アステラスの業績の変化
2024年4月12日、アステラス製薬は下方修正を発表しました。
その内容は、
「24年3月期第4四半期において、無形資産の減損損失として700億円の費用を計上する」
というものです。結果、営業利益が前年比90%減少。当初の予想からは、営業利益約95%下方修正という、まさしく絶望的な状況です。
出典:決算短信、ニュースリリースより作成
実は、今期の下方修正は、これで4度目。毎決算ごとに下方修正が発表され、多くの投資家が失望していると言えるでしょう。
出典:決算短信、ニュースリリースより作成
アステラス製薬は次なる収益源を探す最中である
アステラス製薬の最大の課題は、
「主力の収益源が2027年に大幅に縮小する見込みであり、次なる収益源を確保すること」です。
2023年3月期の商品別売上比率を見ると「イクスタンジ」という薬が全体の約45%を占めています。
出典:統合報告書より作成
イクスタンジは、2012年に発売され、長らくアステラス製薬の最大の収益源となっています。この薬単体で、6,600億円もの売上を稼いでいます。
しかし2027年にイクスタンジの特許切れが控えており、この売上の45%相当が急減するリスクがあります。2027年以降はイクスタンジがジェネリック医薬品等に代替されると予想されることから、次なる収益源を作り出すことが急務なのです。
その次なる収益源として期待されているのが、更年期障害のための薬であるべオーザや、
出典:アステラス製薬ホームページ 個人投資家の皆様
老化に伴う視力低下や失明を引き起こす難病への医薬品のアイザーベイです。
出典:アステラス製薬ホームページ 個人投資家の皆様
これら次世代医薬品を成長させるために研究開発費などの資金を投入している状態です。
24年4月の下方修正はネガティブサプライズ
下方修正の内容を一度見てみましょう。
出典:24年4月12日発表 ニュースリリース
この内容をざっくり説明すると
- 開発中のAT808という薬の資産価値が減少し、無形資産の減損約400億円を費用計上
- 発売中のエベレンゾという医薬品が不調。無形資産の減損160億円を費用計上
- 開発中のゾルベキツシマブの開発の変更と為替の影響で80億円の費用計上
上記1と2、費用計上額が大きい2つに共通している無形資産の減損とは何でしょうか?
無形資産とは、特許権、商標権、ソフトウェア、研究開発に関する知識など、物理的な形がなく、企業活動において価値を持つ資産のことを指します。
しかし、薬の開発が成功しなかった場合や、特許の失効、競合他社による同等または優れた製品の登場などにより、無形資産の価値が下がることがあります。
この場合、会計上、無形資産の帳簿価格を現在の市場価値や回収可能価額に合わせて減額する必要があります。
この減額処理を費用計上することを無形資産の減損といいます。
今回の下方修正について上記以上の説明はないのですが、より簡単に説明すると
- 開発中のAT808の研究がうまくいかず、費用計上
- エベレンゾが市場にうまく適合できず価値が減少したことによる費用計上
という内容になるのです。
下方修正と経営課題の関係は?
先ほどアステラスの経営課題は、「次なる収益源を確立すること」と説明しました。
実は、次なる収益源の候補となる研究開発が決算説明資料に列挙されています。
出典:アステラス製薬 24年3月期第3四半期決算説明資料
全てを列挙しているわけではない、と注意書きがありますが、ここに今回の下方修正の原因となったAT808についての記載はありません。
したがって、AT808は研究の初期段階だったのか、決算資料に載せるほどの期待はなかったのか、隠し球的存在だったのか、
とにかく、今後の成長を考える上では見かけない名前でした。
そしてもう一方のエベレンゾは、実は2年連続で下方修正の要因となっています。
出典:23年4月11日発表 ニュースリリース
この現状を考えるとエベレンゾは、そもそも収益貢献できていない医薬品と考えることができるでしょう。
したがって、今回の下方修正は
「利益に対して大きなインパクトを与えていることは間違いないものの、今後の成長期待が大きかった医薬品が失敗しているわけではない」と考えることもできそうです。
アステラス製薬は買いか?売りか?
出典:株探
今回の下方修正を受けて、24年4月15日の終値は前日比約8%下落しました。
私の感想を正直に言えば、もっと下落する(ストップ安くらい)のではないかと考えていましたが、思ったよりも下がりませんでした。
その要因を考えると、先に述べた通り
成長ドライバーに位置付けられているべオーザやアイザーベイに関する発表ではなかったことや、発表のタイミングも関係しているかと思います。
発表のタイミングというのは、下方修正を発表した24年4月は、すでに25年3月期の期間に入っています。
現在の投資家の関心は、
「今期が上がる・下がるよりも、25年3月期の決算予想がどうなるか?」です。
今回の下方修正を超ポジティブに捉えるのならば、
「損失約700億円が、24年3月期に計上されたことはある意味ラッキー」と言えるかもしれません。
一方で、昨年の4月にも23年3月期の下方修正を発表し、24年4月には営業利益が前期比+16%となる予想でしたが、蓋を開ければマイナス90%です。
今回の下方修正を無理にポジティブに捉え、来期もまた業績が落ち込むようでは、あなたの投資も大変厳しい状況になるかもしれません。
アステラスの現状は、次なる収益源を確保するために様々な医薬品の研究開発や広告宣伝へ投資しています。こういった投資が回収でき、イクスタンジの次なる収益源が確保されれば今後の成長に期待できます。
一方で、これが実現できなければ、次なる医薬品を作成するために投資を継続する必要がありいつまで経っても利益が成長しない未来も想定されます。
今回の下方修正は、必要投資の一部において想定外の費用(無形資産の減損等)が発生したため発表されたと言えるでしょう。アステラス製薬は今回の減損に屈することなく、次なる医薬品を創薬、拡大させるために投資を継続する必要があります。
こういった現状を理解し、アステラス製薬の未来に期待するのであれば投資(ホールド)するべきです。しかし、製薬メーカーのビジネスのリスク(投資を継続しなければいけない)に耐えられないのであれば投資しない、あるいは手放すという選択になりそうです。
また、24年4月15日終値現在の配当利回りは、4.84%と高水準であるものの、今期の最終利益予想は30億円であるのに対し、配当金捻出のために必要な資金は1,000億円を超えます。
つまり最終利益を上回る配当を出す、いわゆるタコ配です。
(昨年の配当性向は116%ですが、今期はそれを大幅に上回る見込みです)
今期と同じような不調がどこまで続くのかわかりませんが、かなり無理をして配当金を出している状態です。したがって高い配当に期待して投資をすることは、あまりお勧めできません。
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執筆者
佐々木 悠(ささき はるか)
つばめ投資顧問 アナリスト 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。
協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。
銀行勤務時は投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。
2022年につばめ投資顧問へ入社。
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