野村不動産ホールディングスの株価が下落し、PERは約9倍、配当利回りは4%台後半という水準にあります。
割安株や高配当株を探している投資家にとって、目を引く数字でしょう。
一方で、主力の分譲マンション事業では販売戸数が減り、完成在庫も増えています。
マンション価格が歴史的な高値にあるなかで、「価格が上がりすぎて買い手がついてこられなくなったのではないか」という懸念も無視できません。
現在の株価は本当に割安なのか。
高い配当は維持できるのか。
そして、長期投資の対象としてどのように評価すべきなのか。
野村不動産の足元の業績から、中長期の成長性と投資リスクまで詳しく見ていきます。
野村不動産を代表する「プラウド」
野村不動産と聞いて、分譲マンションブランドの「プラウド」を思い浮かべる人は多いでしょう。
特に東京都内では知名度が高く、都心のマンション市場で存在感を持つブランドです。
その都心マンションの価格は、ここ数年で大きく上昇しました。
一部の高額物件が平均値を押し上げている面はあるものの、全体として価格水準が切り上がっていることは確かです。
野村不動産の東京23区における平均販売価格も、前年同期の約1億5,821万円から約1億8,985万円へ上昇し、2億円に迫る水準となっています。
高価格で販売できれば、一見するとデベロッパーには追い風です。
しかし重要なのは、価格だけでなく、その値段で計画どおりの戸数を売り切れるかどうかです。
ここに、現在の野村不動産を評価するうえで最大の論点があります。
株価下落の背景にある大幅な減益
直近の株価は、2月27日の1,166円前後から932円前後まで下落し、およそ2割値下がりしました。
株価下落によって配当利回りは4.7%台まで上昇しています。
下落の大きなきっかけとなったのが、第1四半期決算です。
売上高は1,910億円で前年同期比303億円の減収、営業利益は255億円で同112億円の減益となり、営業利益は約30%減少しました。
減収減益には、都市開発部門における収益不動産の売却減少も影響しています。
前年同期に大きな物件売却があった反動という側面があるため、この部分だけで事業の悪化を判断する必要はありません。
むしろ注目すべきなのは、住宅部門における分譲住宅の計上戸数が減ったことです。
前年同期に861戸だった計上戸数は699戸となり、162戸減少しました。
価格上昇が続く一方で、実際に売上へ計上される戸数は減っているのです。
契約進捗率の低下と完成在庫の増加
会社は通期業績予想を据え置き、過去最高益を見込んでいます。
しかし、住宅事業の販売状況を見ると、計画達成を楽観できる状態とは言い切れません。
分譲住宅の契約進捗率は、2024年3月期の同時点で85.5%、2025年3月期は83.5%、2026年3月期は79.4%でした。
直近の2027年3月期は71.8%まで低下しています。
毎年少しずつ進捗が鈍り、今回は低下幅も大きくなりました。
加えて、完成在庫も増えています。
これまでおおむね200戸前後で推移していたところ、直近では販売中が418戸、未販売が427戸となりました。
販売が計画より遅れ、完成した住戸が手元に残り始めていることが数字に表れています。
不動産会社にとって在庫の増加は軽視できません。
分譲マンションは、販売代金を次の開発資金や借入金の返済に回すことで事業を循環させます。
本来なら現金化されているはずの物件が在庫として残れば、資金回収が遅れます。
大手企業であるため、直ちに資金繰りが行き詰まる可能性は低いと考えられますが、在庫が積み上がれば、いずれ販売を促進する必要が出てきます。
高い価格を維持したまま売れなければ、値下げをしてでも在庫を処分する圧力が強まります。
その場合、利益率の低下だけでなく、棚卸資産の評価損が発生して利益が急減する可能性もあります。
市場が警戒しているのは、単なる四半期ごとの販売戸数の振れではなく、この在庫が将来の収益悪化につながるリスクです。
マンション価格が高騰した3つの理由
マンション価格の上昇は、野村不動産だけに起きている現象ではありません。
首都圏の新築マンションは、平均価格が「億ション」と呼ばれる水準へ近づいています。
価格上昇の背景には、主に三つの要因があります。
- 資材高と人手不足による建築費の上昇
一つ目は、インフレによる資材価格の上昇と、建設現場の人手不足です。
マンション建設には多くの人材と資材が必要ですが、建設需要が強い一方で、現場を担う人材は不足しています。
データセンターなど大型開発との人材・資材の奪い合いも、建築費を押し上げています。
原価が高くなった物件を従来と同じ価格で販売すれば、デベロッパーの利益は圧迫されます。
そのため販売価格を引き上げざるを得ず、建築費の上昇がそのままマンション価格へ転嫁されやすい状況です。 - 国内外の富裕層による投資需要
二つ目は、投資目的の需要です。
都心の一等地にあるマンションは希少性が高く、過去に値崩れしにくかった物件も少なくありません。
将来の値上がりを期待し、外国人投資家が購入しているとの見方は広く知られています。
ただし、買い手は外国人に限りません。国内の投資家や富裕層も購入しており、実需だけでなく資産保全や値上がり益を目的とした資金が価格を押し上げています。
その結果、一般の会社員世帯には手が届きにくい水準になっています。 - 新築マンション供給の構造的な減少
三つ目、そして長期的に最も重要なのが供給戸数の減少です。
首都圏の新築マンション供給は、2000年頃には約9万5,000戸ありましたが、直近では約2万1,000戸まで減少しています。
都心の利便性が高い土地には限りがあります。
低層の建物を高層化する再開発や湾岸部のタワーマンション開発によって供給戸数を増やしてきましたが、適地そのものが減ってきました。
新たな供給が難しい場所ほど既存物件の希少価値は高まり、それでも欲しい人がいる限り、価格は上がりやすくなります。
したがって、都心マンションの高価格化は投機だけで説明できるものではありません。
建築費の上昇と供給制約という構造的な要因があるため、長期的に見れば「都心の良いマンションは高い」という状態が続く可能性があります。
短中期では金利上昇と景気後退に注意
構造的な供給不足があるからといって、マンション価格が一直線に上がり続けるとは限りません。
短中期では、需要を冷やす二つのリスクがあります。
一つは金利上昇です。
実需で購入する人も投資目的の人も、多くはローンを利用します。
金利が上がれば毎月の返済額や投資採算が悪化し、「この価格では買えない」と判断する人が増えます。
もう一つは景気後退です。
現在は高所得の会社員、共働きのいわゆるパワーカップル、経営者などが高額物件の需要を支えています。
しかし景気が悪化し、給与や賞与が減れば、購入余力は低下します。
金利上昇や景気後退で需要が弱まったとき、すでに積み上がっている在庫が重荷になります。
野村不動産が価格を維持したまま販売を進められるのか、それとも値下げを迫られるのか。
今後の決算では、契約進捗率、完成在庫、販売価格、利益率をセットで確認する必要があります。
住宅事業だけでは成長に限界がある
長期投資では、足元の在庫に加えて、会社全体の利益を伸ばし続けられるかを考えなければなりません。
野村不動産の事業利益のうち、住宅部門は約38%を占める主力事業です。
しかし、都心で新たなマンション用地を確保しにくくなり、供給戸数の大幅な増加も見込みにくいなか、住宅事業を高成長分野と捉えるのは難しくなっています。
販売価格が上がっても、戸数を増やせなければ成長には限界があります。
また、市況の変動を受けやすい分譲事業への依存度が高いままでは、利益の安定性にも課題が残ります。
会社もこの点を認識しており、今後の成長領域として、賃貸住宅、ホテル、シニア住宅、物流施設、海外事業などを掲げています。
外部資金を活用した開発や賃貸事業、野村グループとの連携、戦略投資・M&Aも成長策に含まれます。
注目すべきは、従来型の分譲マンション事業が成長領域の中心には置かれていないことです。
長期的には、住宅以外の事業をどれだけ大きく育てられるかが企業価値を左右します。
もっとも、現時点では住宅事業の利益規模が大きく、新しい成長分野が会社全体を牽引するまでには時間がかかりそうです。
海外事業の利益を大幅に伸ばす計画があっても、増加額は住宅部門の計画に比べればまだ小さいため、当面は住宅事業の販売動向から目を離せません。
配当利回り約5%は維持できるのか
成長性に物足りなさが残る一方、野村不動産株の大きな魅力は配当です。
現在の株価水準では、配当利回りは5%近くに達しています。
株価が短期的に上がらなくても、配当が維持されれば一定のリターンを得られるため、高配当株を好む投資家にとって検討価値があります。
同社は株主還元方針として、総還元性向40~50%と、配当下限DOE4%を掲げています。
DOEとは「Dividend on Equity」の略で、日本語では自己資本配当率と呼ばれます。
年間配当額を期中平均自己資本で割って算出し、会社が積み上げてきた自己資本に対して、どの程度を配当として還元するかを見る指標です。
当期利益を基準とする配当性向は、利益の増減によって毎年大きく変わります。
一方、自己資本は赤字などがなければ比較的安定して積み上がるため、DOEを配当の下限に設定すると、配当額も安定しやすくなります。
同社は15期連続増配を予想しており、現在の方針が維持される限り、大幅な赤字に陥らなければ配当が急減する可能性は高くないと考えられます。
ただし、在庫が売れず、大幅な値下げや評価損によって多額の赤字を計上する局面では、DOE方針があっても減配リスクはゼロではありません。
高い利回りだけを見て安心するのではなく、その配当を支える利益と財務の状況を継続的に確認する必要があります。
NAVで見ても割安感がある
不動産会社の評価では、PERやPBRに加えてNAVも重要です。
NAVは「Net Asset Value」の略で、保有不動産などを時価で評価した純資産価値を示します。
一般的なBPS(1株当たり純資産)は帳簿上の金額を基準とするため、長期間保有してきた賃貸不動産の含み益が十分に反映されないことがあります。
そこで、保有不動産を時価評価して実質的な資産価値を捉えるのがNAVです。
野村不動産のNAVは総額で約8,372億円、1株当たりでは約1,193円とされます。
これに対して株価は930円前後であり、株価は1株当たりNAVを下回っています。
1,193円の価値があると見積もられる資産を、900円台で買える計算です。
NAV倍率は0.8倍前後となり、資産価値の面では割安感があります。
帳簿上の純資産を基準にしたPBRも約0.99倍と1倍を下回っています。
分譲マンションの利益は引き渡し戸数によって年度ごとに振れやすい一方、賃貸不動産から得られる収益は比較的安定しています。
このため、不動産会社を評価する際には、単年度のPERだけでなく、PBRやNAVを併せて見ることが有効です。
野村不動産株が向いている投資家
野村不動産は、短期間で利益が何倍にもなるような高成長株とは性格が異なります。
住宅事業の成長余地は限定的で、住宅以外の事業が全社の成長を牽引するまでにも時間がかかります。
資産価値に対する割安さが解消され、NAV倍率が1倍へ近づく局面では、1~2割程度の株価上昇余地が意識されるかもしれません。
しかし、大きなキャピタルゲインを求める投資家には、現在の成長率では物足りない可能性があります。
一方、都心の好立地を押さえ、「プラウド」というブランド力を持ち、賃貸不動産からも安定収益を得ている点は長期的な強みです。
配当を受け取りながら、割安修正を待つ投資スタイルとは相性がよい銘柄です。
より大きな値上がり益を狙うのであれば、マンション市況の悪化で一時的に赤字へ転落し、企業の長期的な価値以上に株価が売り込まれた局面を待つという考え方もあります。
ただし、その局面が必ず訪れるとは限らず、訪れたとしても在庫処分や財務悪化の程度を慎重に見極める必要があります。
今後の決算で確認したい5つのポイント
野村不動産への投資を検討するなら、次の数字を継続的に追う必要があります。
- 分譲住宅の契約進捗率が持ち直しているか
- 販売中・未販売の完成在庫が減少しているか
- 値下げ販売によって住宅部門の利益率が低下していないか
- 賃貸住宅、ホテル、物流施設、海外事業などが住宅以外の利益を押し上げているか
- DOE4%を軸とする配当方針と財務余力が維持されているか
結論:高配当と割安感は魅力だが、目先は在庫の消化が焦点
野村不動産は、PER約9倍、PBR約1倍、配当利回り4%台後半という数字だけを見れば、割安感の強い高配当株です。
NAVを基準にしても株価は資産価値を下回っており、DOE4%という配当下限の存在も、長期保有を考えるうえで安心材料になります。
一方、足元ではマンションの契約進捗率が低下し、完成在庫が増えています。
マンション価格の上昇には建築費や供給不足という構造的な理由があるものの、金利上昇や景気後退で需要が弱まれば、値下げや評価損が利益を圧迫する可能性があります。
長期的には、都心の好立地とブランド力を生かした住宅事業が安定収益を生むと考えられますが、大きな成長を実現するには、賃貸住宅、ホテル、物流施設、海外事業などを育てる必要があります。
野村不動産株は、成長株として大幅な株価上昇を期待するよりも、配当を受け取りながら資産価値に対する割安さの解消を待つ銘柄と見るのが自然です。
高い配当利回りは魅力的ですが、今後の投資判断では、在庫が計画どおりに消化されるかを最優先で確認したいところです。
YouTubeでも詳しく解説しておりますのでそちらもぜひご覧ください。
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