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前回、前々回にわたって、適正なPER水準は企業が持つ「成長性」と「リスク」によって決まるという話をしました。今回は「リスク」の見方とバリュー株投資での使い方について話します。
リスクとは「投資家の将来への不安」である
一般的に、企業が抱える「リスク」が大きいほど、PER水準を押し下げます。そこで言うリスクとは、端的には「業績を悪化させる可能性のある事象」です。
リスクの大きさは、過去の株価の動きなどから数値で見積もる方法もありますが、株式投資ではあまり意味を持ちません。株価を決めるのは将来の出来事であり、株価の動きは過去の一側面にすぎないからです。
過去を追いかけることは、数値だけでなく、定性的に見ても難しいものです。なぜなら、リスクは実現しないことの方が圧倒的に多いからです。例えば、過去50年間に地震が全く起きなかったとして、それで地震のリスクが全くないわけではないことはわかるでしょう。
リスクを別の言葉で置き換えるなら、「投資家の不安」と言うことができます。不安があるからこそ、その銘柄が多少安くなっても買うことができないのです。
逆に言えば、適正なPER水準を考えるためには、「不安の根拠となっているリスクは何か」ということを見極める必要があります。そうすることで、本当にそれだけのリスクがあるかどうかを判断するのが投資家の仕事です。
有価証券報告書の「事業等のリスク」は繰り返し見る
リスクを見極める方法として、最も確実なのが有価証券報告書にある「事業等のリスク」に目を通し、それぞれの項目が起きる可能性について自分なりに判断することです。
あくまで一例ですが、リスクの項目に「地震」とあるならば、過去にその地域にどれだけ地震が起きたことがあるのか、その大きさはどの程度なのか、そして実際に地震が起きた時にどれだけ会社の業績に影響を与えるかというところまで考えます。
リスクは一つではありませんから、複数のリスクについて同じような分析を行います。そうは言っても全てのリスクを細かく検証することは現実的には難しいため、特に大きそうなものに絞って考えます。
最終的に、「リスクはトータルで大きい・小さい」と判断し、現在のPER水準が割高か、割安かということを考えます。これらは実際に数値で導き出せるものではなく、感覚に頼ることがほとんどです。そのため、多くの会社について同じことを繰り返し、感覚を磨く必要があります。嫌になりそうですが、間違いなく企業を見る力が付きます。
リスクは恐れるものではなく利用するもの
しかし、むやみやたらに企業を当たっていたのでは、時間がいくらあっても足りません。そこで、バリュー株投資では、リスクの考え方と投資家心理を組合せた方法を推奨しています。
その方法とは、「リスクが現実化した時にこそチャンスあり」です。
リスクは、基本的に目に見えないものです。そして、現実化したときにはじめて目に見えます。まさに投資家の不安が姿を現したと言える瞬間です。
リスクが現実化すると、投資家はいよいよ不安になります。業績は悪化し、再び同じリスクが発生するのではないかと疑心暗鬼になります。最終的に「もうこの銘柄には近寄らない」とまで思うようになり、株は大幅に売り込まれます。
しかし、リスクが現実化したからといって、将来のリスクが上昇するわけではありません。その銘柄が抱えているリスク量は、現実化する前も現実化した後も変わらないのです。
地震を例に取れば、地震が起きたことでそこから将来50年間のリスクは変わらないどころか、一度エネルギーが発散されているのでむしろリスクは下がっているとも言えます。(余震はありますが、それでも本震より小さいものです。)
つまり、リスクが現実化した後は、投資家心理の影響によりリスクが過大評価されていると言えるのです。リスクが過大評価されるということは、株価は必要以上に割安になっている可能性が高いのです。
私はこれほど美味しい場面はないと考えています。リスクが現実化して、むしろ「最悪の場面」を見積もれるためより客観的に銘柄の評価ができるにもかかわらず、株価は大きく値下がりしているのです。まさにバーゲンセールにほかなりません。
もちろん、それによって倒産してしまうような企業は論外ですが、そうでなければ優良な企業なら必ずもとに戻ってくるでしょう。そうなれば、離れていった投資家も次第に戻ってきて、株価は正常な水準にまで株価は上昇するのです。
この流れが、私が推奨するバリュー株投資の基本的な考え方です。リスクを恐れるのではなく、リスクを利用することを考えれば、株式市場の見方が全く変わってくるでしょう。
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