三井物産 vs 伊藤忠商事 投資するならどっち?同じ総合商社でもこんなに違う事業構成

あなたは総合商社と聞いてどんなイメージを持ちますか?

高給取り、グローバルビジネス、就職人気、このようなイメージを持たれると思います。

しかし、具体的に何をやっているか、と問われると「なんでもやっている、よくわからない」と感じることが多いと思います。

今回は代表的な総合商社である、三井物産伊藤忠商事を比較し、それぞれどのような特徴があるのかを解説します。両社は現状の強み今後の戦略でまさに対極の存在です。

お読みいただくと投資のヒントになるはずです。ぜひ最後までご覧ください。

総合商社のビジネスをざっくり理解

まずは総合商社がどんなビジネスを行っているのか、ざっくり把握しましょう。

総合商社の機能は大きく2つ、トレーディング機能と投資機能です。

トレーディング機能とは、一言で言えば仕入れて売る、というビジネスです。例えば、海外産の青果物を仕入れ、国内の小売店や食品メーカーに販売するイメージで、物品調達の仲介役としての機能を果たしています。販売先の需要に左右されるものの、いわば仲介手数料のビジネスであり、ローリスクローリターンのビジネスと言えるでしょう。

一方で、近年総合商社が注力している投資機能とは、言ってしまえば儲かりそうなビジネスに投資し、その利益の分配を狙うビジネスです。

総合商社各社は世界中に広がるあらゆるネットワークを活かし、投資先に自社のリソース(資金・人材・資材)を投入し、投資先が成長するように促します。投資された側としても総合商社のネットワークを分けてもらう事で、自社の商品やサービスに付加価値をつけることができます。

トレーディング機能と比較しハイリスクハイリターンである、という特徴があります。

 

そして総合商社が取り扱う領域は、資源系非資源系に分かれています。

資源系とは、石油・鉱物・LNG・石炭など有限で、人々の生活に欠かせないエネルギー資源の事です。総合商社は資源系のビジネスに投資機能を発揮して参入し、利益の一部を権益という形で利益を得ている他、インフラのような安定した側面もあります。

一方で非資源系は、資源以外のものを指します。食品・化学品・アパレル・デジタルなど様々な分野に参入しています。例えば、食料品を仕入れて売る、というトレーディングビジネスもありますし、有望アパレルブランドへ資本出資し利益配分を狙うなど、投資機能としての参入も行っています。

このように、非常に幅広く様々なものを取り扱っているため、総合商社が何をやっているのかわからない、という現象が起きています。しかし、今の総合商社を言い表すのであれば、中心は投資ビジネスです。

取り扱う物品は星の数ほどありますが、根本的には自社のリソースを投資先に投入することで、共に成長するビジネスが中心です。

さらに詳しく総合商社業界を理解したい方は、以下の記事もご覧ください。

総合商社のビジネスとは?三菱商事の強みをわかりやすく解説!バフェットが「100年後も生き残る」と称賛するワケ

ではここからは、三井物産と伊藤忠商事の特徴について解説します。

資源が強い三井物産

まず三井物産の特徴です。5大商社のセグメント別利益内訳を見てみましょう。

出典:23年3月期 各社決算会説明資料より作成

三井物産はこの中でもグラフの青の部分、資源系の割合が高いことが特徴です。さらに細かくセグメントを見てみると、資源系の金属資源とエネルギー事業が2トップであることがわかります。

出典:23年3月期 決算会説明資料より作成

金属資源セグメントでは主にオーストラリア・チリなどにおいて鉄鉱石・石炭・銅鉱山などの事業に参画しています。その歴史は古く、1950年ごろから事業を行っており、採掘した金属資源を日本をはじめとしたアジアに供給しています。

金属資源の領域で事業投資・開発やトレーディングを通じて、産業・社会に不可欠な資源、素材、製品の確保と安定供給を実現している事業です。

エネルギー事業は天然ガス・LNGや石油、石炭、原子燃料などの事業投資や物流取引を通じ、エネルギー資源の確保と安定した供給体制の確立を目指している事業です。こちらも歴史は古く、1970年からアラブ首長国連邦においてLNGプロジェクトに携わるなど、LNGの生産、輸送、マーケティングに至るまで全バリューチェーンに関与しています。オーストラリア、カタール、アブダビ、オマーン、ロシアなどにおいても、大規模LNG開発プロジェクトに出資参画しています。

一方、非資源分野での特徴は生活産業セグメントにあると考えます。

当セグメントの中にある、ウェルネス事業を通じてIHHというアジア最大の民間医療企業を保有しており、IHHを核とした病院・クリニック事業を行っていることです。

IHHではアジアを中心に世界10カ国に約80病院と約3000万人の患者データを保有しています。利益貢献度は高くないものの、他の総合商社にはない独自性と言って良いでしょう。

なぜ資源が強いのか、という疑問がありますが、資源が強いのはあくまで結果論です。東洋経済の社長インタビューによると、鉄鉱石や石炭を世界中の顧客に届けようとしたらこうなった。といった旨記載があります。

私は、戦後の1950年代から資源ビジネスに関わっているため、(一度解体されているものの)財閥として日本の資源調達を担っていた、という側面もあると考えています。

今後の戦略が…腹落ちしない

今後の戦略である中期経営計画を見てみると、大きく3つの要点があります。

  1. クリーンな低炭素社会へのLNG(液化天然ガス)や再生可能エネルギーなど次世代エネルギーとなるアンモニアや水素などへ移行するための案件を進める
  2. ヘルスケアや、病気を未然に防ぐ“未病”の分野。アジアで病院事業を手掛けているが、チャンスがある。
  3. 国内外のサプライチェーンの高機能化

これを見てあなたはどう思いますか?

私の率直な感想は、「えっ、そっち?」と言った感じです。

1の低炭素への移行は、他の総合商社でも行っています。しかし、既存の資源事業をさらに成長させる、という方向性があまり伝わってこないのです。

私はこの中期経営計画を見た時に、今の強みと将来の方向性が必ずしも一致していない、と感じました。

その理由は、次の伊藤忠商事の方が強みと戦略が合致している、と感じるからかもしれません。ここからは、伊藤忠商事を見ていきましょう。

非資源が強い伊藤忠

三井物産が資源に強いのに対し、伊藤忠商事は非資源の利益割合が高いことが特徴です。

出典:23年3月期 各社決算会説明資料より作成

伊藤忠のセグメント別利益を見ると金属セグメントの利益が大きいことがわかりますが、それ以外のセグメントもしっかりと利益を出しています。

出典:23年3月期 決算会説明資料より作成

なぜ伊藤忠は非資源分野に強いのでしょうか?

それは、伊藤忠商事の始まりは麻繊維の販売であることです。財閥系商社が国策で重厚長大(いわゆる資源など重化学工業)なビジネスをやっていたのと違い、軽薄短小な非資源分野のビジネスを通じて成長してきました。

その伝統は今でも受け継がれています。

伊藤忠商事の関連会社を見てみると、繊維セグメントにはconverse・Reebok・デサント・アンダーアーマーが、機械セグメントには国内最大手の輸入車ディーラーであるヤナセが存在しています。

また情報・金融セグメントがあることも特徴的です。このセグメントにはほけんの窓口、外為どっとコムが関連会社となります。その他にも食料セグメントでDole、evian、ロータス、スパムなどを取り扱っています。そして、ファミリーマートも伊藤忠の子会社です。

このように財閥系総合商社と違い、「え!あそこも伊藤忠なの!?」となるケースが多く、消費者との接点が多いことが大きな特徴です。

消費者との接点を活かした経営戦略

そして、伊藤忠の経営戦略を見ると

「マーケットインによる事業変革」を掲げています。マーケットインとは顧客ニーズを起点としたビジネスであり、その逆は良い商品を売るというプロダクトアウトの考え方になります。商品販売の起点が顧客主体か、商品主体か、という違いですね。

そしてこのマーケットインの事業変革、は実現可能性が高いものと考えます。

その理由は大きく2つ

  1. 消費者接点が多く顧客データを取りやすいこと
  2. 情報・金融セグメントの存在

1についてはここまで説明した通りですが、やはり主体となるのはファミリーマートのデータです。いつ、どんな人が、どんなものを買っているのか、リアルタイムで情報収集が可能です。

2については情報金融セグメントには伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)というITソリューション会社があります。すでにCTCでは金融機関向けにデジタルマーケティングサービスを展開していたり、流通業界へ向けて商品開発やラインナップの拡充などの顧客サービス向上のためのサービスを運営しています。

つまりデータ分析をすでに行っており、商品化できることがわかります。このデータを取れる環境と、外部に売り出すだけの分析力があるため、マーケットイン戦略は実現可能性が高いと感じるのです。

この中期経営計画は連結純利益6,000億円を目標としていますが、23年3月期に8,005億円で達成しています。資源バブルの恩恵もあったとはいえ、会社の強みと戦略が合致しているからこそ、計画を1年前倒しで達成できたものと考えます。

あなたはどちらに投資したい?

いかがでしたでしょうか?強みと戦略が少し噛み合っていない印象の三井物産と、噛み合っている伊藤忠商事、という比較ができたのではないでしょうか?

 

最後に実際に市場の評価を比べて見ましょう。

23年3月期の当期純利益は三井物産が1兆1,306億円、伊藤忠が8,005億円と三井物産の方が最終利益額は大きいものの、時価総額は三井物産が7兆8,115億円、伊藤忠が8兆6,614億円と、伊藤忠の方が市場の評価は高いことになります。

23年7月14日時点のPERは三井物産が8.8倍伊藤忠が10.2倍です。

ここまで解説してきたように、今後の成長性への期待と実現性がPERに反映されているものと考えます。あなたはどちらに投資したいと思いますか?

ここまでお読みいただきありがとうございました!

つばめ投資顧問では、総合商社への理解を深めるために議論が行われています。ぜひあなたも、一緒に議論し、企業への理解を深めませんか?つばめ投資顧問のサービスについても、ぜひチェックしてみてください。

執筆者

執筆者:佐々木 悠

佐々木 悠(ささき はるか)

つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。

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