バフェットの師・グレアムの投資哲学は「超」保守的

前回の記事の中で、投資手法のひとつとして「ネットネット株」を挙げましたが、今回はその考案者であるベンジャミン・グレアム(1894 – 1976)について取り上げようと思います。

指標を用いた投資手法の習得は必須。しかし、その先は「アート」である。

2017.08.27

「超」保守的なネットネット株投資

ベンジャミン・グレアムは、バリュー投資の創始者と言われ、株式に「価値」の概念を持ち込んだ人です。ウォーレン・バフェットの師でもあり、数多くのバリュー投資家を世に送り出してきました。

グレアムの考え方を一言で言えば「超」保守的です。彼は株式投資の世界に身を投じて間もなく1929年の世界恐慌に見舞われました。その経験から、資産を守ることを第一に考えた投資手法を研究してきました。

「ネットネット株」はその代表的なものです。会社を一つの箱だと考えると、保有する現金や有価証券から返すべき負債を引いた分の価値は間違いなくそこに存在します。その金額よりも時価総額が低ければ、株式はどう考えても割安だという考え方です。

この方法であれば、将来の収益を予想する必要はありません。そんなことを考えるまでもなく、それだけの現金が株式という箱の中に収められているからです。

実際に、同じ期間のパフォーマンスを集計したところ、株式市場全体のパフォーマンスはプラス50%だったところ、ネットネット株はプラス75%にのぼったということです。

人気が停滞している大企業を安く買う

グレアムの投資手法は、徹底して将来の予想に対する期待を排除しています。それは、リスクと戦う上では最も有効な戦略と言えるかもしれません。

彼は優良で今後の成長性に陰りがないと見られる企業でも、安心して投資できるものではないと言います。なぜなら、それらの銘柄は相応に高い株価が付いていて、株価変動は大きくなりがちだからです。急速な成長は長続きしないとも言っています。

彼が好む銘柄は、そのような「優良成長株」よりも、一時的に人気が停滞している大企業です。一流の大企業は豊富な資産や確実な収益力を持ち、何より割安な価格が付いているためです。

人気が停滞している要因は、一時的な業績悪化や長期にわたる無関心にあると言います。そのような銘柄の将来収益や資産価値を徹底的に分析することにより、本来の価値よりも割安な銘柄を見つけ出すのです。

本来の価値と現在付いている価格との差を「安全域(Margin of Safety)」と言いますが、この考え方を持ち出したのもグレアムで、その弟子であるバフェットも「安全域が最も重要だ」と言っています。

彼は「安全域は支払う価格によって決まる」とも言いました。いくらいい銘柄であっても、高い価格で買ってしまっては利益をあげることは難しいでしょう。買う価格には徹底的にこだわる必要があります。

数多のバフェット本よりも『賢明なる投資家』を読むべし

彼が著した賢明なる投資家には、ここでは紹介しきれないほどの多くの長期投資におけるエッセンスが散りばめられています。私も何度も読み返していますが、いまだに飽きることはありません。

世の中には多くの「バフェット本」が出回っていますが、その多くはどこか薄っぺらかったり、本質的ではなかったりします。なぜなら、バフェット自身が著したものではないからです。

バフェットの投資の原点は間違いなくグレアムです。多くの投資本を読むよりも、『賢明なる投資家』を何度でも読むほうが、必ず自分のためになるでしょう。

「資産家は恐慌時に生まれる」と言いますが、グレアムはまさにそれを体現した人物と言えるでしょう。その哲学は守りを重視する投資家にとって数十年経った今でも色褪せることはありません。

※本記事は会員向けレポートの一部を抜粋したものです。

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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4 件のコメント

  • サイト訪問者限定プレゼント「株式市場の敗者になる前に読む本」を特別に無料で贈呈します。を読みたいと思い「メールアドレスを登録して、本をダウンロードしてくださいしてください」となっていたのでメールアドレスを入れる既に登録されていますとなりダウンロード出来ません。
    どうすれば良いのでしょうか。よろしくお願いします。

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