【紅麹問題】それでも小林製薬の株価はなぜ暴落しないのか

今回は小林製薬を改めて取り上げます。

前回、小林製薬を取り上げてから約3ヶ月が経ちましたが、そこからの進捗と、今何が起こっているのかを示していきたいと思います。

【前回の記事はこちら】

紅麹問題の現状

小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」というサプリメントを飲んだ人たちが腎臓の障害を訴えているという話でした。
特定の時期に工場で製造された商品を飲んだ人から健康被害が出ているということで、第一報の頃にはこれが原因で5名の方が亡くなられたと報道されました。

その後、多くの被害情報が寄せられ、今では170例の死亡例が集まっているということです。

出典:小林製薬

しかし、小林製薬が調査を行ったところ、170例のうち、91例はそもそも紅麹コレステヘルプを摂取していないということです。
残りの79例の中の3例は因果関係が否定され、あとは調査中となっています。

 

厚生労働大臣としては、小林製薬からの報告が遅いということでご立腹のようです。

 

小林製薬の肩を持つわけではありませんが、安易に報告や公表をすることも避けるべきだと思います。
というのも、最初の5例に関する調査状況が以下のようになっているからです。

出典:小林製薬

後に寄せられた170例中のうちの91例も然りですが、中にはそもそも紅麹コレステヘルプを飲んでいなかったというものもかなり含まれているということです。

明らかに関連があるという例が未だ無い状況で、厚生労働省が小林製薬に責任を負わせるというのも疑問があります。

 

紅麹コレステヘルプは”機能性食品”といって、医薬品でも特定保健用食品でもなく、特定の機能(コレステロールを下げる機能)があると謳ってよい商品ということになっています。

元々、健康への効能は薬機法で厳しく制限されていましたが、特定保健用食品や機能性食品によってだいぶ緩和されてきました。
そもそも機能性食品に関しては厚生労働省の管轄ですらなく、消費者庁への届出で足りるということです。

 

これは個人的な考えですが、小林製薬ももちろんもっと慎重にやるべきだったとは思いますが、行政としても審査が緩くなっていた部分があり、小林製薬の責任にしてしまおうとしているのではないかと勘繰ってしまいます。

 

紅麴コレステヘルプの中から「プベルル酸」という想定外の物質が見つかったということですが、プベルル酸自体が死亡の原因になることはおそらくないそうです。

一方で腎臓に障害が出た人がいることも事実なのですが、これは紅麴コレステヘルプの主成分として含まれる「モナコリン」という物資が、コレステロールを下げる効果があるものの、副作用として腎機能障害を起こす可能性があるということです。

モナコリンはアメリカでは「医薬品」として厳しく管理されているのですが、日本では医薬品に指定されておらず、小林製薬は機能性食品として売り出していました。

健康被害が腎機能障害だということを考えると、このモナコリンの量に問題があったのではないかという印象がぬぐえません。

小林製薬としては、規制されているものではないので法律に違反しているわけではなく、しかし厚生労働省や行政側としては、認可したものが問題を引き起こしたということで、責任は認可した行政側にあるのではないかと思えてしまいます。

厚生労働省は、プベルル酸以外の物質も検出されたという話もしていますが、これは論点ずらしのようにも感じられます。
認可していない成分が入っていたのであれば小林製薬に責任を負わせることもできそうですが、認可したものが原因となると行政の問題となってしまうからです。

小林製薬は悪い企業ではない

私が行政の思惑を勘繰ってしまう理由は、企業分析をする中で小林製薬が悪い企業には見えないからです。

 

小林製薬は、「のどぬ~るスプレー」や「熱さまシート」など、非常になじみ深い商品を多く販売しています。

どういった分野においても、その分野のトップがいて、大手には弱小企業はなかなか太刀打ちできないのですが、小林製薬は的を小さくすることで”勝てる領域”を見つけてきました。

例えば、「風邪」の薬の場合、風邪薬だと大手に勝てないので、「のどぬ~るスプレー」ということでのどの痛みに特化した商品を作りました。

狭い分野に特化することによって、その分野でトップを取ることによって高い利益率を生み出そうという、”小さな池の大きな魚戦略”です。
当然、小さな池なのでどんどん新しい商品を生み出していかないと会社として成長するのは難しく、小林製薬としては新しいアイデアを生み出していかなければならないということになります。

これが、会社のキャッチコピーの『あったらいいなをカタチにする』につながります。

 

出典:マネックス証券

業績を見ると、基本的に横ばいですがある時急に伸びたりしています。
要因はいろいろありますが、一つはヒット商品が生まれた時に大きく業績が伸びることになります。

足元では横ばいの業績が続いているように見えますが、ここから新たなヒット商品が生まれればまた伸びる可能性があると思います。

 

ヒット商品を生み出す原動力となるのが”人材”です。
いかにして優秀で意欲を持った人材を集めるかということが小林製薬が今後も成長していけるかどうかの肝になります。

転職サイト「OpenWork」にはその企業に在籍していた(している)人の評価が掲載されているのですが、小林製薬の評価は3.73となっていて、これはOpenWorkに掲載されている企業の上位2%に入るということです。
つまり、社員から愛されている会社だということが読み取れるわけです。

 

また、小林製薬は同族経営となっていて、基本的には社長が全て最終決裁となるといいますが、社長が責任感を持ってやり遂げるという意味では同族経営だからこそ為せることだとも言えます。

今回の紅麹コレステヘルプの問題においても、社長が矢面に立って対応している点は評価ができると思います。

 

今、小林製薬は海外にどんどん進出しています。

特に台湾や中国で小林製薬の商品は人気があります。

日本の消費財メーカーが東アジアや東南アジアに進出することは一つの勝ちパターンとなっていて、小林製薬もそれを行っていることは前向きに捉えられる戦略です。

実際に、少しずつではありますが、海外売上比率も伸びてきています。

 

出典:マネックス証券

株価を見てみると、小林製薬はコロナ禍で調子が良かった企業です。
業績がそこまで伸びているわけではないのでそこから落ちて、今回の問題を受けてまた落ちています。

しかし、問題が発覚した直後こそ株価は下落しましたが、そこから上がって、大きく落ちることなくきています。

 

業績予想を取り下げたので、PERは表示されませんが、過去の業績から算出すると今のPERは約19倍となり、決して低くはない水準です。
これほど問題があったにもかかわらず株価がそこまで下がっていないのは、小林製薬に対する信頼がかなりあるのではないかと思われます。
世の中の風当たりは強いですが、株式市場は小林製薬を理解しているように感じます。

投資家に求められる視点

企業というものは、基本的にはがんばって良い商品を作ったり、配当や業績の向上によって株主に還元しようと考えているものです。

問題が起こった時に、悪いことをしようとしたわけではないのであれば、努力を見てあげたいと思います。

企業を、”がんばっている主体”として見守ることが、私たち投資家に求められる視点なのではないかと思います。


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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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3 件のコメント

  • 私は 小林製薬を 応援しています。ドトールコーヒーも応援しています。真面目な企業が好きです。栫井さん このような 分析を 待っています。ありがとうございます。

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