「お客様第一」が会社を滅ぼす ~日本企業に必要な「上から目線」~

日本企業の多くは「お客様第一」を掲げ、顧客の要望に対して一つ一つ丁寧に応えようとします。消費者としてはありがたい話ですが、それが必ずしも企業の成長や利益に繋がっているとは限りません

「お客様第一」が会社を滅ぼす

例として宅配業界を挙げます。日本の宅配便は他国に例を見ないきめ細やかさがあり、2時間単位の時間指定や再配達を追加料金なしで行うことができます。

インターネット通販の普及による荷物の急増で配送網がパンクし、現場の配達員は悲鳴をあげています。そんな中でも細かな時間指定や再配達に対応することで、自分で自分の首を絞める結果になっているのです。しかも、値上げや再配達等への課金を行わないため、利益もなかなか増えません。

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2017.12.13

それどころか、顧客である消費者は宅配業者の善意をいいことに何度も再配達させたり、通販業者は規模に物を言わせて料金を引き下げようとしてきます。これを続けていたのでは、いつまで経っても明るい兆しは見えません

同じように、スーパーマーケットでは、安さを求める消費者が離れてしまうことを恐れて、「他店よりも1円でも安く」を掲げて価格競争に励んでいます。しかし、全国どこのスーパーもほとんどが赤字寸前であり、価格戦略は必ずしも功を奏していないように思えます。

ボタンのない携帯なんて誰も欲しがらなかった

一方で、成長している企業が行っていることは、「顧客の要望に応える」のではなく、「顧客のニーズを生み出す」ことです。

アップルを例に出すとわかりやすいでしょう。それまで携帯電話にはいくつものボタンが付いていて、それがないと操作できないと思われていました。アップルが最初にiPhoneを出した時は、ボタンのない端末なんて使いにくいと考えられ、顧客は求めていませんでした。

しかし、今となってはボタンのないスマートフォンが当たり前であり、多くのボタンがある端末は絶滅危惧種です。タッチパネル式のスマートフォンを生み出したのはスティーブ・ジョブズのこだわりであり、決して顧客に媚を売ったことはありません。ヒット商品は、顧客の要望に全て応えることで生まれるわけではないのです。

タッチパネルと同時にアップルが顧客に提案したのが、iPhoneの洗練されたイメージです。巧みな広告を打ち、ものすごくおしゃれな使い方をユーザーに提案しました。そのことが多くの「アップル信者」を生み、彼らはどんなに高い商品でも繰り返し購入する優良顧客になりました。

アップルは、顧客のニーズに応え続けたから成長できたのではなく、顧客のニーズを掘り起こしたからこそ成長したのです。日本企業が学ぶべきことはまだまだたくさんあると考えます。

サービスには適正な対価を

もちろん、顧客の声に真摯に耳を傾けることは企業の存続においてなくてはならないことです。しかし、企業が対応できることには限界があります。追加的なコストがかかるサービスをするならば、その対価を顧客に支払ってもらうべきなのです。そうでなければ経営は成り立ちません。

宅配業者の例で言えば、業界はすでに寡占状態であり、仮に値上げや再配達の料金徴収などを行なっても、今更顧客離れに繋がる可能性は低いと考えます。

アマゾンは、現在プライム会員で映画や音楽を見放題・聴き放題としていますが、これを手放せなくなってきた頃に、プライム会員の料金を値上げするでしょう。実際に、アメリカのアマゾンではすでにプライム会員料金の値上げが行われています。

このように、まず顧客のニーズを掘り起こし、それを体験させた上で適正な対価を支払ってもらうことが、成長している企業に共通する戦略だと考えます。

顧客に聞けば「安くていいものが欲しい」と答えるのは当たり前です。それにいちいち応えていては、その企業は身を滅ぼすだけでしょう。顧客に聞くのではなく、「この商品はどうですか」と提案することが、企業が本来すべきことです。

経営学者のドラッカーは、企業の役割はマーケティングとイノベーションである」と定義しました。マーケティングとは顧客の需要を満たすことであり、イノベーションとは潜在的なニーズを掘り起こすことです。今の日本企業に求められているのはまさにイノベーションと言えるでしょう。

※本記事は会員向けレポートの一部を抜粋したものです。

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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