえば「SBI証券」というイメージが強いかもしれませんが、現在の同社は単なる証券会社の枠を大きく超え、銀行や保険、さらには暗号資産までをも手掛ける「金融総合グループ」へと変貌を遂げています。
最近では地方銀行を買収し、「第4のメガバンク構想」を掲げるなど、非常に動きの激しい会社として知られています。
しかし、その積極的な動きとは裏腹に、株価は冴えない展開が続いています。
なぜ最高益を記録しながら株価が下がっているのか、そして同社に長期的な投資価値があるのかを、多角的な視点から解説していきます。
目次
83%増益の裏にある実態
足元の株価推移を振り返ると、この半年ほどでズルズルと値を下げています。
ピーク時には3866円あった株価が、直近では2631円付近まで、率にして約30%も下落している状況です。
1年というスパンで見れば、一旦大きく上げた後の調整局面とも言えますが、注目すべきは指標面の割安感です。
現在のPBR(株価純資産倍率)は0.97倍と1倍を割り込んでおり、会計上の純資産を下回る評価となっています。
一方で、直近の決算に目を向けると、経常利益が前期比83%増という大幅な増益を記録しています。
ROE(自己資本利益率)も12.8%から28.0%へと跳ね上がっており、数字だけを見れば「超優良銘柄」に見えますが、投資家はこの数字の「中身」を冷静に見極める必要があります。
利益の柱はどこにあるのか
SBIホールディングスの事業は、大きく5つのセグメントに分けられています。
すなわち、金融サービス事業、資産運用事業、PE投資事業、暗号資産事業、そして次世代事業です。
事業の実態を把握するためには、税引き前利益で内訳を見ることが重要ですが、その大部分を稼ぎ出しているのは「金融サービス事業」です。
金融サービス事業の中身は、証券(SBI証券)、保険(自動車保険等)、そして銀行(SBI新生銀行等)で構成されています。
意外に思われるかもしれませんが、現在、グループ内で最も利益を上げているのは証券ではなく「銀行事業」です。
かつては証券が主役でしたが、現在は銀行を中心とする金融グループへと収益構造が劇的に転換しているのです。
手数料ゼロ革命の代償と勝算
SBI証券が数年前に行った「個別株の売買手数料0円化」は、投資家にとって夢のような出来事でした。
しかし、会社側からすれば、これまで収益の柱であった委託手数料がほぼ無くなることを意味します。
実際に収益の内訳を見ると、委託手数料はもはや微々たるものになっています。
それでも証券事業が増益を維持できているのは、「金融収益」という新たな柱が育っているからです。
これは具体的には、投資信託の報酬やトレーディング損益もありますが、最も大きいのは「信用取引の金利」です。
売買手数料を無料にして顧客を呼び込み、信用取引を利用してもらうことで金利収入を得るという、フリーミアムに近い戦略が功を奏しているのです。
銀行事業の躍進と「第4のメガバンク構想」の進捗
現在、利益の最大勢力となった銀行事業は、前年同期比で利益が134%増、つまり2.3倍以上に膨れ上がっています。
しかし、この急増をそのまま「実力」と受け止めるのは危険です。
SBIはSBI新生銀行を連結化したことで、純粋な銀行業務以外にも多くの収益源を確保しました。
新生銀行は、純粋な銀行というよりも、「レイク」ブランドに代表される消費者金融などのノンバンク事業で稼いでいる側面が大きいからです。
消費者金融は高収益ビジネスであり、安定性も比較的高いことから、SBIの安定収益基盤として機能しています。
また、保険事業(SBI損保等)も契約件数を着実に伸ばしており、法人向けのオンライン自動車保険など、独自の利便性でシェアを拡大しています。
今期決算に含まれる2000億円の一時的要因
今期の爆発的な増益(税引き前利益5100億円)には、約2000億円もの一時的な利益が含まれていることを忘れてはなりません。
一つ目は、住信SBIネット銀行の株式売却に伴う利益です。
SBIは住信SBIネット銀行の上場後、その株式をNTTドコモへ売却しました。
この売却益が1416億円という巨額な数字で今期の決算に乗っています。
SBI新生銀行と役割が重複することから、より自由度の高い新生銀行を主軸に据えるための戦略的撤退と言えるでしょう。
二つ目は、教保生命を連結に加えたことによる「負ののれん」発生益、674億円です。
これは会計上の利益であり、現金の流入を伴う実質的な成長とは異なります。
これら合計約2000億円を除けば、増益率は10%程度にとどまります。
決算説明会で北尾社長がROE28%を誇らしげに語り、JPモルガンやゴールドマン・サックスと比較して自慢していましたが、一時的な要因を並べて比較するのは、投資家から見れば少し「ずるい」と感じる部分かもしれません。
割安放置か、それとも妥当な評価か
現在の株価下落は、昨年の段階で好決算が期待され、期待値が上がりすぎていたことへの反動と考えられます。
また、今期予想を非開示としていることも、先行きの不透明感を招いています。
しかし、実力値ベースでの割安感は依然として高いと言えます。
一時的な利益を除いた実力値のEPS(1株当たり利益)を約300円と推計すると、現在の株価に対するPER(株価収益率)は約9倍となります。
PBR0.97倍、PER9倍という数字は、日本市場全体と比較しても十分に割安な水準に放置されていると言ってよいでしょう。
AI・ブロックチェーン・ネオメディアの三位一体
北尾社長が掲げる「戦略価値」の拡大に向けた目標は、非常に野心的です。
具体的には3つの戦略目標を掲げています。
- AIドリブン文化の断行:モルガン・チェースなどの事例を挙げ、グループ全体でAIを徹底活用する体制を構築する。
- 次世代金融サービスへの組織改革:ブロックチェーンやオンチェーン技術を駆使し、世界に先駆けたサービスを提供する。
- デジタル・ネオメディア生態系の構築:既存の金融生態系にデジタル・メディアを融合させ、顧客基盤を飛躍的に拡大させる。
特に暗号資産分野では、リップル社に約9%出資しており、同社が保有する膨大な暗号資産を考慮すると、間接的に約7000億円分の価値を有しているという見方もあります。
ただし、これらは株式市場からは不透明なリスクとして敬遠される要因にもなっています。
コングロマリット・ディスカウントの罠
同社の最大のリスクは、その事業構造の複雑さにあります。
連結子会社数はこの1年で50社近く増え、今や600社を超えています。
トップダウンでの迅速な意思決定ができる反面、これほどまでに広がりすぎた事業を、誰がどのようにまとめていくのかという疑問が拭えません。
経営の一般論として、事業が広がりすぎると投資効率が悪化し、業績を安定して伸ばすことが難しくなる「コングロマリット・ディスカウント」が働きます。
買収は常に成功するわけではなく、負の歪みが溜まっている可能性も否定できません。
北尾社長がスーパーマンであることは疑いようがありませんが、全ての事業を適切に育てていく能力や時間が果たしてあるのか、投資家は慎重に見極める必要があります。
まとめ:SBIホールディングスは「買い」なのか
SBIホールディングスは、指標面では「割安」な銘柄です。
証券や銀行といった安定収益基盤を持ちつつ、AIや次世代技術に果敢に投資する姿勢は、他のメガバンクにはない魅力です。
しかし、ウォーレン・バフェットが説く「能力の輪」という観点からすれば、あまりに多岐にわたるビジネスモデルを理解することは簡単ではありません。
自分が理解できないものには手を出さない、という原則に従うならば、今のSBIは「避けるべき複雑な対象」に見えるかもしれません。
結論として、北尾社長のビジョンに共鳴し、この巨大で複雑なコングロマリットの将来に賭けられる投資家にとっては、現在の株価は面白いエントリーポイントになるでしょう。
しかし、本質的な収益力や経営効率を重視する堅実な投資家にとっては、この「散らかりすぎた構造」という懸命も忘れてはいけません。
YouTubeでも詳しく解説しておりますのでそちらもぜひご覧ください。
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